読 | 冊 |
日 | 記 |
今日の毎日新聞で知ったのだけれど、パトリシア・ピッチニーニなるオーストラリアの新鋭美術作家の個展が、品川の原美術館で開催されているそうな。原美術館のサイトはFlashを多用しているせいで、ピッチニーニを紹介するページにたどりつくのがおそろしく困難なのだけれど、記事の写真で紹介されていた"We Are Family"と題された作品は、こんな感じ。これを見た瞬間に、うわあ、人獣細工! とうれしくなってしまい、絶対に見に行こう、と決意したのだった。ピッチニーニの公式サイトでは、ほかにもいくつもの作品が紹介されているのだけれど、諸星大二郎の「子供の王国」を思わせる老いた子供たちやら、肉塊を愛しげに見つめる女の子などなど、SF心をいたくくすぐるものがあります。現代社会への問題意識に満ちた作風は、同じオーストラリアのグレッグ・イーガンにも似ているかも。
明日にでも見に行ってみようかなあ。
というわけで、見てきました。於・原美術館。
感じたのは、SFも、こういうふうに見せれば現代芸術と呼ばれるんだねえ、ということ。作品の画像はピッチニーニのサイトで見られるのだけれど、奇妙な肉物質や人豚など濃厚な人体改造のイメージと、しわやしみ、毛穴のひとつひとつ、腕の産毛やほくろから生えた毛に至るまでスーパーリアルに作り込まれた造形は、一見の価値あり。
これはどうやら「現代美術」らしいのだけれど、それにしちゃものすごくわかりやすい(美術館には、ほかの作家の「現代美術」も展示されていたのだけれど、そっちはさっぱりわからなかったよ)。物語性がはっきりしていて、見た瞬間にぱっと過去のいくつものSF作品が思い浮かぶのですね。たとえば、うれしそうな少女とたわむれる妙な肉片は、クローネンバーグ監督の『イグジステンス』を思わせるし、プレーリードッグと人間のハイブリッドのような生物が何匹もいるのは『アフターマン』あたり。"Game Boys Advanced"と題された作品の、ゲームに興じる老化した子供というイメージは、諸星大二郎の『子供の王国』ほかあちこちで見たことのあるものだし、人豚はもちろん『人獣細工』。そもそも、人体改造自体、SFじゃおなじみのもの。
SFやアニメ、ハリウッド映画など、我々の記憶に残っている人体改造イメージを、きわめて精密に作り込んで再現する、というのがこの人の作風なんじゃないかと。その反面、確かに見た目のスーパーリアルさはインパクトがあるのだけれど、イメージそれ自体はどっかで見たことある、と思わせてしまうのが弱点でもありますね。不可解なことに、会場で売られていたパンフにも、SFや映画などのサブカルチャーへの言及はまったくないのだけれど。
でも、これは間違いなくSFだと思うぞ。
最近のトリビアには、これは常識じゃなかったのか、と思われるものが多い。「神様を数える単位は「柱」」とか「浦島太郎は玉手箱を開けておじいさんになったあと鶴になった」とか、「古代オリンピックの選手は全員、全裸で競技をしていた」とか。特に、今日の放送の「日本人女性が下着を付けるようになったのは デパート火災のせい」には、井上章一が抗議しそうである。