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2006-03-29 [Wed]

精神科薬広告図像集番外編 Gg[ubN}[N

 精神科薬広告図像集に、1件追加。第3室の下の方、最新の抗精神病薬エビリファイの広告です。道の彼方に雲が湧いていて、何か不吉なものが待ち受けているような気がするのは私だけか。なんとなく『ターミネーター2』のエンディングを思いだしましたよ。

 

 さて、今回は番外編として、最近のアメリカとイギリスの精神医学雑誌に載っていた広告を紹介してみよう。最近の日本の薬の広告はあたりさわりのないイメージを追求するあまり、イラストだの動物だのが多くて、まったく印象が薄いものばかりだが、海外の広告はそれとはまったく違うのに驚かされる。ドラマ性が強いのだ。

 

zyprexa zyprexa  まず紹介するのは、日本でも発売されているジプレキサという抗精神病薬の広告(クリックで拡大)。

コピーを訳すとこうなる。

私は尊厳のために戦う

 

統合失調症であるということは、戦争のさなかにいるようなものだ。

戦場は私の心。

毎日、私は戦っている。

見られているように感じずに人々の間ですごすために。

受け入れられるために。

快適でいるために。

私であるために。

病から解放されることはないだろう。

しかし今日――少なくとも今日は――私は戦っている。

私は娘とすごすあと一日のために戦う

 

私は躁うつ病だ。

でも病に支配されるつもりはない。

残りの人生を病と戦わねばならないというのなら

私の医者と、家族と、友達の助けを借りて

戦ってみせる。

なぜなら、私は娘にとっていちばん大切な人だから。

そして、彼女の母であるということは、私にとっていちばん大切なことだから。

 実に力強くて印象的なのだけれども、これはちょっと日本ではありえない広告だろう。まず、「病から解放されることはないだろう」「残りの人生を病と戦う」とはっきり言い切ってしまっているのに驚く。日本ならこのへんはぼかすか、もっと楽観的な見通しを書くところだ。

 さらに、日本では、特に精神障害の場合はその人と病とが同一視されてしまうことが多いけれど(たとえば、糖尿病者とは言わないが、精神障害者とは普通にいう)、この広告では、病を戦う対象としてはっきりと客体化し、普通のモデルを使うことにより、精神障害を持っている普通の人、というイメージを強調している。このあたりが、いかにもアメリカ的だ。

 

zyprexa zyprexa  続いて、セロクエル。これも日本でも発売されている抗精神病薬。日本ではわりとマイルドな効き目の薬というイメージがある薬だけれど、アメリカの広告はおどろおどろしい電波塔。コピーは「息子は自分の考えが盗まれていると言っています。彼は脅えています。助けて下さい」。実にわかりやすい。

 もう一枚の広告のコピーは、「夫は、ゴルフクラブを何百本も買ってきました。夫はいつも、その中にオープンで勝てる一本があるんだと言いつづけています。もう絶望しました。助けて下さい」

 

zyprexa  最後は、日本では未発売のアルツハイマー病治療薬Reminylの広告。手を握って見つめ合う老夫婦。しかし夫の体はすでに消えかけている。そして中央に書かれたコピーは「できるだけ長くいっしょにいられるように下さい」。なんとも切ない広告である。

 

 というように、あたりさわりのない表現ばかりの最近の日本の薬の広告に比べると、英米の広告は、ヴィジュアルもコピーも、わかりやすくて印象に残る表現が多いのが特徴。広告としての質は雲泥の差といっていいんじゃないだろうか。実際のところ、これをそのまま日本で使うのは難しいだろうけれど、日本の製薬会社にも、これくらい印象的な広告を作ってもらいたいものである。

Tags: web
本日のツッコミ(全21件) [ツッコミを入れる]
_ 三十郎 (2006-03-30 [Thu] 07:27)

セロクエルの右の広告の"The Open"は全英オープンの事ですね。一番権威のあるゴルフのメジャー競技です。<br>ゴルフをやっていると、こういう状態の一歩手前まで行くんじゃないか、っていうのは有りますね。小金を貯めてはクラブを買足し、今度こそ…と。

_ 狂接輿 (2006-03-30 [Thu] 09:51)

コレ、米英のは広告の客体が患者ですよね。<br>日本のは(おそらく)客体がお医者様なんじゃないでしょうか。<br>よく分かりませんが、医師の処方箋が無いと買えない買えるの違いが反映してるような気がします。

_ Bar (2006-03-30 [Thu] 10:27)

でも、こういう考え方のほんの一部でも、日本の社会に浸透してくれたら、とてもすてきな社会になるでしょうね。

_ GROBDA (2006-03-30 [Thu] 13:14)

「病」という言葉の捕らえ方が日本と違うのかな、と感じました。<br>(今までの)日本における「病」とは、元々健康な体に取り付いて体調精神の不調を引き起こすものであり、適切な時期に適切な対処を行うことで治る可能性のあるもの、という認識であるように思います。<br>病気であることは悪いこと、病気とは治るもの、という認識が日本人の中にあるように思います。<br><br>ただこの定義だと、特に精神系に多い何とか症候群というものが「病」として定義できないのですよね。<br>なので、「精神病」が「統合失調症」に言い換えられたり。<br><br>健康とはなんなのか、病とはなんなのか、ということをみんながもう少し真剣に考えられたら、いつか日本でもこういう広告が見られるようになるのかな、と思います。

_ 精神科医研究家 (2006-03-30 [Thu] 20:38)

読んでほっとしました。<br>カウンセラーでさえ、精神科っていう所にビビッてるみたいな妄想を持っていたり、本にまで、「そういう人は別にして」と一行で簡単に怪決してあったりすることが多すぎるので。

_ kazano (2006-03-30 [Thu] 21:41)

>>三十郎さん<br>"The Open"だけで全英オープンのことなんですね。ゴルフはぜんぜんやらないのでぴんと来ませんでした。<br>>>狂接輿さん<br>載っているのは医者が読む専門誌なんですが、確かに患者視点の広告ですね。<br>>>Barさん、GROBDAさん<br>まあ、英米は英米で商業主義的すぎたりいろいろ問題はあるようですが、日本とはだいぶ考え方が違うことは広告からも読み取れるところです。

_ wakaba (2006-03-31 [Fri] 05:06)

薬が、逆に人間の尊厳を奪ったりして。<br>こんな副作用があります。なんて広告は作るわけないですね。

_ kiji (2006-03-31 [Fri] 12:17)

病気を客体として対象化するか、人格の一部にとらえるか。<br>あちらとこちらの違いについて、考えさせられます。<br>いま、母が松沢病院で入院中ですが、私以外の家族は全員、彼女の性格なんだから、強制入院なんてさせる必要はない、と大反対し、入院に至るまで家族内が分裂してひどい揉め合いになってしまいました。<br>病気なのは母なのに、こちらが病気になる寸前でした。<br>英米的な、精神の病気を客体化する見方がメジャーになれば、このような不毛さは生じないのだろうか、などと考えます。

_ Bar (2006-04-01 [Sat] 20:54)

>こんな副作用があります。なんて広告は作るわけないですね。<br><br>口が渇いたり便秘になるくらいでも人間の尊厳を奪うことになるのかしらん。ぼくはくすりを飲んで大切な人との時間を心穏やかに暮らせるなら、そのほうが尊厳の保護につながるとおもうな。<br><br>いや、言い争ってるわけじゃないんだけど。<br><br>kijiさんの話なんか聞くと、このあたりの問題は百人百様なんだろうなと思う。せめてみんなで話し合って、世間の認知をもっと深められる場所があるといいな。

_ のぞみ (2006-04-01 [Sat] 22:25)

薬っていうのをどうとらえるのかっていうのがあると思います。<br>病気とは、病気が治る、回復するというのはどういうことなのか。<br>何のために薬を使うのかとか。<br><br>広告というのは商業ベースに載ってしまうところがあるので、逆に期待をあおっているところがあるようにも思ってしまいます。

_ wakaba (2006-04-02 [Sun] 00:28)

認知症でも、大量投薬なしで暮らせる人もいるそうですし、お医者さんでも、投薬に反対派の人もいるでしょう。<br>医者はよくわかってるはずじゃないの??<br>むしろ、患者に主体性を持てなんて、医者の限界を認めた・・ということだと解釈しました。<br>入院していた、患者さんたちを見てたら、主体性を持ってなんてとても言えません。<br>認知症の人が、薬の話を医者とできるんですかい。<br>重い薬を与えて、動かなくなったら、周囲は楽なだけじゃにですか??<br>私は言い争ってます(笑)>ステキな社会コメントの人に向かってではないですよ。<br>薬を飲んだら、治ると思わせるだけの広告だと思います。<br>何でも、アメリカに倣えは、もう古いですよ。

_ wakaba (2006-04-02 [Sun] 00:51)

追加)<br>私は、当たりさわりのない広告のほうが好きですね。<br>そんな、広告、病院の待合に張ってあったら、腹立ちます。

_ Bar (2006-04-02 [Sun] 01:05)

>wakabaさん<br>うーん。ぼくは抗うつ剤+抗不安薬を服用し続けて3年目になるのですが、<br>>薬を飲んだら、治ると思わせるだけの広告だと思います<br>ぼく自身、薬を飲んで一撃で治るなどとは思っていないです。じゃあ、なぜ飲んでいるのかというと、それで症状をコントロールすることが症状との“戦い”の助けになっているからです。<br><br>そういう経験からすると、くだんの広告が「この薬を飲めば治る」ではなく「戦いたい人の手助けをしたい」というコピーなのだということがピンときます。実際、「飲めば治る」とはひとことも書いてないでしょ? むしろ「解放されることはないだろう」とまで言っちゃってます。ある意味、達観していない患者にとってはつらい現実を直視させる文面です。<br><br>ぼくは自分の“気分障害”は、もう一生治ることはないと覚悟しています。ただ、うまくつきあってのんびり生きていきたいと思ってます。でも、ほかの患者さんはあんまりそういうふうには思ってないみたいです。-100から+100に思いっきり方向転換したい、完全に治したい、治したい…と思ってるみたい。それで怪しげな民間療法にはまったり、焦りで失敗を繰り返してさらに悪化する…そんな人がとっても多い。社会の心の病への偏見が、それをさらに助長させてます。<br><br>もうちょっとこのテの病気への社会の理解がすすめば、この広告のコピーみたいな生き方で楽に生きていける患者が増えるだろうし、こういうコピーみたいな考え方が日本に紹介されれば社会の認知度も上がるだろう。そんなことを感じたんです。<br><br>でも、まあ、あきらめてますが;) どうでしょ。

_ wakaba (2006-04-02 [Sun] 03:08)

>Barさんへ<br>Barさんへ、どうのこうのじゃないんですが・・・。<br>そうやって、達観できて、ある意味、すごいですね。<br>そうやって思うまで、つらかったんじじゃないでしょうか?<br>治したいと思って来るんですよね。<br>そして、「薬飲めばよくなるんじゃないか?」と思うんですよね。<br>そして、失望していても、医者にはほとんどの人は言わないじゃないですか。裏では言いますけど。<br>今回、やっぱり、医者と患者との距離は遠いんだな・・と感じました。<br>ここに、こういう風に紹介することで、むしろ、精神科がどういうところか、知らない人が、勘違いするんじゃないかと・・・。<br>患者は戦っていないんですか??主体的じゃないんですか??<br>私も、感情論ですけど・・広告打つ人は、見る人の感情を考慮するんじゃないでしょうか??<br>日本の広告は、あれで正しいですよ。<br>あきらめているのを知っているから、ああいう広告なんだろうと思います。<br>症状を訴えれば、医者は簡単に薬を出すんですから。<br>確固たる診断基準がないんですよ。<br>日本の医薬品の広告部が、がんばることじゃないですよ。<br>私は、以前、通院やら入院やらしてましたから、よくわかりますが・・・。<br>患者は、病院に「医者も戦え!!」なんて広告張ったらいいんですかね。

_ wakaba (2006-04-02 [Sun] 03:17)

何度も書いてすいませんが、こういう広告が「茶番」に思えるのですよ。だからです。

_ Bar (2006-04-02 [Sun] 04:22)

>wakabaさん<br>なんもすごかないです(笑)<br><br>広告が多少なりとも茶番なのはしかたないなー、と思います。嘘くささを感じるのは正常だし、世の中を生きていくうえで必要なスキルでしょう。少なからぬ人がそのスキルを身につけていない現実もあるわけで、そういうなかでwakabaさんのような人が存在して警鐘を鳴らす必要性もあると思います。<br><br>でも、この広告については見た患者なり、一般人なり、医者なりの意識に訴えるものがある気がしますー。少なくともぼくの周りの社会は、へたをすれば患者を座敷牢に閉じこめておくようなレベルですけど、それじゃやっぱりぼくはしあわせになりづらい。こういう訴えかけで現実を表に噴出させてくれたら、なにかが変わるんじゃないかなー。なんてイメージなんですよ。<br><br>>日本の広告は、あれで正しいですよ。 <br>>あきらめているのを知っているから、ああいう広告なんだろうと思います。<br><br>なんかwakabaさんが溜め込まれているきもちはわかるような気がします。<br><br>>治したいと思って来るんですよね。 そして、「薬飲めばよくなるんじゃないか?」と思うんですよね。<br><br>ぼくはもともと多少の知識があったので、心臓神経症的な症状が出たときに抗不安薬をもらいに医者に行きました。効果がわかりやすい薬なので、かえって医師を信頼する手がかりになりました。<br><br>抗うつ剤のほうは効果が見えにくいですよねー。たしかに多くの人は失望するんだろうな。ただでさえ「半年で治る」なんて本に書いてありますし。<br><br>まあ、そういう意味では「“長いつきあいになるよ”って真実」を曲げる表現は、避けた方がいいのかもしれませんね。<br><br>世の中、かわるといいですねー。なんて、このあいだようやっと自立支援法の切り替え手続きを終えたばかりでひいこら言いつつ思ってます。

_ chiruru (2006-04-02 [Sun] 10:55)

ほぼBarさんに同感です。<br>「治って元に戻る」のはたぶん不可能です。<br>それでも、社会と折り合いをつけて何とかやっていくことは可能です。お薬や医師はそのお手伝いをするだけです。みなさん、ご自分についての「治るとは何か、考えて見られたほうがいいんじゃないかという気が…。<br><br>そういうわたしには、手帳がそろそろやってきます。

_ Bar (2006-04-03 [Mon] 22:08)

お、chiruruさんだ。マターリ生きましょう

_ 薬の怖さ (2006-04-05 [Wed] 00:16)

精神科薬図集に出ていたかわせみの絵が描いてある広告のお薬、<br>とてもそんな穏やかな薬じゃないですよ。逆行性健忘は出るは、<br>短時間ですっきり目覚めるから依存性は強いは、知り合いの人は<br>飲んだあときずいたら、入院先から知らないうちに自宅へ帰って寝ていたといいます。ほんとにお医者さんには、上手にお薬を使っていただきたいものと思います。

_ j-ehara (2006-04-11 [Tue] 01:11)

>最新の抗精神病薬エビリファイ<br>『エビフリャイ』に見えてしまった…

_ たか (2017-12-23 [Sat] 01:32)

「この事実は広めないと・・・ 本当に信じられないような内容」でYOUTUBEで検索すると分かりやすい出てきます。<br>精神科学は眉唾ということが分かってきました。<br>精神科医が科学として認められたかったからさも科学的なものとして<br>認められたくて作られたエセ科学が精神科学です。<br>金儲けのためにもやられています。この辺りは抗癌剤やワクチンが害しか無いという部分と似ています。<br>医療マフィアの金儲けのためにやられているんでしょう。<br>今はDSMというものによってどんどん偽の病名が作られて追加されていっているようです。<br>是非動画を見てみてください。<br>おそらく思考盗聴のことを統合失調症という病を作り誤魔化してしまおうとしていたのでしょう。<br>それがおそらくGwenTower(Gwen塔)の図の薬の広告でしょう。

本日のTrackBacks(全4件) []
_ 月ラジヲ:[保健室][保健室]川崎小3男児・殺人事件 (2006-04-03 [Mon] 17:30)

今日ワイドショーを見ていて・・・ピンときたんですが、 この今井容疑者って、病院へ通院中だったそうです。 テレビでは、何の病院か、言っていなかったんですが。

_ 月ラジヲ:[保健室][てれび]抗うつ薬の副作用について (2006-04-04 [Tue] 22:10)

全家連のHPから、探しました。郁さん。ありがとう。 私は、真実が知りたいと、神様に祈ったので・・・かなえられたのかも?? 「うつ」が危険な病気なのは、「自殺」という命の危険があるから。 ひところはやった、「うつ」になったら病院へ行きましょう・・・という本た..

_ かずとありの二人言 (2006-04-11 [Tue] 21:26)

人間で言う水分が、ありちゃんでは生クリームってことだな。
しつこいようだけど、当たっている、当たって以内の感覚が血液型診断に似てるでしょ?

で、今回は重めの内容。
精神科

_ 走れ小心者 in Disguise!:同病相哀れむどころじゃないな… (2006-04-13 [Thu] 21:48)

「サイコドクターぶらり旅」3/29付けより、抗精神病薬「ジプレキサ」のアメリカ版広告コピー。 (引用ここから) 私は尊厳のために戦う 統合失調症であるということは、戦争のさなかにいるようなものだ。 戦場は私の心。 毎日、私は戦っている。 見られているように..