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更新をさぼっている間に、サイト開設7周年を迎えました。来年こそは、もう少し更新頻度を高くしたいところ。
全編にわたって引用とお約束のみで構成された映画(ラスボスの正体からして「引用」の最たるものである)。オリジナリティ皆無。ストーリーはあってなきがごとし。とまあ、実に思い切った映画であり、観る人を選ぶ作品だと思うのだけれど、個人的にはおもしろかった。
エンパイア・ステート・ビルに繋留されるヒンデンブルクIII世号の冒頭シーンから、フライシャー兄弟風ロボットの来襲、同心円の広がりで表される電波などレトロな表現まで、映画を彩るのはマニアックでトリビアルな引用の数々。全編にわたって、どこかで見た場面と、こんな場面が見たかった、というオタク心をくすぐるシーンが連続。ストーリーのつながりなんか気にしちゃいけませんや。
突然現れるスカイ・キャプテンとは何者で、ポリ−とはどういう関係なのか、そんなことは一切説明なし。ほら、アレだよ、アレ。そんなこと説明しなくてもわかってるでしょ、というノリなのだ。ヒーローは緊急信号を送れば颯爽と現れるものだし、女新聞記者といえばロイス・レーンを思い出せばいい。どっから金が出てるかわからないヒーローの巨大な基地もお約束。それに対して悪漢は、密林の孤島に秘密基地を構えるもの(『Mr.インクレディブル』でもそのお約束が踏襲されていた)。そして孤島と言えば巨大生物。ただし、後半になってからはレトロフューチャーの味が薄くなって、ただのよくあるSF映画風になってしまったのが残念。それから、あまりにもマニアックに流れすぎたせいで一般性を失ってしまっている観があって、そのへんが興行収入がぱっとしなかった理由と思われる。
とにかく自分が観たい映像を全部詰め込んだ、新人監督の自己満足映画という意味では、アメリカ版『CASSHERN』のような気も。CGを多用したレトロフューチャーな世界やロボット軍団の襲来、合成をごまかすためかわざと画面を荒くしているあたりも似ている。
ただし、敵の正体がアレなので仕方ないとはいえ、「お約束」のひとつである敵ボスとの最後の一騎打ちがないのが残念。あと、軍服に眼帯のアンジェリーナ・ジョリーはてっきり敵だと思っていたのに味方だったのでびっくりだ。ありゃどう見ても敵キャラですよ(★★★☆)。
さて、『スカイ・キャプテン』と同じくヒーローもののお約束を多用しているのが『Mr.インクレディブル』。スーパーヒーローが禁じられた社会で元ヒーローが次々に殺されていく……という『ウォッチメン』を思わせる導入部や、ファンにとっては皮肉な敵の正体など、マニア心をくすぐる部分もあるものの、さすがピクサーだけあって、誰にでも楽しめる万人向けの映画に仕上がってます。
映画としては穴だらけの『スカイ・キャプテン』に比べ、こちらは驚くほどに完成度が高い。キャラクターもそれぞれ個性があって魅力的だし(特にエドナとか)、伏線もきっちりと回収されている。盛り上げるべきところはちゃんと盛り上げているし、家族愛といういかにもファミリー映画らしいテーマもはっきりと押し出している。もう、これ以上何を望むことがあろうか、という感じなのだけれども、打ち出されているメッセージのあまりのストレートさと健全さがいささかうとましく感じられてしまうのも確か。過剰性とか毒気のようなものもほとんどなく、あまりに整いすぎた映画なので見ている最中は面白くても、見終わったら印象に残りにくい、というのはないものねだりだろうか。同じ監督の前作『アイアン・ジャイアント』に比べ、監督の作家性があまり感じられなかったのが残念。
それから邦題は、テーマからしても原題どおりの『ジ・インクレディブルズ』の方がよかったと思うのだけれど(★★★☆)。