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朝日新聞の書評で、池上冬樹が石田衣良のSF小説『ブルータワー』を取り上げているのだけれど、
とりわけラストがいい。女性の肉体を使った“行為”が何とも官能的に、でも世界救済の崇高な意識に貫かれていて素晴らしく感動的だ。
石田衣良という作家の潜在的な力の凄(すご)さを改めて見せつける作品だ。
と手放しの絶賛ぶり。この作品、私もSFマガジンの書評で取り上げたのだけれど、評価は正反対。あまりにもご都合主義なストーリー展開には頭をかかえたし(現在でも未来でも主人公は若い女の子にモテモテだし、未来世界に飛んだらいきなり吟遊詩人が出てきて「あなたは伝説に歌われた王子です」なんて言い出すのだ)、9・11後の複雑な世界状況を、塔の上と下の争いに単純化してしまえる無神経さには首を傾げるしかなかったのだ。池上冬樹が感動しているラストについても、SFマガジンの私の書評では、
特にラストで世界を救う方法なんて、いかにもスペオペらしいチープさと怪しげなハッタリに満ちていて抱腹絶倒。
とまったく逆の評価(スペオペを持ち出しているのは、作者があとがきで、ハミルトンの『スターキング』を意識したと述べているから)。私の読み方としては「チープで笑える願望充足冒険SF」というところなのだけれども、池上氏にとっては感動的な作品であったらしい。
大森望さんも、日記(10月24日)で
「とりわけラストがいい。女性の肉体を使った"行為"が何とも官能的に、でも世界救済の崇高な意識に貫かれていて素晴らしく感動的だ」
ってマジですか? あれ、笑うとこじゃないの? あそこで感動しなきゃいけなかったのか!? 茫然。
と書いており、だいたい私と似たような評価のよう。実際SFファンなら笑うしかないようなシーンなのですよ。
池上冬樹は、さきの書評で荻原浩『僕たちの戦争』にも触れ、
不満は、物語の面白さが優先されて、戦争のテーマが薄まっている点だろうか。
と書いていて、これまた私の評価とは逆。これもSFマガジンで取り上げた作品なのだけれど、私は「ありがちな社会批判や政治性はほとんどなく、どちらの側に対してもニュートラルな視線が貫かれている」ところを評価したのだった。
もちろん私は自分の評価を変えるつもりはないのだけれど、これは一般紙とジャンル専門誌という性格の違いからなのか、それとも、SFファンの価値観が一般の読書家の価値観から解離してしまっている、ということなのか。果たして、一般の価値観から遊離し、閉じてしまっているSFファンに未来はあるのか……(と不安を感じて2chで『ブルータワー』の評判をみて、ちょっと安心しましたが)。
>2001年1月から2002年10月まで、1年10ヵ月にわたり
>『電気新聞』に連載された銀林みのるの小説『クレシェンド』。
『クレシェンド』の内容知ってる人教えてくれ
という書き込みを2ちゃんSF板のファンタジーノベル大賞スレで見つけ、矢も楯もたまらず国会図書館に行ってみた。銀林みのるは、ファンタジーノベル大賞を受賞した『鉄塔 武蔵野線』以来、まったく音沙汰のない幻の作家。その銀林みのるが新作長篇を書いていたとは!
新聞室で縮刷版を探してみたら、おお、確かに載っている! ただし2ちゃん情報とは年が1年違っていて、銀林みのるの長篇『クレシェンド』は業界紙「電気新聞」に、2002年1月21日から2003年10月31日にわたって連載された作品。「電気新聞」じゃ、さすがに気づかないよ。鉄塔つながりで電気? 最初は全部コピーしようかと思ったものの、コピー代を考えて断念。閲覧室で読むことにしたのだけれど、読んでいるうちに閉館時間になってしまい残念ながら今日のところは途中まで。
主人公は建築設計事務所に勤める20代の安田高行という男。恋人涼子と別れ絶望的になっていた彼は、その翌日、職場の後輩の夏美からデートに誘われる。安田が設計した東屋のあるホテルで結ばれる二人。一方、安田の同僚であり大学時代からの友人である北岡のまわりでは、ささやかではあるが、何かの意思を持ったかのような不思議な偶然が重なっていた(100円落としたら自動販売機から100円余計におつりが出てくるとか)。そんなとき、安田はクライアントの会社で、大学時代の知り合いである水上菜穂と再会。菜穂は、安田の設計したホテルの東屋を、北岡のアイディアの盗作だと非難するが、安田には身に覚えがない。数日後、夏美との食事中、安田は東屋の壁が崩落し、たまたま下にいた涼子が怪我をしたとの知らせを受ける。ホテルには北岡も居合わせており、北岡の飲んでいたワイングラスが突然割れた直後に壁が壊れたという……。
奇妙な偶然が重なる展開に、さてどうなるのかと思っていたら、いきなり物語はがらりと一変し、湖の別荘地を舞台にした、北岡と菜穂の少年時代の物語が始まる。どうやら、『鉄塔 武蔵野線』とはまったく違ったタイプの、過去と現在とがからみあう(実は読んだ部分までだと、まだからみあうところまで行っていないのだけれど)、ファンタジーとも普通小説ともつかない不思議な物語のようだ。近いうちにまた行って最後まで読んでくるつもり。
まあ、きちんと完結した長篇なので、いずれ確実に単行本化されるはず。刊行されれば実に10年ぶりの新作。その日を楽しみに待ちましょう。
(ややネタバレあり)
理由もわからないまま15年間監禁されていた男の復讐劇。
韓国映画はこれまで何本も観てきたのだけれど、全般に、勢いはあるのだけれど細部の詰めが甘くてツッコミどころが山ほどある作品が多い気がする。この映画にしてもまあ確かにただならぬ迫力はあるのだけれど、そもそもストーリー展開に無理があるし、語りのテクニックにしてもそれほどうまいとは言えない。タランティーノは、八方破れのただならぬ迫力に惚れ込んだのだろうということはわかるのけれど……。
「衝撃のラスト」については、結末で語られる「問うべきは、なぜ監禁されたかではない」という発想の転換がなんとも本格ミステリ的で面白い。しょうもない動機のわりには、やってることはといえばバカバカしいほどに大がかりなので、バカミス好きなら見るべきでしょう。
実は私は、映画を観る前に大石圭によるノヴェライズを読んでいたので、結末は知っていたのだけれど、ノヴェライズと映画ではその後の展開がかなり違っている。私としては、真実を拒否してファンタジーに逃げ込んでしまったかに思える映画の結末より、すべての真実を分かち合った上で、