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更新日: 2004/12/26


2004年 12月上旬

2004年12月1日(水)

[読書]銀林みのる『クレシェンド』

 11月6日の続き。
 なかなか時間がとれなくて途中まで読んでから1ヶ月くらい間が空いてしまったのだけれど、ようやく時間ができたので、国会図書館で最後まで読んできました。
 前回書いたのがだいぶ前なのでもう一度書いておくと、『クレシェンド』は、『鉄塔 武蔵野線』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞して以来10年近く沈黙を守っている作家銀林みのるの長篇。「電気新聞」という業界紙に、2002年1月21日から2003年10月31日まで438回にわたって連載されたが、いまだに単行本にはなっていない作品である。枚数を計算してみると400字詰めでだいたい1100枚くらいになる。かなりの大長編だ。

 さて最後まで読んだ感想なのだけれど、これが実に微妙。正直言って、ひとつの長篇としてはあまりにもまとまりがなく、評価のしようがないのである。
 前回のあらすじでは、安田という男が主人公のように書いた(実際、途中まではそうなのだ)のだけれど、途中から物語はいきなり過去に戻り、いきなり安田の同僚北岡俊哉の少年時代の物語になってしまう。実はほんとうの主人公は北岡の方だったのだ。
 その後の物語は、少年時代の北岡の視点から見た、湖の別荘地に集う人々の愛憎関係を軸に展開していき、北岡少年は、母の死の真相や、幼なじみの菜穂の出生をめぐる秘密などを知ることになる。この菜穂の生まれた水上家は、代々、湖から流れてきた女の赤ん坊に家督を相続させるという奇妙な風習の伝わる旧家で、当主は湖に浮かぶ女島で育てられる習わしであるという。このあたりはなんだか伝奇ロマン風なのだが、超自然的な現象はほとんど起きない。そのほか、少女時代の涼子(安田の元恋人)が登場したり、人間の世界観を変革する力を持つ「明視者」なる存在が示唆されたりするのだけれど、涼子がどういう役割なのかはっきりせず、このあたりの展開は不十分なまま。

 そして最大の問題点は……実は、この作品、完結していないのだ。前回の感想では「きちんと完結した長篇なので、いずれ確実に単行本化されるはず」と書いたけれど、これは撤回します。全然終わってません。
 連載終盤で時代は現代に戻り、安田と北岡は霧江湖を訪れる。そして歩いてホテルに戻る道すがら、北岡が大学時代の菜穂との再会について回想する……という回想シーンの途中で、いきなり「ご愛読ありがとうございました」となっているのである。あまりに長くなりすぎたので打ち切られたのか、まとまらなくなって作者自ら中断したのかはわからないのだけれど、あまりにも唐突でいきなりぷつんと切れたような終わり方である。
 この作品、単行本化されるかどうかはわからないし、されるとしても大幅な加筆訂正が必要なんじゃないだろうか。


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Written by Haruki Kazano