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更新日: 2004/10/06


2004年 5月上旬

2004年5月3日(月)

旧岩崎邸庭園

 『キャシャーン』を観に上野に行ったのだけれど、思いのほか道路が渋滞していて間に合わず。仕方ないので映画はやめて、行ったことのなかった旧岩崎邸庭園を見学。
 旧岩崎邸は、明治29年に三菱を創設した岩崎家の本邸として建てられたもので、設計したのは鹿鳴館やニコライ堂を作ったジョサイア・コンドル。さすがに財閥トップの本邸だけあって、手すりや柱の細かい彫刻や寄せ木の床、壁紙に至るまで実にきめ細やか。眼福眼福。
 1階のある部屋では、コンドルと4人の弟子たちについての1時間ほどのドキュメンタリー映画を上映していたのだけれど、その映画の中で、東京駅や日本銀行などを作った辰野金吾がボロクソにけなされていたのには大笑い。ナレーションだけでは飽きたらず、監修の藤森照信教授までわざわざ登場して「様式をごっちゃにしている」とか「建築学会を作った功績は認めるけど、デザイナーとしては今ひとつ」とかけなすけなす。よっぽど辰野金吾が嫌いだったのか、教授。

[映画]ドッグヴィル

 ロードショー公開は終わったけれど、吉祥寺バウスシアターでやってたので観てきました。
「私は人のいやらしさや汚い部分が大好きなんだ!!」((c)とよ田みのる『ラブロマ』)といわんばかりの映画ばっかり撮っているあのラース・フォン・トリアーの新作ということでかなり期待して観たのだけれど、期待してたほどではなかったかな。確かにいかにもトリアーらしく、人間の暗黒面をえぐった映画ではあるのだけれど、トリアーにしちゃこれは生ぬるすぎます。もっとどんよりと悲惨でイヤな後味の映画を撮ってくれよ!
 たとえばグリナウェイの『ベイビー・オブ・マコン』みたいに、目を背けたくなるくらいに悲惨極まりない描写があるのかと思ったらそれほどでもないし、結末にしてもある種の復讐のカタルシスがあって(私ゃてっきり、ニコール・キッドマンが「てめえら人間じゃねえ。人間の皮をかぶった犬だ!」とかタンカを切るのかと思いましたよ)、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』ほど救いのないものではないし、『奇蹟の海』や『イディオッツ』みたいに観客の認識を揺さぶるほどの衝撃もない。
 だいたい、ムラ社会の偽善性とかいやらしい閉鎖性なんてものは、国全体が大きなムラみたいな日本人からしてみればもううんざりするくらいお馴染みのもので、わざわざトリアーに指摘されるまでもないこと。3時間もかけて語るような映画じゃないと思いましたね。というか、もっと早くパパに電話しろよニコール(★★☆)。

 トリアー映画には必ず出てくるウド・キアーが今回は出てこないなあ、と思っていたら、スタッフロールにでかでかとウド・キアーの名前が出ていてびっくり。いったいどこに出てたんだ。ギャングのうちのひとりかな。

2004年5月4日(火)

[映画]CASSHERN

 いや、なんというか、積極的には語りたくないような気分にさせてくれる映画。最後まで観て、私はかの『ファイナルファンタジー』を思い出したよ。
 だいたい、キャシャーン対新造人間なのか戦争の悲劇なのか親子の対立なのか、何を語りたいのか焦点がぼやけている上、切ってもいいようなシーンまで残しているのでやたらと長すぎる。メッセージを語る台詞はお腹いっぱいになるほどあるのだけれど、ストーリーを語る台詞がほとんどないので、物語の流れがさっぱりわからない。なんだか、絵になるシーンだけを台詞で無理矢理つないでいるような映画なのだ。まさに、映像畑出身監督の映画の典型。新造人間たちが拠点にした要塞と大量のロボットはいったい誰が作ったんですか。列車に乗っていたはずのルナたちは、いつのまに研究所に着いたんですか。第七管区にいたはずのキャシャーンがなんで研究所に落ちてきたんですか。もう、わからないことばっかり。
 確かに、CGは、懐かしのCD-ROMソフト『GADGET』とか、ロシア・アヴァンギャルドのポスターを思わせるものがあって(実際、元シナジーの庄野晴彦がスーパーバイズしてるんですね)美しかったけれど、いくら美しくてもずっと同じような映像ばかりが続けば飽きてくる。樋口真嗣がコンテを切ったバトルシーンはよかったけど、決着がつかないまま途中でぷつんと途切れてしまうのはどうかと思うし、そのあと1時間もだらだらと映画が続いてしまうのもなんとも。本来あれは、映画のクライマックスに持ってくるべきシーンでしょう。
 そもそも、父親ひとり許せないような若者に「ぼくたちは許し合うべきだったんだ」なんて言われても全然説得力ないんですが(★)。

2004年5月5日(水)

[映画]キル・ビル Vol.2

 「思ったより普通の映画だったので驚いた」という感想が多かったのである程度は予想はしていたのだけれど、それでもやっぱり思ったより普通の映画だったので驚いた(いや確かに普通のハリウッド映画じゃ女優の目玉くりぬいたり秘孔を突いたりしませんが)。
 まあ、普通の映画とはいっても、そこはやっぱりタランティーノ。Vol.1とはまた別の意味でタランティーノらしさが存分に出た映画だと思います。
 Vol.1では、好きなチャンバラ映画とかカンフー映画とかへのオマージュが前面に出ていて、タランティーノの独自性という点では今ひとつ(とはいっても、あんな映画タランティーノ以外誰も作らないだろうけれど)だったのに対して、Vol.2ではまさにタランティーノ節そのもの。時系列を自在にシャッフルする語りの手法はすでに熟練の域に達しているし、日本語台詞が多かったせいかVol.1では抑え気味だったしゃべくりが、Vol.2ではいきなり全開! ビルがいきなりスーパーマンの話を始めたところなんかニヤリとしてしまったよ。動のVol.1、静のVol.2、2本あわせて現時点でのタランティーノの集大成といってもいいんじゃないだろうか。
 この映画については、Vol.2だけの評価をしても無意味。Vol.1と2本合わせた評価は(★★★★☆)。

 そういえば、エンド・クレジットで、ルーシー・リューのスタント・ダブルとして「ボディビル界の百恵ちゃん」こと西脇美智子の名前があったのが懐かしかったです。西脇美智子って、香港映画を経て、今じゃハリウッドでスタントウーマンをしてるんですね。『チャーリーズ・エンジェル』でもルーシー・リューのスタント・ダブルをしてたとか。

トリビア

 『トリビアの泉』は、「演奏するのに18時間かかる曲がある」と、「4分33秒間全く演奏しない曲がある」。うーん、こんな常識的なトリビアでいいんですか。それに、この2曲に触れるのなら、「ヴェクサシオン」の世界初演がジョン・ケージ(たち)だということにも触れなくちゃダメでしょう。でも、ケージがキノコマニアでニューヨーク菌類学会を設立したというのは「へぇ」だったけど。

2004年5月6日(木)

戦場の魔術師

 「奇跡体験アンビリーバボー」で取り上げられていた「戦場の魔術師」の話。マジシャンのジャスパー・マスケリンは、第2次大戦中の北アフリカ戦線で、風刺漫画家、元科学者、配水管工などなど戦場では役立たずと思われていた者たちを率いて「マジックギャング」を結成。港を別の場所にみせかけたり戦車をトラックにしたりと、奇策の数々を駆使してイギリス軍を勝利に導いたという、なんだか山田正紀の『火神を盗め』みたいな話である。
 あまりにもできすぎた話なので眉に唾つけながら見ていたのだけれども、どうやら元ネタと思われるデイヴィッド・フィッシャーの本"The War Magician"は、かなり毀誉褒貶の激しい本のようである。絶賛している人もいるのだけれど、「フィッシャーが書くマスケリンの戦争中の業績は小説家のつくりごとで、歴史書や伝記としては無価値」と切って捨てている人もいる。おそらく、「事実よりも、見栄っぱりで自己中心的な回想録にもとづいていて」、「アレキサンドリア港防衛やスエズ運河での彼の役割は誇張されているし、エル・アラメインのカモフラージュ計画への関与は疑問視されている」といったところが妥当なところなのだろう。
 この"The War Magician"という本、アメリカでは品切れで入手困難らしいのだけれど、どうやら、トム・クルーズが映画化権を持っているようだ。

[読書]山田悠介『リアル鬼ごっこ』(幻冬舎文庫)
リアル鬼ごっこ リアル鬼ごっこ』 文庫
幻冬舎(幻冬舎文庫)
著者:山田 悠介(著)
発売日:2004/04, 価格:\560, サイズ:15 x 11 cm


 王様の命令で、佐藤藍子とかさとう珠緒とか佐藤江梨子とか佐藤寛子とか佐藤B作とかが次々と殺されていく話(だいぶ嘘)。
 「知性や教養を欠片も感じさせない稚拙な文体」だの「書こうとしてもここまで読み手をムカつかせる日本語は決して書くことはできません」だの「全部読んだ自分を褒めてやりたい」だの、ネットでももの凄い言われようのこの本、どれだけ凄まじいのかと思って読んでみたのだけれど、なんだこんなものですか。確かに視点人物がぐらついていて読みにくいし、キャラクターにもまったく魅力がなく、結末も誰でも予想できる範囲、とつまらないことはたしかなのだけれど、この程度につまらない小説など、掃いて捨てるほどあるではないか。もっと想像を絶するほどもの凄いのかと思っていたのに……と思ったら、どうやら文庫版ではこの本の真のすさまじさはわからないらしい。文庫版は、元版に大幅に加筆訂正した新版であって、文芸社から出た元版は、支離滅裂な文章が乱舞する奇怪な小説であったらしい。そうか、そっちを読まなきゃいけなかったのか<をい。
 悪評高い文章がましになってみれば、なんのことはない、これはただのバカ小説ではないですか。王様の弟がなぜか「王子」と呼ばれてたり、王様の母親が「皇后」だったりする奇妙さとか、西暦3000年の某王国が舞台なのに、「横浜市中区」などという地名が平然と出てきたり王様がいる以外は現代日本と全然変わらなかったりするあたりは笑うとこでしょう(『キル・ビル』で日本刀持って平然と飛行機に乗ってるみたいなもんだ)。特に私が爆笑したのは、鬼が持っているという「佐藤探知機」。佐藤探知機ですよ、佐藤探知機。並の発想じゃないね。佐藤性のひとたちが「佐藤」じゃなくて必ず「佐藤さん」と呼ばれるあたりもポイント高い。いやあ、バカだ。
 「佐藤さん」は難を逃れるためとりあえず養子に入るとか離婚するとかして改姓したらどうなんだ、とか、街中うろうろしてないで人里離れた山奥に逃げたらどうよ、とか突っ込むところは山ほどあるんだけど、まあバカ小説なら許す。
 致命的なのは、ストーリーと結末があまりにもつまらないこと……。ちなみに、私は「〈佐藤〉姓を持つのは私だけでよい」とのたまう王様に弟がいることがわかった時点で、ああ誰もが見過ごしていたこの弟が最後の優勝者になるんだな、と思ったのだけれど、予想は大きく外れてました。


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Written by Haruki Kazano