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更新日: 2004/10/06


2003年 8月下旬

2003年8月24日(日)

DASACON

 行ってきました。パワーズ好きとしては、ひさしぶりにスチームパンクについて語れたのがたいへん楽しうございました。またパワーズ訳されないかなあ。

Paycheck

 フィリップ・K・ディックの「報酬」が、ジョン・ウー監督、ベン・アフレック、ユマ・サーマン主演で映画化。すでに予告編が見られるのだけれど、あんまりジョン・ウーっぽくなくて地味な印象なのが不安です。

フィニイ128のひみつのひみつ

 DASACONで安心したのは、私も含め、誰ひとりとしてフィニイ128のひみつが理解できていなかったこと。この小説、思わせぶりな描写で読者をいらだたせることが目的だとしたら、かなり成功しているといえよう。SFマガジンやbk1での自作解説も、いらだちを高めこそすれ、理解の助けにはなってくれていない(それに、個人的には、自作について冗舌に語る作家はあまり好きにはなれなません)。
 これだけ読者に不親切で理解しづらい作品というのは、やはり成功作とは言いがたいと思うのだけれど、書評を書いておきながら理解できていないのも業腹だ。そこで、フィニイ128のひみつを少しでも理解しやすくするために、作中に登場する気になる記述を抜き出してみた。もちろんネタバレ全開なので、未読の方は以下は読まないように。

02 死んだ叔父のヨットのキャビンで『フィニイ128のひみつ』と書かれた黄ばんだメモを発見。

03 以前から購読していたコンピュータ関係のニュースグループで、ジュリアン・R・カロドナーの投稿にfinney128という文字列を発見。カロドナーにメールを出すと、「暁の舞踏会」に招待する旨の返事が来る。

04 主人公、卒業作品の取材、という名目でアメリカへ(つまり主人公はだいたい大学4年生くらいの年齢ということか)。

05 「DINOSAURS」と題された謎の断章。

06 機内でるみと出会う。

07 2日深夜、成田発ロス行きユナイテッド航空890便がハイジャックされる。ロスで給油後再び離陸し、同日午前6時過ぎ(現地時間1日午後3時すぎ)デンバー空港で着陸に失敗し、乗客・乗員に数十名の死者。

08 「コロラド州境にダイナソーという町がある」とるみ。主人公の名前を含む死亡者リストがテレビで流される。

13 るみもしくは主人公が髪を脱色。

16 主人公、ニューヨークのW&W会場で、どこかで見た覚えのあるラテンアメリカ系男性を見かける。

17 体格のいい白人男性テイラーと出会う。彼は、戦友の仇であるセイラムという魔術師を捜している。

24 「同人に死す」 20世紀のアマチュア作家K.F(1971-1998)

25 「夢」 「分節化された地獄のなか、ボクたちは着実に死にむかって歩んでいく」

26 るみの失踪について警察の捜査と現場検証。「Rは事務局にいる」というメールが届く。

27 ロングボーからHaRUMあてのメール。「Re:ネックレスの件」

2B 情報屋ロングボーと接触 メールの件については一切言及なし。

30 「この美しい地球(テラ)を守らなければならない。私は妙な使命感に燃えていた」

36 “闇の子”ティム・スタンフィールドが6年前にこのゲームをはじめた。特権会員になると地下にもぐってしまい、一般のプレイヤーにはまったくその活動が見えない。運営母体であるNERDSは世界中に支部を持ち、外国の財団ともつながりがある。“闇の子”に対する特権会員たちの忠誠心はおそろしく強固で、その気になれば何かを起こせるだけのネットワークと資金力がある。

41 テイラー失踪

43 ハイジャックで死亡した乗客の中にアフリカのX国の有力議員。これをきっかけにX国では与野党の対立が再燃。隣国Y国でも反政府勢力との武力衝突が激化。サソリのネックレスをつけ、左目が義眼のラテンアメリカ系の男、ブエノスアイレスからサンパウロへ。

50 1993年、Y国のジュラ紀の地層から龍の化石が出土(ゲーム内か現実か不明)。

53 ジミー・イート・ワールドの新曲。"And how long would it take me..." この曲は1999年の"Blister"。これによって作中の年代が1999年であることがわかる。

5A コロラド州ダイナソーで、日本とアフリカのY国に印の付いた地図を発見。

5D 地図に付いたらせんの印は「聖なる印」であり、輝かしき人々の遺跡を示す。ティム・スタンフィールドはかつて日本とアフリカに滞在していた。

65 M県マサラギ島でサハラというキャラクターネームの女の子と出会う。
 「カリフォルニア州山中で遺体で見つかった女子高生――さんの遺骨が成田空港へ無言の帰国」というニュース。

6F 謎の断章。サラバとはるむの会話。屋根裏部屋でアマチュア作家の草稿「フィニイ128のひみつ」あるいは「斑点」を見つけて持ち帰る。ヴォネガットの『猫のゆりかご』のパクリ?

71 主人公、銀縁眼鏡の特権会員に「フィニイ128のエージェント」と名乗る。特権会員の台詞「借りは返したぞ」。「テイラーは無事。南米にわたった」

73 14日にX国に非常事態宣言。大統領の退陣要求デモ。今年の初頭、Y国の鉱山地下から巨大な地底湖が見つかる。Y国は国境封鎖中。

75 「ゆううつ保険」「しんぱい生命」という看板。そんな看板が現実にあるはずがない。これは現実?

78 X国とY国で武装勢力による同時クーデター。他国の資金援助を受けた正体不明の勢力。
 空港で「てら」という女の子にハートのブレスレットを渡す。わたしの左手首の内側には消えない斑点がある。

7C 26日に軍事クーデターが発生したアフリカのX国で武装勢力が全権を掌握。Y国でも主要施設制圧。
 "OTOWA Rumi age:16 Hair:Brown"というファイルを見て、「そんな娘は最初からいなかったんだ」と誰かが気づく。
 紺のロングコートの外国人が特権会員を問いつめる。なんとか128のエージェントと名乗っていた「彼女」は小柄で髪は栗色のショート。「もしも彼女がそれを思い出したら……」とつぶやいて外国人は走り去る。

7E 南米の――で新大統領が誕生。大統領の後ろに左目が義眼でネックレスをしたSP。それを見た主人公は何かを思い出す。「飛行機――空港?」

7F テイラー再登場。不審な人影を尾行して南半球まで行ったが途中で見失った、という。

80 ティム・スタンフィールドと出会う。主人公と同年代の金髪の白人青年。
 「同氏は財界の出身で、海外資本との太いパイプと知名度をバックに、無所属候補ながら半年ほど前から国民の間で急速に支持を伸ばし、投票日の直前に行われた最後の予備調査でついにトップに立つと――」

 まず思いつくのは、実は08で主人公は死んでいるのではないか、という解釈。この解釈だと7Cで「そんな娘は最初からいなかったんだ」というのは、るみではなく主人公のことになる。しかし、主人公が死んでいると何でもありになってしまうので、あまりこの解釈はとりたくない。
 主人公の名前。もりげさんが指摘していたように、27の「HaRUM」と6Fの「はるむ」の共通性が気になるが、主人公の名前が「はるむ」であるというわけではないだろう。ロングボーにとっては主人公はマクシミリアンであって、本名で呼ぶことはないはずだから。7Cの"OTOWA Rumi"→"WaRUM"→"HaRUM"? また、「HaRUM」は英語読みをすれば「ヘイラム」。これは、テイラーの親友の仇の名前「セイラム」に通じる。
 「テイラー」と78に登場する女の子「てら」、そして30の唐突なルビ「地球(テラ)」の一致。これが何を意味するのかよくわからない。
 16、43、7Eに登場する「ラテンアメリカ系の義眼の男性」は誰か。主人公は7Eで何を思いだしたのか。
 65で無言の帰国をしたのはるみ?
 6Fの小説のタイトル「斑点」と78の「左手首の斑点」。
 36の記述からすると、X国、Y国での武装勢力というのはNERDSの特権会員か。とするとハイジャックを画策したのもNERDSか。
 ゲーム世界では、ディアドラ師や「仮面」のように、外見と役柄は必ずしも一致しない(カーラ・ルクセンバーグのように、外見と役柄が一致している者もいるが)。40では主人公は「杖を持った女神」を演じ、56では「神出鬼没のUFOガール」と言われているが、主人公のキャラ「マクシミリアン」は男性名であり、女神役にはなりえないはず。なぜ他のプレイヤーは彼女を女神役として受け入れたのか?

 意味ありげな部分を書き出してみたのに、結局わからないことだらけ。誰かこの小説が理解できる人がいたら教えてください。

2003年8月25日(月)

フィニイ128のひみつのひみつのつづき

02 唐突に「ゆうじ」という名前が登場し、それ以降まったく出てこない。おそらく主人公の弟?

36 このゲームの始まりは6年前。53より、作中の現在は1999年。つまり、ゲームは1993年に始まったことになる。そして、50より、1993年にはY国のジュラ紀後半の地層から龍の化石が出土している。そしてこれが「ことの発端」であると。

40 全128章のちょうど折り返し点に「反転」という章。「そのとき、私の世界が反転した」。これは単に現実からゲーム世界に入り込んだことを意味するのか、別の意味があるのか。また、「反転」は、6Fに登場する小説『斑点』と関係があるのか?

42 主人公が入力した数字は「51」。それによって西暦2222年2月23日、月が破壊される。これがW&Wワールドブックで描かれている「大破壊」(2A)の真相。

62 主人公、「エリア51」と書かれたコピーを読む。
 「ステイプルX博士ならフィニイ128のひみつを知っていたに違いない」
 「本って右から並べるんだったっけ、それとも左から?」

64 ステイプルX信奉者は「この世に愛は存在しない」と信じている。主人公は70の世界のカタスミで「愛」を手に入れ、78で「てら=地球」に手渡している。64の青年によれば「戦争は愛ゆえに起こる」と。

6F ここで言及されるアマチュア作家は、26のアマチュア作家K.F氏(1971-1998)と同一人物か?

73 バスを待っているとき、幼稚園に通っていた頃毎日歩いていた細い道が目に入り、呪縛にも似た感情にとりつかれる。結局その道には入らずバスに乗る。いったい何の意味がある描写なのか不明。

80 80はもちろん10進数の128。妙に大きく書かれた「fin」の文字は"finney"を示しているのか。

 あとは、各章は時系列順にならんでいるのか。どうもロングボーからメールの返事が来る27と、ロングボーに出会う2Bは時間的順序が逆のように思える(いや、それとも27のメールは主人公宛てではないのか?)。また、もしかしたら42と62も(そうでないと、なぜ主人公が「51」という数字を思いついたのか説明できない)。「本って右から並べるんだったっけ、それとも左から?」というのは、この作品中では時系列が逆になっていることを意味しているのか?

 なんかものすごく不毛なことをしているような気がしてきました。

2003年8月28日(木)

[映画]トリプルX(VIDEO)

 ビデオで見ました。
 全編が007のパロディのような映画。冒頭ではスーツ姿で決めたスパイが殺されるし、MにQにボンドカーまで出てくるよ。ラストシーンはいわずもがなだし、スタッフロールの後ろでは007のオープニングっぽい映像が流れる徹底ぶり。ただし、ヴィン・ディーゼル演じるザンダーはアンダーグラウンドのヒーローという設定なんだから、007のパターンを破壊するくらいもっと暴れ回ってくれるのかと思ったら、意外に品行方正だしパターン通りの活躍しかしないのでがっかりだ。
 しかしアーシア・アルジェントほど南国のビーチが似合わない女はいませんな(★★☆)。

フィニイ128

 2ちゃんにひみつを解明した人が……。
 うーん、解明した人には申し訳ないけれど、私としてはこの解釈、納得いきません。私が列挙した不自然な点の半分も解明されてないし。
 新人作家の作品で難しいのは、読んでいて作者をどこまで信頼していいのかがわからないところですね。不自然な文章に出くわした場合、それが単に作者が稚拙であるためなのか、何かの伏線として置かれているの判別が難しい。ある程度作品を読んだことのある作家であれば、作者がどの程度信頼できるのかわかるので無用なストレスを感じずにすむのだけれど。信頼できる作家であれば緻密に読まなきゃいけないし、あまり信頼できないのであればそれなりに読む(もちろん、信頼できるかどうかとおもしろいかどうかは別の問題です。無関係ではないにせよ)。まったく情報のない新人作家の場合、その見極めができないのがつらいところです。
 ところで、ゴンドワナ大陸というのは、今の南米、アフリカ、インド、南極、オーストラリアなどを含む超大陸。ということは、新ゴンドワナ王朝を標榜する“闇の子”が手に入れたとおぼしき南米とアフリカは、両方ともゴンドワナ大陸に属している。例によって、このことに意味があるのかどうかよくわからないのだけれど。

掲示板に

 ぜんぜん返事しないですいません。そのうち……。

2003年8月31日(日)

川崎へ

 さて今日は、『28日後...』と『アダプテーション』の2本の映画を観たいのだけれど、これがどちらもほぼ単館上映。渋谷に行けば両方ともやっているものの、こういう種類の映画は、渋谷では混雑が予想される。長時間並んで待つのは嫌だし、次の回は満席なんてことになったら最悪だ。映画サイトで調べてみたところ、渋谷以外ではたった一ヶ所、意外な街で両方の映画が観られることがわかった。それは川崎!
 というわけで、川崎の偽イタリア街の中にあるシネコン「チネチッタ」に行って参りました。思惑通り、どちらもかなり空いていたので両方の映画が観たい方は川崎がお薦め。

[映画]28日後...

 『ザ・ビーチ』のダニー・ボイル監督、アレックス・ガーランド脚本による実にオーソドックスでよくできたゾンビ映画。ゾンビ映画とはいってもスプラッタなシーンはほとんどなく、いかにもイギリスらしい静謐な終末SFに仕上がってます(主人公たちが乗る車がロンドンタクシーだったり、後半の拠点が郊外のマナーハウスだったりするあたりもいかにもイギリス)。特に、かすかな希望にすがって主人公たち4人の疑似家族が旅をする、ロードムービー風の場面の哀しい明るさは絶品。。
 ショッピングセンターで嬉々として品物をあさる場面があったり、ゾンビを飼っている人間がいたりするあたりは、ロメロへのリスペクトでしょう。後半、ゾンビとの戦いではなく人間同士の醜い争いになっていくのもゾンビもののお約束か。まったく無人になったロンドンの風景は明らかに早朝に撮ったのだろうけれど、なかなか見応えがあります。これだけでも、同じく終末を迎えたイギリスを描きながら、荒廃したロンドン風景をほとんど見せてくれなかった『サラマンダー』よりずっとまし。最後のメッセージが"HELP"じゃなくて"HELLO"なのも、カラリと明るくていいですね。
 上映館も少ないし、タイトルも地味なので見逃されがちな映画だけど、イギリスSFファンなら必見の映画でしょう(★★★★)。

[映画]アダプテーション

 続いて『マルコヴィッチの穴』のスパイク・ジョーンズ監督、チャーリー・カウフマン脚本による新作『アダプテーション』。スーザン・オーリアン著『蘭に魅せられた男』(ハヤカワ文庫NF)の映画化なのだけれど、原作をそのまま映画化したわけじゃなく、脚本が書けないと悩むチャーリー・カウフマン自身やら原作者スーザン・オーリアンなど、実在の人物がわらわらと登場するメタな映画。いかにも『マルコヴィッチの穴』の脚本家ならではの作品である。こういうメタな展開はミステリ(特に日本の新本格)では別に珍しくない手法のような気もするが、まああちらの国には新本格ブームはなかったので斬新なのかもしれない。
 主人公のダメ人間っぷりは実にリアルに描かれているし、先の展開が全く読めず、どういう結末になるか予想がつかない宙づり感はカウフマン脚本ならではで、なかなかほかの映画では味わえないものなのだけれど、物語があれよあれよという間にエスカレートしていく快感は『マルコヴィッチ』の方が上。いかにもハリウッド調のアクションでしめるまとめ方もちょっと疑問。これはマッキーのアドバイス受けたおかげでこんなんなっちゃったよん、ということなのかもしれないが。
 しかし、こんな描き方されてるのに、よく原作者は自分の名前を使うことを許したなあ(★★★☆)。


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Written by Haruki Kazano