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サイコドクターあばれぶらり旅
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嗚呼サイコドクター何処へゆく

2006-04-08 [Sat]

エミリー・ローズ Gg[ubN}[N

 ホラー+法廷ものという異色の組み合わせで、これはなかなかスリリングな物語。医療ミス裁判とか、最近の日本のさまざまな事件を思わせるところもあって、けっこう考えさせられる話である。

 エミリー・ローズという少女が悪魔払いの途中で死亡し、神父が起訴される。検察側は少女の状態は精神症状であったとし、病院で処方された抗てんかん薬を神父が飲ませないようにしたことを問題視する。一方、弁護側は、エミリーの症状は精神病ではなく悪魔憑きであることを立証しようとする……という精神医学的な世界観と宗教的な世界観の対立を法廷闘争として描いてみせたなかなか野心的な作品、なわけだけれど。

 映画は神父に同情的に描かれているし、前半では明らかに精神疾患だったエミリーの症状が、後半になると精神疾患の域を外れ、悪魔憑きとしか思えなくなってしまうなど、映画制作者がどちらの見方に観客を誘導したいかは明らか。しかし、よく考えてみれば主人公である弁護士の弁護はかなりいい加減である。

 ちょっと前に、糖尿病の少女が、新興宗教団体の教祖に言われてインスリンを打たないでいたら死んでしまい、両親が提訴したという事件があったけれど、構造的には映画のストーリーもこの事件と同じ。女弁護士は、実際に悪魔憑きなのかどうか、悪魔払いが有効かどうかは脇に置いて、神父とエミリーの間に信頼関係があったことや、ともに悪魔憑きの信念を共有していたことを訴えて陪審員を説得するのだが、明らかにこれは論理のすり替えで、そんなことを言っては、新興宗教の教祖も無罪になってしまう。まあ、論理を巧みにずらしていき、実質的な勝利を勝ち取ってしまうのが敏腕弁護士たるゆえんなのかもしれないのだが。

 

 なお、この映画のもとになっているのは、1976年にドイツで起きたアンネリーゼ・ミシェルの事件であるそうだ。事件についてはこちらに詳しい(英語)。実際には、神父だけではなく両親も、病院に連れて行くのを怠ったという過失致死罪で起訴されている。こちらにはアンネリーゼの写真と墓の写真が載っている。実際にはアンネリーゼは餓死し、両親と神父が起訴されたそうだ。記事では、アンネリーゼはおそらくてんかんであり、悪魔払いよりもむしろ医学的な治療が必要だったのではないかと結論している。まあ、ふつうそうだよな。

 ちなみに、映画の字幕では"epilepsy"をすべて「欠神発作」と訳していて、「てんかん」という言葉を一切使っていないのだけれど、なぜこんなふうにしたのか疑問。そんなに「てんかん」を使うのが怖いのか。しかし原語で"epilepsy"と言ってるのに「てんかん」と訳さないというのは誤訳だと思うのだが。

 出演者では、悪魔に憑かれた少女を演じたジェニファー・カーペンターの演技がすばらしい。本当に何かに取り憑かれているような迫真の演技で、地味な映画をひとりで盛り上げていた(★★★)。

Tags: 映画
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