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2004.12.25(Sat)

移転

 いよいよ容量がギリギリになってきたので、新サイトpsychodoc.eek.jpに移転します。アドレスは、サイコドク・イーク(グラッグのペット)・jpと覚えるように。グラッグはもちろんキャプテン・フューチャーに出てくるロボットだ。サイト名も大胆に変更してみた。

2004.12.19(Sun)

白塗りされたゲド

 アーシュラ・K・ル・グインが、サイファイ・チャンネルで制作されたゲド戦記ドラマを批判。
 原作ではゲドは「赤褐色の肌」だし、ほかにも有色人種のキャラはたくさんいるのに、ドラマではメインキャラクターの中に黒人俳優がひとりいるだけで、あとはみんな白人にされてしまった、とのこと。

 しかし、ル・グインほどの大御所といえども、キャストには口出しできないんですね。

非現実の王国で

 ヘンリー・ダーガーの生涯と作品を紹介したドキュメンタリー映画がアメリカで公開。ダーガーはアウトサイダー・アーチストとして有名で、病院の清掃員として働きながら、人知れず15000ページに及ぶ空想世界の物語(子供たちを奴隷にし虐殺するグランデリニア王国に立ち向かう7人の少女戦士ヴィヴィアン・ガールズの物語)と何百枚ものイラストを残したという人物。観てみたいなあ。日本に来ないかなあ。
 ナレーションは『マイ・ボディガード』の美少女ダコタ・ファニング。

2004.12.13(Mon)

7周年

 更新をさぼっている間に、サイト開設7周年を迎えました。来年こそは、もう少し更新頻度を高くしたいところ。

[映画]スカイ・キャプテン ワールド・オブ・トゥモロー

 全編にわたって引用とお約束のみで構成された映画(ラスボスの正体からして「引用」の最たるものである)。オリジナリティ皆無。ストーリーはあってなきがごとし。とまあ、実に思い切った映画であり、観る人を選ぶ作品だと思うのだけれど、個人的にはおもしろかった。
 エンパイア・ステート・ビルに繋留されるヒンデンブルクIII世号の冒頭シーンから、フライシャー兄弟風ロボットの来襲、同心円の広がりで表される電波などレトロな表現まで、映画を彩るのはマニアックでトリビアルな引用の数々。全編にわたって、どこかで見た場面と、こんな場面が見たかった、というオタク心をくすぐるシーンが連続。ストーリーのつながりなんか気にしちゃいけませんや。
 突然現れるスカイ・キャプテンとは何者で、ポリ−とはどういう関係なのか、そんなことは一切説明なし。ほら、アレだよ、アレ。そんなこと説明しなくてもわかってるでしょ、というノリなのだ。ヒーローは緊急信号を送れば颯爽と現れるものだし、女新聞記者といえばロイス・レーンを思い出せばいい。どっから金が出てるかわからないヒーローの巨大な基地もお約束。それに対して悪漢は、密林の孤島に秘密基地を構えるもの(『Mr.インクレディブル』でもそのお約束が踏襲されていた)。そして孤島と言えば巨大生物。ただし、後半になってからはレトロフューチャーの味が薄くなって、ただのよくあるSF映画風になってしまったのが残念。それから、あまりにもマニアックに流れすぎたせいで一般性を失ってしまっている観があって、そのへんが興行収入がぱっとしなかった理由と思われる。
 とにかく自分が観たい映像を全部詰め込んだ、新人監督の自己満足映画という意味では、アメリカ版『CASSHERN』のような気も。CGを多用したレトロフューチャーな世界やロボット軍団の襲来、合成をごまかすためかわざと画面を荒くしているあたりも似ている。
 ただし、敵の正体がアレなので仕方ないとはいえ、「お約束」のひとつである敵ボスとの最後の一騎打ちがないのが残念。あと、軍服に眼帯のアンジェリーナ・ジョリーはてっきり敵だと思っていたのに味方だったのでびっくりだ。ありゃどう見ても敵キャラですよ(★★★☆)。

[映画]Mr.インクレディブル

 さて、『スカイ・キャプテン』と同じくヒーローもののお約束を多用しているのが『Mr.インクレディブル』。スーパーヒーローが禁じられた社会で元ヒーローが次々に殺されていく……という『ウォッチメン』を思わせる導入部や、ファンにとっては皮肉な敵の正体など、マニア心をくすぐる部分もあるものの、さすがピクサーだけあって、誰にでも楽しめる万人向けの映画に仕上がってます。
 映画としては穴だらけの『スカイ・キャプテン』に比べ、こちらは驚くほどに完成度が高い。キャラクターもそれぞれ個性があって魅力的だし(特にエドナとか)、伏線もきっちりと回収されている。盛り上げるべきところはちゃんと盛り上げているし、家族愛といういかにもファミリー映画らしいテーマもはっきりと押し出している。もう、これ以上何を望むことがあろうか、という感じなのだけれども、打ち出されているメッセージのあまりのストレートさと健全さがいささかうとましく感じられてしまうのも確か。過剰性とか毒気のようなものもほとんどなく、あまりに整いすぎた映画なので見ている最中は面白くても、見終わったら印象に残りにくい、というのはないものねだりだろうか。同じ監督の前作『アイアン・ジャイアント』に比べ、監督の作家性があまり感じられなかったのが残念。
 それから邦題は、テーマからしても原題どおりの『ジ・インクレディブルズ』の方がよかったと思うのだけれど(★★★☆)。

2004.12.01(Wed)

[読書]銀林みのる『クレシェンド』

 11月6日の続き。
 なかなか時間がとれなくて途中まで読んでから1ヶ月くらい間が空いてしまったのだけれど、ようやく時間ができたので、国会図書館で最後まで読んできました。
 前回書いたのがだいぶ前なのでもう一度書いておくと、『クレシェンド』は、『鉄塔 武蔵野線』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞して以来10年近く沈黙を守っている作家銀林みのるの長篇。「電気新聞」という業界紙に、2002年1月21日から2003年10月31日まで438回にわたって連載されたが、いまだに単行本にはなっていない作品である。枚数を計算してみると400字詰めでだいたい1100枚くらいになる。かなりの大長編だ。

 さて最後まで読んだ感想なのだけれど、これが実に微妙。正直言って、ひとつの長篇としてはあまりにもまとまりがなく、評価のしようがないのである。
 前回のあらすじでは、安田という男が主人公のように書いた(実際、途中まではそうなのだ)のだけれど、途中から物語はいきなり過去に戻り、いきなり安田の同僚北岡俊哉の少年時代の物語になってしまう。実はほんとうの主人公は北岡の方だったのだ。
 その後の物語は、少年時代の北岡の視点から見た、湖の別荘地に集う人々の愛憎関係を軸に展開していき、北岡少年は、母の死の真相や、幼なじみの菜穂の出生をめぐる秘密などを知ることになる。この菜穂の生まれた水上家は、代々、湖から流れてきた女の赤ん坊に家督を相続させるという奇妙な風習の伝わる旧家で、当主は湖に浮かぶ女島で育てられる習わしであるという。このあたりはなんだか伝奇ロマン風なのだが、超自然的な現象はほとんど起きない。そのほか、少女時代の涼子(安田の元恋人)が登場したり、人間の世界観を変革する力を持つ「明視者」なる存在が示唆されたりするのだけれど、涼子がどういう役割なのかはっきりせず、このあたりの展開は不十分なまま。

 そして最大の問題点は……実は、この作品、完結していないのだ。前回の感想では「きちんと完結した長篇なので、いずれ確実に単行本化されるはず」と書いたけれど、これは撤回します。全然終わってません。
 連載終盤で時代は現代に戻り、安田と北岡は霧江湖を訪れる。そして歩いてホテルに戻る道すがら、北岡が大学時代の菜穂との再会について回想する……という回想シーンの途中で、いきなり「ご愛読ありがとうございました」となっているのである。あまりに長くなりすぎたので打ち切られたのか、まとまらなくなって作者自ら中断したのかはわからないのだけれど、あまりにも唐突でいきなりぷつんと切れたような終わり方である。
 この作品、単行本化されるかどうかはわからないし、されるとしても大幅な加筆訂正が必要なんじゃないだろうか。

2004.11.27(Sat)

対話も感情もない「萌え」のむなしさ

 いろんなところで話題にされてるのであえて屋上屋を架すことはしないけれど、感想をひとことだけ。
 この文章を読んだとき、私が真っ先に思い浮かべたのは、グレッグ・イーガンの『万物理論』に出てくる「大きいHワード」だった。以下引用。

「それで、もうひとつのHワードはなんなんですか? 大きいほうは?」
「ほんとうにおわかりになりませんか? ではヒントを。論争に勝とうと思ったら、考えうるもっとも知的に怠惰な方法とはなんでしょう?」
「答えをいってほしいんですが。なぞなぞは苦手なので」
「論争相手が“人間性(humanity)”を欠いている、と主張することです
(中略)
 仮にあなたがわたしを、“人間性を欠く”といって非難したとしましょう。それがじっさいに意味するところとは? いったいなにをしたら、そんなふうにいわれるのか? 平然と人を殺したとき? 子犬を溺死させたとき? 肉を食べたから? ベートーヴェンの第五番に感動しなかったから? それとも単に、人生のあらゆる局面であなたと寸分違わぬ感情をもてない――あるいは、もとうとしない――からですか? あなたの価値観と目標のすべてを共有できないから?
(中略)
 だれかの“人間性”に疑念を呈することは、相手を連続殺人鬼の同類あつかいすることです――そうすることで、あなたは相手の考えについてきちんとしたことをなにもいう必要がなくなる。また、それがあたかも広範な世論であり、あなたには怒りに燃える多数派がついていて、とことんあなたを支持しているかのような顔ができる……」

2004.11.24(Wed)

[映画]ソウ SAW

 うーんどうなんだろ。低予算にしては面白かったのは認めるが、なんというか消化不良感が残る映画である。
 『キューブ』のような閉鎖空間を舞台にしたスリラーなのだけれど、途中で妙に長い回想シーンがはさまるので緊迫感が途切れてしまうのが致命的。結末も、意外といえば意外ではあるのだけれど、伏線がほとんどないので、「なるほどそうだったのか!」という驚きには結びつかず、「だから何?」という感想しか出てこない。
 だいたい、冒頭の状況をどうやって準備したのかが謎。密室に囚われた二人のうちの一人アダムは溺れかけて目が覚めるのだけれど、そのときすでにもう一人のゴードンは目覚めているのだ。いったいアダムを溺れさせたのは誰なのか。部屋の反対側でごそごそやってたら、いくら暗闇の中でもゴードンは気配で気づくだろう。
 あと、謎の解釈についていえば、あの人は別に毒で脅されてたわけじゃなく、もともと共犯だと思うなあ。最初から仲良さそうだったし。見つかったテープは偽装でしょう(★★☆)。

 この手の閉鎖空間スリラーなら、乙一の「SEVEN ROOMS」を映画化したら面白いと思うんだけど、どうだろう……と思ったら、映画化されたんですね。まあ、映画にしやすい作品だからなあ。

いただいた本
no image 古代文明の謎はどこまで解けたか 3 捏造された歴史とオカルト (3)』 単行本
太田出版(Skeptic Library 9)
著者:ピーター・ジェイムズ(著),ニック・ソープ(著),福岡 洋一(翻訳)
発売日:2004/11, 価格:\1,995, サイズ:19 cm

 スケプティック・ライブラリーから出ている大部の古代文明検証本の完結編。アトランティス、ポールシフト、オリオン・ミステリー、ストーンヘンジ、ナスカの地上絵、イースター島、アーサー王、ツタンカーメンといった言葉を聞いただけでわくわくする人にお薦め。トンデモは明確に否定しつつもロマンをかき立ててくれるのが素晴らしい。1巻2巻もお薦めです。

古代文明の謎はどこまで解けたか〈1〉失われた世界と驚異の建築物・篇 古代文明の謎はどこまで解けたか〈1〉失われた世界と驚異の建築物・篇』 単行本
太田出版(Skeptic library (07))
著者:ピーター ジェイムズ(著),ニック ソープ(著),Peter James(原著),Nick Thorpe(原著),福岡 洋一(翻訳),皆神 龍太郎
発売日:2002/06, 価格:\2,100, サイズ:19 x 13 cm

--内容(「MARC」データベースより)--
アトランティス、ストーンヘンジ、ピラミッド、モアイ像…。いまだに解明し尽くされていない古代文明の謎に、DNA判定・放射線年代測定などを駆使する最先端の考古学はどこまで迫っているのか? 正統派・古代文明謎解き本。

古代文明の謎はどこまで解けたか (2) 地上絵と伝説に隠された歴史・篇 古代文明の謎はどこまで解けたか (2) 地上絵と伝説に隠された歴史・篇』 単行本
太田出版(Skeptic library (08))
著者:ピーター ジェイムズ(著),ニック ソープ(著),Peter James(原著),Nick Thorpe(原著),福岡 洋一(翻訳),皆神 龍太郎
発売日:2003/12, 価格:\2,100, サイズ:19 x 13 cm

--内容(「MARC」データベースより)--
ナスカの地上絵、レイライン、バイキングのアメリカ発見、アーサー王…。近代以前の歴史の謎・伝説の謎に、最先端の科学的調査と膨大な資料を駆使して果敢にメスを入れ、その真相に迫る。正統派・古代文明謎解き本、第2弾!

買った本
カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV‐TR診断基準の臨床への展開 カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV‐TR診断基準の臨床への展開』 単行本
メディカルサイエンスインターナショナル
著者:ベンジャミン・J. サドック(編集),バージニア・A. サドック(編集),Benjamin James Sadock(原著),Virginia Alcott Sadock(原著),井上 令一(翻訳),四宮 滋子(翻訳)
発売日:2004/11, 価格:\19,950, サイズ:26 x 19 cm

--出版社/著者からの内容紹介--
精神医学の“バイブル”、最新版のノーカット完訳


臨床精神医学の包括的リファレンスであり、標準的な教科書。世界中で圧倒的な評価を得ており、この領域のまさに“定本中の定本”。DSM-IV-TRに基づいて全面的に書き改められた原著最新版、全60章を完訳。大幅な増頁、しかも全頁2色刷となって完成度をさらに高めた。広く精神保健関連の職種、学生に最優先の書である。

 精神医学の教科書決定版が第2版になり、しかも完訳版になって登場。本屋で見かけて買わねばと思ったのだけれど、あまりに重いのでネット書店で。amazonは4〜6週間以内と情けない状態なので、久しぶりにbk1で購入

2004.11.23(Tue)

『銀河ヒッチハイクガイド』の映画

 来年公開だそうな。リンク先で、デザイン画と予告編(ほとんど何もわからないけど)が見られます。

ハウル雑感

 観てから何日か経って、考えたことをいくつか。
 まず、この映画は、ナウシカやもののけ姫みたいに、「世界」を描く映画にはなっていないこと。確固たる世界設定が先にあって、その中で人物が動いているのではなくて、あくまで人物の心情とか関係性が先にあって、世界はそれに従属している。だから世界設定の説明は不十分だし、矛盾だっていくらもある。でも、それはそれでいいのだと思う。
 もうひとつ。この映画の主要なキャラクターは、みんなメタモルフォーゼする。ソフィーとハウルは言うに及ばず、荒れ地の魔女は途中で老婆になるし、マルクルだって老人に変装する。もちろんカカシもそうだし、ハウルの城そのものも変化する(カルシファーはそもそも不定形だ)。ここまで変容のモチーフがしつこく繰り返されるということは、そこには物語のテーマにも関わる重要な意味があるのだろう。
 さて、主人公であるソフィーは魔女に呪いをかけられて老婆へと姿を変えるわけだけれど、これは本当に魔女の呪いだったのかどうか。ソフィーは老婆になった当初こそ腰が曲がっていてよぼよぼと歩いていたものの、物語が進むにつれて、いつの間にか腰はまっすぐになり、しゃっきりと立つようになっている。つまり、魔女の呪いはすでに解けている、あるいは解けかけていると考えるべきだろう。おそらく、ソフィーは魔女に呪いをかけられる前に、自分で自分自身に呪いをかけていたのだ。それはつまり、自分は妹と違って地味だから一生帽子屋の一室で暮らさねばならない、という呪いであり、魔女に出会う以前から、ソフィーの心はすでに老婆だったのである。この映画は、実はソフィーが自らかけたこの呪いから解き放たれるまでの物語なのだと思う。
 ソフィーの見た目の年齢は、19歳から90歳まで、心理状態に応じてめまぐるしく変化する(ちゃんと論じるためには、どの場面で何歳くらいの姿になっていたのか、じっくり見直す必要がありそうだ)。それに、どうやら眠っているときには顔も髪の色も元通りになっている(途中、眠っているとき以外に髪の色が元に戻っているシーンが一箇所だけあったように思うのだけれど、どの場面だか思い出せない)。
 そして結末。ソフィーの容貌は元の19歳の姿に戻ったのだけれど、よく見ると髪は灰色のまま。これはつまり、冒頭の帽子屋のソフィーに戻ったのではなくて、老婆の経験によって成長した新しいソフィーであることを示している、のかな。


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Written by Haruki Kazano