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更新日: 2004/11/14


2004年 10月中旬

2004年10月11日(月)

ブラッドワイン

 空想小説ワークショップでの友人である宇都宮邸にて宴会。宇都宮さんが手ずから作る料理に舌鼓を打ちながら、ラスベガス土産だというクリンゴン産ブラッドワインを飲む。まあ、中身はふつうのカリフォルニアワインなんだけど。ラベルには大きく「クリンゴン」と書いてあって、その上に"DEEP SPACE WINE"とある。ああっ、なんてベタなダジャレなんだ!
 私はそのあいだに『リベリオン』のDVDを流して「ガン=カタ」の素晴らしさを布教。そのあとは『ウィッカーマン』を流してケルトの伝統宗教の素晴らしさを布教する。
 ワールドコンに参加した尾山ノルマさんとおのうちみんさんも来ていて、ワールドコンで演じられたひとりスターウォーズ三部作のビデオを見たり。台詞から音楽、効果音に至るまで全部ひとりで演じて1時間。なんかものすごく疲れそうな芸だ。演じたチャールズ・ロス氏の次回作はひとりロード・オブ・ザ・リング三部作だとか。
 そうそう、7時からは「ブラックジャック」を見ましたよ。絵は手塚治虫らしいのだけれど、ピノコの「アッチョンブリケ」の使い方が変。本来の「アッチョンブリケ」は、思い通りにならなくてすねるときに使うのでは。

2004年10月13日(水)

矢野徹氏死去

 ああ。一度でいいからお会いしたかったなあ。
 それから、できれば、矢野徹氏には自伝を残していただきたかった。江戸川乱歩に「科学小説の鬼」とまで呼ばれた日本SF界の草分けである矢野氏のこと、さぞやいろいろと興味深いエピソードがあったろうに。
 日本SFを築いた人々が次々と亡くなっていき、貴重な記憶が失われてしまう前に、誰かがきちんと歴史をまとめる仕事をするべきですよ。
 矢野徹著書・訳書一覧。完全なリストでもないし(特に訳書なんて氷山の一角でしょう)、別人の本も一部紛れ込んでますが、これだけ見てもものすごい仕事量。著書では『折り紙宇宙船の伝説』、訳書では『デューン』、『ゲイトウエイ』などが印象に残っています。

[読書]梶尾真治『未来(あした)のおもいで』(光文社文庫)
未来のおもいで 未来のおもいで』 文庫
光文社(光文社文庫 か 37-1)
著者:梶尾 真治(著)
発売日:2004/10, 価格:\500, サイズ:16 cm

 どっかで聞いたようなタイトルだけど気にしなーい。『インナーネットの香保里』に続いて熊本県の白鳥山を舞台にした中篇にして、作者十八番のリリカル時間SF。結末がちょっとあっさりしすぎてる気もするけれど、いかにも梶尾真治らしい、タイムトラベル・ロマンスのお手本のような作品であります。『インナーネットの香保里』が、大人の読者にはちょいと不満の残る作品だっただけに、これはうれしい。
 ただし表紙イラストは今ひとつ。こちらにこそ鶴田謙二を使ってほしかった。
 お、最近のアマゾンにしては珍しく書影が早いな。

2004年10月15日(金)

東京国際ファンタスティック映画祭

 オープニングの「キャットウーマン」と、それに続く韓流vsタイ道オールナイトを観てきました。とりあえず簡単に感想を。

[映画]キャットウーマン

 オープニングは『キャットウーマン』。アメコミ映画という枠を超えて、普通によくできた映画。アメコミ映画としては珍しく、かなり女性客を意識した作りになってます。
 これはつまり現代の神話なのですね。ペイシェンス(忍従)という名の女性が、いったん死んで復活することにより、男性社会のすべての束縛から解き放たれ、自由に生きるセクシーな猫に生まれ変わる、という神話。キャットウーマンは確かに異形のアウトサイダーではあるのだけれど、バットマンやスパイダーマンのような選ばれし者の悩みや重くのしかかる責任感とは無縁で、手に入れた自由を大いに満喫する。このあたりのふっきれた明るさがいかにも女性スーパーヒーローらしくて楽しい。ほしいものは何でも手に入れられるけれど、何も所有することなく気まぐれで自由に生きるキャットウーマンというのは、現代の女性の生き方のひとつの理想型であるんだろうな、と。
 しかし、正義漢の刑事トムが偶然出会ったデザイナーのペイシェンスに惹かれていくのだけれど、実はトムが追っている女宝石泥棒キャットウーマンこそ、ペイシェンスのもうひとつの姿なのだった……という展開には、それはキャットウーマンじゃなくてキャッツアイだろ、とツッコミを入れたくなりましたが(★★★★)。

[映画]チューブ

 ソウルの地下鉄を乗っ取った犯人と戦う一匹狼の刑事を描いたアクション大作。なのだけれど、これがなんともツッコミ所満載の大ざっぱな映画なのだ。
 だいたい、主演女優ペ・ドゥナの舞台挨拶から嫌な予感はしていたのだ。「ヒロインの女スリは、なんでいつもギターケースを背負ってるんですか?」という司会者の質問に、「それはギターじゃなくてバイオリンケースです。実はバイオリンはお父さんの形見で、彼女は質に入っているバイオリンを取り戻すためにスリをやっているんです」とペ・ドゥナは答えたのだけど、えー、そういうことは映画の中で説明しなきゃダメですよ。司会者も「キカイダーなのかと思いましたよ」と言ってたけど、説明がないので全然わかりません。
 主人公の刑事は地下鉄に飛び移ったり、犯人のいる車両の床のハッチから入ろうとしたり、犯人と肉弾戦をしてみたりと、一見大活躍しているように見えるのだが、実際のところすべて空回りで全然役に立ってませんよ! だいたい、犯人の方も、なんでまた重要な極秘データをコピーもとらずに、暴走地下鉄内に持ち込んでしまうんですか。
 むしろ地味ながらもっとも活躍しているのは、南原清隆似の地下鉄管制室長で、無茶な要求をする警察と堂々と渡り合ったり、神業のポイント切り替えで衝突を回避したり、最後は政府高官にうとまれて解任されながらもなんとか列車を止めようとしたりと大活躍。この映画で最も漢らしい台詞もこの室長のものだし、もう影の主役といってもいいくらい。おいしいところは全部持っていってますよ。
 ストーリーには気になるところが山ほどあるし、犯人役の俳優もなんだか小太りで迫力がない。お世辞にも成功作とはいいがたいのだけれど、この室長のかっこよさだけでも見てほしいくらい。熱い鉄道マン魂にあふれる男の映画であります。
 あと、地下鉄内で当然のように携帯電話を使っていて違和感を覚えたのだけれど、ソウルの地下鉄では携帯電話が通じるし、あんまりマナーにも気を遣わないらしい(★★★)。

[映画]ボーン・トゥ・ファイト

 今日観た映画の中で最も楽しめたのは? と聞かれたら迷わずこの映画と答える。タイの国境近くの村に慰問に来ていたタイ王国を代表するアスリートたち。しかし、平和な村は突然ゲリラに襲われ、村人たちが次々と殺されていく。アスリートたちは鍛え抜いた己の技を生かしてゲリラたちに立ち向かうのだった! テロリストが村人たちを惨殺する場面の異様なまでのリアリティと、アスリートたちが技を使ってテロリストと戦う場面のバカバカしさのギャップがすばらしい。
 バンコクに向けられている核ミサイルの発射を止めに行く場面もすごい。ミサイルを制御するパソコンを見た主人公、操作法がさっぱりわからないので、突然うわーーーーーと叫びだし、キーボードをバンバンと叩くのだ。おいおい。続けてまたもやうわーーーーと叫びつつ、腹いせのようにテロリストに蹴りを入れるのだが、当然操作法はわからない。そうこうしているうちにテロリストにスイッチを入れられてしまい、ミサイルはバンコクへ。主人公、うわーーーーーと叫んでから、またキーボードをバンバン。祈るようにじっと画面を見つめる。核ミサイルはバンコクをそれて海に落ちました。ばんざーい。って、それでいいのか。
 絶対に何人か病院送りになってそうな真剣勝負のアクションもすごい(★★★★)。

[映画]ガルーダ

 全編CGを使ったタイ製怪獣映画。人間の1.5倍くらいという微妙な大きさの鳥モンスターが大暴れ。もっとしょぼくて笑える映画かと思ったのだけれど、意外にしっかりしていて笑いどころがほとんどないのには驚いた。怪獣映画の常道をふまえて作られており、よくできてはいるのだけれど、どうも作りが真面目すぎて遊びが足りないのが難点。あと、怪獣が暴れ出すまでが長すぎて、私はかなり眠くなりました(★★)。

[映画]リザレクション

 別題『マッチ売りの少女の再臨』。韓国版マトリックスとかSF超大作みたいな宣伝がされているけれど、実際はパロディ色の強いオフビートな珍品。低予算で撮って単館上映でもしていれば、知る人ぞ知る異色作として一定の評価が得られただろうに、何を間違えたのかものすごい制作費をかけた大作として撮ってしまったおかげで本国では興行的に大失敗してしまったらしい。まあ当然といえよう。
 ヴァーチャル・リアリティのゲームを舞台にした話なのだけれど、このゲームの目的からして変。ライターを買ってあげようとするNPCや他のプレイヤーを妨害し、マッチ売り(というかライター売り)の少女を無事死なせること。そして少女が死んだとき、少女に愛されていること。勝者には少女とともに生きる平和な暮らしが与えられる。というわけで、各プレイヤーによる少女争奪戦が繰り広げられる……。ただし、この少女が曲者で、とぼとぼ歩きながら無表情で「ライター買って下さ〜い」としか言わないのだ。「ライターのガスでも吸っていい夢見ろよ」とか罵られるとその通りにしてしまう。かなりバカです。なんでこんな女を争わなきゃいけないのよ。しかも、途中からは物語はどんどん妙な方向にねじ曲がっていき、観客が置いてけぼりにされている間に、なんだかエヴァっぽい結末に至る。普通のエンタテインメント大作だと思って観ると困惑すること請け合いの、わけのわからない話なのだけれど、『マトリックス』みたいに大上段から深刻ぶってみせるのではなく、チープさ、バカバカしさを前面に出し、バーチャルネタ自体を斜めから見ているような開き直った態度が、これはこれでなかなかいい味を出してます。
 舞台挨拶にも立っていたイム・ウンギョンはこの世のものとは思われないほどかわいいが、映画では「ライター買って下さ〜い」としか言わないバカみたいな役なので、あんまり魅力が発揮されていません(★★★☆)。


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Written by Haruki Kazano