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更新日: 2004/10/06


2004年 4月上旬

2004年4月2日(金)

ブラックジャックによろしく精神科編 第2回

 1日遅れになってしまったけど、「ブラックジャックによろしく 精神科編」の感想を。
 いきなり担当患者が新聞記者の偽患者だということを主人公が知らされたのは予想外。しかし、担当するのが偽患者じゃ研修にならんと思うのだけれど。このあたり、教育的にどんなもんかと。
 それに、この新聞記者さん、いったい何を取材しようとしてるんでしょう。新聞記者が偽患者として精神病院に潜入、といえば、有名な大熊一夫記者の『ルポ・精神病棟』が思い出されるのだけれど、あれは病院側には何も知らせなかったからこそ潜入する意味があったし、社会的にインパクトの強い記事が書けたわけで、教授と通じていては、病院に不利なことは何も書けないではないですか。そんな提灯持ちみたいなことをするなら、わざわざ偽患者として入院する必要はないんじゃないのかなあ。
 あと、いきなりがん編のラストでちょっと触れられていた緩和ケア科ができてたのにも驚き。雑誌でしか読んでないのでうろ覚えなのですが、私はてっきり緩和ケア科ができたのは1年後あたりの未来の話だと思ってたのですよ。がん編と精神科編のあいだに「描かれざる科」が1年分くらいあるならまだしも、精神科編ががん編の直後だとすると、そんな短期間で大学病院で科ひとつ作れるとはとても思えないんですが。

2004年4月4日(日)

[読書]ピーター・F・ハミルトン『マインドスター・ライジング』(創元SF文庫)

 久々に読んだ新人作家の海外SF。心を読める超能力を持った元特殊部隊の隊員が巨大企業に雇われて私立探偵風の活躍をするというまあ、いってみればそれだけの話なのだけれど、これはちょっと長すぎではないのか。企業小説風のオープニングは、地味ながらいかにもイギリスらしい渋みがあっていいのだけれど、少し話が進むたびに長々とした社会背景の説明が差し挟まれるので、物語は遅々として進まない。堺三保さんの解説によれば、ハミルトンの作品は、シンプルなプロットと過剰なまでの異世界描写が特徴らしいのだけれど、この作品の場合、これが第一長篇だからか、世界描写の過剰さがうまく機能しておらず、ストーリーと設定説明のバランスがうまくとれていないように思われます。
 後半では企業小説風の味わいは後退して、アクションが主体になっていくのだけれど、物語の畳み方はちょっと、いやかなり乱暴。うーん、こんな結末でいいんですか。いくらお約束と言われようが、物語の構造として、悪役をぎりぎりまで追いつめるとか、最後の対決をするとか、そういうのが必要なのではないんですか。
 しかし、このシリーズから日本に紹介されたというのは、ハミルトンにとって不幸だったんじゃないかなあ。解説で紹介されている〈ナイツ・ドーン〉シリーズは銀河規模の大風呂敷を広げていてかなり面白そうなので、こちらから紹介してくれればまたかなり印象も変わったと思うのだけれど。
 鶴田謙二の絵は嫌いではない(というより、なかなか新作が出なかった時代からのファン)のだけれど、スチームパンク風のレトロな作品やファンタジーならまだしも、この作品みたいな近未来小説にはちょっと合っていないように思います。あー、「ベネチア」連作との海面上昇つながりってことなのかな。それに、さすがに鶴田表紙もちょっと飽きてきたよ。

小野愛

 スズキトモユさんとこにも来ているスパムメールが、うちにも来てます。
 まず1通目。

Date: Sat, 03 Apr 2004 18:24:55 +0900
From: 小野愛 <*********@yahoo.co.jp>
Subject: 突然ですが、私の月収85万円です、その中の20で契約しませんか?
今日はなんだかいつもよりHな気分だったのでメールしてみました★以前、掲示板でアナタを見つけ気になっていたので急ではありますが連絡させて頂きました。どちらかというとわたし自身尽くすタイプだと思うので出来れば色々とリードして欲しい事が私の望みです。月々20万円くらいなら用意できるので逆サポートとして契約関係になってはいただけないでしょうか?

 で、2通目。

Date: Sat, 03 Apr 2004 18:59:21 +0900
From: 小野愛 <*********@yahoo.co.jp>
Subject: 返答が無いのは提示額のせいですか?50万円ならいいのでしょうか?
初見で50を用意するのは私にとっても難しいので、一度お会いして貴方の値踏みさせて頂きたいのですが。それを了承して頂けるのなら、50用意する事も悩みません。どうですか、それで契約は無理でしょうか?顔は伏せさせて頂きましたが、私は身体には自信があります。これが証拠になると思いますが。どうでしょうか。

 最初のメールからわずか30分で「返答が無い」と断定されても困るのだけど……。
 どうなるんだろうなあ、と思っていたら、今日3通目が。

Date: Sun, 04 Apr 2004 22:52:07 +0900
From: 小野愛 <*********@yahoo.co.jp>
Subject: 言いづらいのですが私の条件を飲んで頂きたいのです。
条件は二つ。一つは貴方の顔の写真を○日にお会いする時のためにお願いしたい。もう一つは、私の持っている携帯電話は主人名義の物なのでアドレスをお教えする事はかないません。○日にお会いする時はこのパソコンからメールする事が出来ないのと、電話番号にしても携帯のアドレスと同様教える事はかないません。ですからお会いする時に連絡手段として http://www.*******.com/index.php?ad_code=tf へ登録して下さい。そこで私は○○に「○○」と言う名前で「約束の人を待っています」と登録しています。そこで当日○日は連絡をとりましょう。お願いいたします。

 いや、会うとは一言も言ってないんだけど……。アドレスは伏せてあるけど、「○○」というのは原文のまま。これは○○に適当な日付や名前を入れて送るべき文面なんじゃないだろうか。ちょっとツメが甘いですね。しかし、月収85万もある人が自分の携帯すら持ってないんでしょうか。

2004年4月5日(月)

[読書]井上剛『響ヶ丘ラジカルシスターズ』(ソノラマ文庫)

 井上剛の日本SF新人賞受賞第2作は、なんと少女歌劇団の新入生3人組と、歌舞伎至上主義を唱える秘密結社の闘いを描いた非SF作品。『マーブル騒動記』を読んだとき、このひとはあんまりSFにはこだわりがない人なんじゃないのかなあ、と思ったものだけれど、実際、『死なないで』、本作と、どんどんSF度が低くなってきてますね。
 ストーリーは安心して読めるかわりに特に目新しいところもなく、可もなく不可もなしといったところ。ただ、主人公たちと親との葛藤など、どちらかといえば昔ながらのジュヴナイル小説的な人物描写で、ライトノベル風のキャラクター小説になりきれていないところに、ちょっと古さが感じられなくもない。この著者の作風には、あんまりライトノベルという媒体は似合ってないのではないかな。

[読書]小川一水『ハイウイング・ストロール』(ソノラマ文庫)

 「重素」と呼ばれる比重の大きな半気体に覆われてしまった未来の地球。重素の海にかろうじて突き出た島々に住む人々は、農業も漁業もままならず、空中を漂う「浮獣」という得体の知れない生物の肉や油でできた製品に頼って暮らしている。そして、その「浮獣」を狩るのが「ショーカ」と呼ばれる飛行機乗りたちなのだった……。

 小川一水にとって、「空を飛ぶ」ということは明らかに特別な意味を持っているようで、『イカロスの誕生日』、『回転翼の天使』と、主人公が空を目指す作品にはことに力の入った傑作が多いようだ。『第六大陸』にしても、空を目指す話だといえるしね。そうした「空」路線最初の作品であり作者の出世作でもある『イカロスの誕生日』の変奏としても読めるのがこの作品。
 この作品に登場する「ショーカ」たちの、一般人とは相容れない特別な性向を持っていて微妙に差別的に扱われている、という設定は、『イカロスの誕生日』のイカロスたちにそっくり。また、敵を殺すための道具である武器に惹かれる矛盾というのは、『アマリアロード・ストーリー』から引き継がれているテーマ。なるほど、この人は、ひとつの作品を書き終えてもずっと同じテーマを考え続けているのだなあ、と感心しました。そのほか、サンカ(山窩)からとられたとおぼしい翔窩(ショーカ)というネーミングや、一般人がほとんど見たことがない獣を狩って殺す職業というショーカの設定も、どこか重いものを連想させる……(ただ、議員の娘がショーカになっていたりと、ショーカはそれほど強い差別を受けているわけではないようだが)など、あちこちに考えさせる要素がちりばめられてます。
 ただ、そうした重い社会的テーマを一方では取り上げつつも、あくまで後味爽やか、完成度の高い青春冒険SFに仕上げてみせるところがこの作者の真骨頂。このあたりの小説作法は、『イカロス』や『アマリアロード』の頃よりも遙かに進歩していて、ほぼ完成の域にまで達しているのだけれど、それだけではちょっと物足りなく感じられてしまうことは確か。この人が社会的テーマに真正面から取り組み、それでも明るい未来を高らかにうたいあげてくれるような作品を一度読んでみたい気もするのである。ライトノベルのレーベルじゃ難しいだろうけど、Jコレクションでとかどうでしょうか。

 そうそう、「浮獣」という単語に出くわすたびに、思わず「淫獣」と読んでしまったことは秘密だ。

2004年4月6日(火)

[読書]栗本薫『グイン・サーガ93 熱砂の放浪者』(ハヤカワ文庫JA)

 グイン&グラチウスのノスフェラス横断スワンボートの旅の巻。
 一時はかなり文章の荒れが気になったグイン・サーガだけど、このところは安定走行。舞台が懐かしのノスフェラスだったり(冒頭の地図も最初の頃のそのままだし)、遙か昔の伏線まで言及されたりと、そろそろ作者もこの長大な物語を閉じにかかっている、ということがひしひしと感じられて、実際20年以上つきあってきた読者としても感慨深いものがあります。
 ただ、いつものことだけれど、やっぱり世界設定にそぐわない台詞が気になる。ロカンドラスが「まったく異なる遺伝子どうしを結びつけて、見たこともないようなキメラを作り出す」と言ったり、星船の中の動く歩道に乗ったグインがベルトコンベアみたいなものを連想してみたり。それに、進化の概念についてもグインたちが当然のことのように受け入れているというのはどうも奇妙に思えてしまう。作者はあまりこのへんに頓着してないようだけれど、これはもうちょっと考えてほしいもの。たとえば「遺伝子」とか「パスワード」とかいう現代的な用語を使わずに同じ概念を表現することだってできるはずだと思うのだけれど。
 しかし、ノスフェラスの広大さも考えず、ただ「ノスフェラス!」と念じて砂漠の真ん中に実体化してしまい、半死半生の目にあうグインってば、案外うっかりさんだったのですね。

[読書]蘇部健一『届かぬ想い』(講談社ノベルス)

 『六枚のとんかつ』でデビュー以来、今ひとつ作風がはっきりしない蘇部健一の新作は、なんと堂々とタイムマシンが登場する時間SF。ああ、蘇部健一どこへゆく。
 しかし、いい話になりそうなところを、なんでこの人はこんな話にしてぶちこわしにするんですかね。タイトル、羽住都の表紙と、梶尾真治系のハートウォーミングなリリカルSFだと思って手に取る人もいるかもしれないけれど、騙されるな! まあ、邪悪なら邪悪でいいんだけど、この話の場合そういう問題じゃなく、ストーリーとして登場人物の行動に説得力がなさすぎ。タイムパラドックスの扱いも微妙だし、異様にうるおいがなくて即物的な文章にも参りました。

2004年4月8日(木)

ブラックジャックによろしく 精神科編 第3回

 なんだかなあ。いくら研修医とはいえ知識なさすぎでは。なんで精神科の初歩を新聞記者に講義されて圧倒されてるんだ……というのは、どうやらこのマンガではいつものことらしい。まあ、主人公に平均的な研修医くらいの知識があったらそもそもこのマンガは成立しないわけで、物語の狂言回し的な役回りである以上、読者に近いくらい医学に無知という設定なのは、リアリティ面では無理があってもマンガとしては正しい戦略なのでしょう。その他、どうかと思うところはいろいろあったものの、そのへんは完結してみないと何とも。

イラクで3邦人誘拐、自衛隊撤退要求 イスラム過激派か

 確かに大事件ではあるのだけれど、まったく意外という感はなくて、なんだか必然であるかのような、むしろ遅すぎたような気さえするのはどうしたわけか。
 これまでわりとちゃらちゃらと世渡りしてきた日本という国が、国家としてどう腹を据えるのか、とうとう試されるときが来た、という感があります。つまり「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」というわけ。
 イラク復興のために尽力していた日本人が当のイラク人に拘束される理不尽さ。それが戦争だ、と言われればそれまでですが。「人の命は地球より重い」と超法規的措置をとった首相の息子が「撤退する理由はない」と断言する立場になるのも皮肉な話。
 ただ、ダッカ事件の時は世論が超法規的措置を後押ししたのだけれど、今回は「自分で退去勧告も出ているような危険な国に行ったのだから自業自得」と世論が比較的冷ややかそうなのが気になる。

2004年4月9日(金)

保健所

 新年度。今月から月に1回保健所の仕事をすることになりました。精神保健相談の仕事なのだけれども、どうしても保健所に来られない場合は、こちらから訪問に行くこともある。
 今日はさっそく訪問の予定が入っている、というので車で行くのかと思ったら、保健婦さんに、鍵を1つ手渡された。えーと、これは自転車の鍵?
 ということで、保健婦さんとふたり、自転車を連ねて相談者の自宅に向かったのでした。このあたりは道が狭くて入り組んでいるので、車よりも自転車の方が小回りが利いて便利らしい。
 私たち精神科医はふだんは病院に来る患者さんだけを診ているし、病院にいる精神科医にとっては患者さんが病院に来たところが始まりなのだけれど、保健所で実感するのは、実は患者さんが病院に来るという段階は治療の始まりなんかではなく、すでに終わりに近い、ということ。少し大げさに言えば、病院に来られた、ということはもう治ったも同然、といってもいいくらい。街の中には、精神科に行こうとはしない、あるいは行くことができない患者未満の人たちがいかに多いことか。保健所の仕事というのは、そういう人たちと関わることなのだ。

2004年4月10日(土)

いらく

 中央線の某駅前に行ったら、3人の日本人を救出するために自衛隊は撤退するべきだ、と女性が大きな声で演説していて、その周りでは市民団体と思われる人たちが熱心に署名活動をしていた。
 私は自衛隊は撤退するべきではないと思うし、現実的に撤退はしないだろうと思うので署名はしなかった。それに、なんだか、もとから自衛隊の派遣に反対していたような人たちが、今回の事件で尻馬に乗ったかのように声高に撤退を訴えるという構図は、どうも見苦しく感じられてしまうので。
 その一方で、自分の意志で危険なイラクに行ったのだからどうなろうが「自己責任」だ、という冷ややかな意見もあるし、極端な意見になると、まるで3人が日本人全体に迷惑をかけている犯罪人であるかのように主張する人もいるのだけれど、そうした意見も、やっぱり承伏しがたいものを感じる。
 彼らは確かに自分の意志でイラクに行ったのだけれども、それはイラクの人々を救うためであったり、我々普通の日本人には知ることのできないイラクの実態を伝えたりするためであって、決して責められる筋合いのものじゃないだろう。私たちはイラクに行くことはできないし、行こうとすら思わないけれど、イラクの人たちからの日本人への感謝や、雑誌に掲載される記事や写真といった形で、彼らの行動から恩恵を受けるわけだから。
 彼ら3人を批判したり揶揄したりする人ってのは、つまりは渋谷で遊んでいた女の子が事件に巻き込まれたら、犯人を責めるより先に女の子を責めるような人たちとおなじだと思うのですね。つまりは、自分の価値観に合わない存在、異質な存在には徹底的に冷たい人たち。つまりは日本人。
 彼ら3人は、いってみれば「特殊」な日本人である。「プロ市民」という2ちゃんねる用語があるけれど、実際「市民運動」をしている人たちは、「市民」と名乗ってるわりにはふつうの市民とはメンタリティが違っていることが多い(だいたい「市民」という単語を「ふつうの市民」は使わない)。でも、そういう人を揶揄したり排除したりするというのは、ちょっと違うと思うのだ。
 それに、「自己責任」という言葉が最近よく聞かれるのだけれど、そんなにすべてが「自己責任」な社会をみんな望んでいるんだろうか。「自己責任」ばかりが大声で語られる社会は、どうも窮屈なような気がするだけどなあ。保険や投資とかが自己責任なのは別にいいですよ。でも、ふつうの人同士が、互いに「自己責任」と言い合う社会は、とても住みにくそう。「困ったときはお互い様」という社会の方が、私には住みやすく感じられます。

[映画]ロスト・メモリーズ

 2年前に話題にしたことがある、韓国の歴史改変SF映画『ロスト・メモリーズ』がやっと日本公開されたので観てきました。
 まあ、前評判からわかってはいたものの、SFとしてはツッコミ所、理解不能な展開満載。SF者が観るには、相当広い心が必要な映画であります。それより、『ユリョン』に続く、「韓国人は日本人のことがそんなに嫌いなんですか」映画第2弾として観た方がいいかも。
 安重根が伊藤博文暗殺に失敗して100年、第二次大戦では日本はアメリカと連合、原爆はベルリンに投下される。朝鮮は日本の領土として併合され、2009年、ソウルは日本第三の都市として繁栄を極めていた……という話なのだけれど、要するに、韓国人にとっては、朝鮮戦争と南北分断の60年は許せても、日本領として繁栄を極める100年は許し難いということらしい。いや、韓国人にとってはそうかもしれないも、北朝鮮の人にとっては、日本領として繁栄した方が幸せだったんじゃないかなあ。
 だいたい、伊藤博文が生きのびたというだけで、そんなに歴史が大きく変わるというのが理解できません。それだけのことで、第二次大戦でアメリカと連合するとはとても思えないのだけれど。それに、「正しい」歴史では、2008年に南北朝鮮は統一されて朝鮮は経済・軍事大国に成長、かつて高句麗が支配していた満州へと食指を伸ばしている……というのだが、おいおい、それじゃ中朝戦争になりますよ。それが、韓国(あなた)が望んだ世界?
 なぜか今村昌平監督が考古学者役で出演しているのも謎。


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Written by Haruki Kazano