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2月20日(金)

 井上雅彦監修『変身』(廣済堂文庫)、ダニエル・キイス『眠り姫』(早川書房)、アンダースン&ビースン『イグニション』(早川書房)購入。うー、懐が痛い。アンダースン&ビースンがハードカバーに値する作家とはとても思えないのだが、「ケネディ宇宙センター版のダイハード」というあたりが、私のツボにはまりまくっているので、これは買わざるをえぬ(でもどう見てもSFではなさそうだ)。ダニエル・キイスはなあ……、実は私は精神科医でありながら(あるいは精神科医だからこそ)精神医学テーマの小説ってあんまり好きじゃないんだけど、まあお付き合いで読んであげましょうか、ってところ(それにしちゃ高いが)。

 このへんとかこのへんでの評判を目にして購入した上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫)読了。評判どおりの傑作ですね、これは。これだけ多彩な登場人物を、これだけ凝った構成で描いてごちゃごちゃした印象を感じさせないというのは、かなりの才能だ。ラストの余韻もいいし、90年代のクールな学園SFという感じ。今年読んだ本の中ではベスト。

 夜はフィギュアスケートを見るが、この順位決定法ばかりは納得がいかないなあ。あれだけ多様な要素からなる演技を、ふたつだけの数値で表現すること自体に無理があるとしか思えない。一応、ルールはここに詳しく解説されているのだけれど、それを見てもよく理解できない。どうも点数はそれほど重要ではなく相対的な順番が重要らしいのだが、なんでこんなにわかりにくいルールなんだろう。これまで何度もジャッジに泣かされてきたボナリー選手が、あえて禁止されている宙返りをやって見せたのは、理不尽なジャッジへの抗議なんだろうな。
2月19日(木)

 本当に風邪を引いてしまったらしくて、きのうは9時ごろに寝てしまったし、今日も朝からだるくて仕方がない。子供の頃、病人ばっかり相手にしているのに医者はどうして風邪を引かないのだろう、と不思議に思っていたが、自分が医者になってようやく真実を知った。医者だって体が弱い奴は弱いし、強い奴は強いのだ。
 朝日新聞の「ののちゃん」が、久々のヒット。「立ってくれ! やった、ニッポン、金メダル!」と大騒ぎするテレビを見ながら「あたりまえやけど、テレビは日本選手のことばかりやなぁ」とオバサンが笑うと、バアサンが「ほんまや。湾岸戦争みたいやな」とつぶやく。日本中がジャンプ陣の金メダルに湧き返るなか、よく描いたな。さすがはいしいひさいち。
 同じ新聞に載っている(新潟版は夕刊がないかわりに、前日の夕刊のマンガも朝刊に載っているのだ)「Mr.ボオ」は同じジャンプ競技を扱っていながら相変わらずのつまらなさ。オリンピック期間中ずっと掲載されている黛まどかの俳句もすごい。毎回、これのどこが俳句なんだ、というものばかりなのだが、今日は特に意味不明。

その後の男の涙冴え返る

 意味がわかりますか? 私は思わず、淫靡な想像に走ってしまったが(だって、その後といったら、「その後」しかないだろう、ふつう(笑))、そうではなく、カーリングでアメリカに惜しくも破れたあと、氷上ではばかることなく涙した日本チームの男たちを詠んだ句だそうだ。わかるかい、そんなもん。

 バイアスロンとトライアスロンとデカスロンが、全然違う競技で、ひとつとしてだぶっている種目がないというのはどうも納得がいかない。
2月18日(水)

 全国的にインフルエンザが大流行だが、私の勤める病院でも熱発者が続出、点滴をしたり解熱剤の坐薬を入れたりと、私も看護婦さんたちも大忙しで対応に追われている(医学界ではどうしたわけか、「発熱」ではなく「熱発」(ねっぱつ)という。わざと一般社会と違う言葉を使うことによって権威を保とうとしてるんでしょうかね)。病院では、発症後速やかに対応できるのが強みだが、一方ではいくら風邪の人が多くても学級閉鎖にするわけにもいかないので(あたりまえ)、下手をするとどんどん広がっていってしまう。患者さんたちを見ていると、どうやら今年の風邪は高熱が出て激しい悪寒を感じるのが特徴のようだ。私も肉体の健康さにはまったく自信のない方なので、早晩感染して寝込むことになるかもしれない。いや、きっとなるんじゃないかな。

 いきなり話は飛ぶが、「インフルエンザが流行する」ともいうし、「ルーズソックスが流行する」ともいってまったく疑問に思わないのは、不思議なことなんじゃないか。よく考えてみると、風邪などの病気と、商品やファッションが人気を得ることの両方が同じ言葉で表現される、ということは、決して自明ではないと思うのだが。
 たぶん、病気とファッションのどこかに似たところがある、ということに、我々は昔から気づいていたのだろうな。ドーキンスがミームという言葉を考えついたのはごく最近のことだが、私たちは昔から暗黙のうちにウィルスとミームの類似性に気づいていたのだ。いや、逆にドーキンスはこういう「流行」(influence)という言葉の使い方なんかから、ミームの概念を思いついたのだろう。
 ヒントは初めから目の前に転がっていたというのに、私たちはドーキンスに指摘されて初めてそれに気づいたというわけだ。なんだか悔しいが、これは、ミステリーだったら、最高の手がかりの隠し方ですね。「盗まれた手紙」みたいなもので。でも、ミームなんて、誰でも考えつきそうなアイディアだから、俺が先に思いついてたのに! という人も大勢いるんじゃないかなあ。
 なんだか全然まとまりがないが、風邪の話を書いていたら、なんだか本当に風邪を引いたような気になって寒気がしてきたので(笑)、今日はもう風邪薬を飲んで早く寝よっと。
2月17日(火)

 科学者の中にはユーモアのセンスのある人もいて、何か新しい物質だの現象だのを発見した場合、凝った名前をつけることがある。おかげでクオークには色や匂いがついているし、ニワトリにはソニックヘッジホッグ遺伝子(もっと適切なリンク先があったら教えて下さい)があることになった。
 医学界ではたいがい、病気にはアルツハイマー病だとかバセドウ病とか、発見者(というか、最初に論文を書いた人)の名前がつくことが多いのだが、中には粋な人もいる。
 たとえば精神分裂病やLSDなどで自分の体が大きくなったり小さくなったり、あるいは周りのものが大きくなったり小さくなったりして見える症状は、不思議の国のアリス症候群と名づけられている。ピーターパン症候群なんかとは違って、正式に医学界で認められた病名である。
 わざとらしい嘘の症状や病歴を述べ立てて何度も病院を救急受診する患者は、ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれている。ミュンヒハウゼンというのは「ほら吹き男爵」の名前だ。
 「配偶者が不貞を働いているという確信に満ちた妄想」を主症状とするオセロ症候群というのもわかりやすいですね(実際はあんまりこんな病名使わないけど)。
 極度の肥満と傾眠症、睡眠時無呼吸、右心不全などを特徴とするピクウィック症候群というのもあるけど、これはちょっと説明が必要。チャールズ・ディケンズの『ピクウィック・クラブ』(ちくま文庫)の主人公であるピクウィック氏が、極端に太っていて、大いびきをかいて居眠りばかりしているのだ。これは英文学の素養がいりますね。

 珍しいところでは、CATCH22というのがある。主要症状であるCardiac anomary(心血管奇形)、Abnormal face(異常顔貌)、Thymic aplasia(胸腺形成不全)、Cleft palate(口蓋裂)、Hypocalcemia(低カルシウム血症)の頭文字をとってCATCH。22は、22番染色体の微小欠失が原因だからだというのだが、こりゃ誰がどう見てもジョーゼフ・ヘラーの『キャッチ22』(ハヤカワ文庫NV)という小説のタイトルからとってるよなあ。命名者はD.I.ウィルソンという人。頭文字にこじつけられたときは、うれしかっただろうな(笑)。
 ただ、小説読んだ人なら知っているとおり、CATCH22というのは「究極の選択」というか、「どちらを選んでも救われない不条理な状況」を意味するわけで、患者の立場からすれば気持ちのいい名称ではないので改名すべきだ、という意見もある。確かに正論であって私もそのとおりだと思うのだけど、せっかく会心の命名をしただろうウィルソン氏がなんだかかわいそうな気もするなあ。新しい名前は22q11.2欠失症候群などという無粋な病名だというから特に。
 というわけで、医学界では凝った病名をつけたとしても、それが必ずしも受け入れられるとは限らない。粋な命名をするのもなかなか難しいのだ。

 『親も知らない子どもの正体』の書評を書く。よい子度チェックテストつき(笑)。
2月16日(月)

 自分のページで小説を公開している人はたくさんいるが、プロの作家や有名な作者のものをのぞけば、ほとんど読まれていないのが実状だと思う。もちろん探せば面白い作品もあるのだろうけれど、出版という最低限のハードルを超えていないだけに、箸にも棒にもかからない作品を読まされる危険性が非常に高いことは、当然予想できるだろう。私だって、出版されている小説を追うだけで精一杯で、千に一つの面白い作品を求めてウェブ上をさまよう気にはとてもなれない。
 それに、たとえ奇跡的に作品が面白かったとしても、今のブラウザ上ではもうひとつ問題がある。行間を調整できない現在の仕様では、日本語は非常に読みにくいのだ(まあ、これはこの日記も含め、すべての文章にいえることだけど)。縦書きに対応しろとまではいわないが、行間くらい自由にできるようにしてほしいのだが。
 そういうことはよーくわかっているのだけれど、それでも作品を公開せずにはいられないのは、創作者の性としかいいようがない(笑)。というわけで、私も数年前に書いた5作の短篇SFを公開することにしました。このページで私を初めて知った方はご存知ないでしょうが、私は精神科医をやっているかたわら、モノカキを目指して小説を書いている(いた)のであった。
 どれも短い作品で、そんなに時間はとらせないと思いますので、お暇な方はぜひ読んでみて下さい(前半と言ってることが全然違うぞ)。
 ちなみに、今まで公開できなかったのは、「松」形式で保存されていてコンバートできなかったため(笑)。松、好きだったのになあ。管理工学研究所も一太郎に負けて以来鳴かず飛ばずですね。松風は全然ダメそうだし。使ったことないけど。

 上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』、アレグザンダー『グッドホープ邸の殺人』、福島章『殺人者のカルテ』、スティーヴン・ライト『M31』、最相葉月『絶対音感』購入。ゾッキ本屋にてレ・ファニュ『アンクル・サイラス』、ウッドハウス『スミスにおまかせ』(創土社)購入。
2月15日()

 以前、掲示板で森山さんが精神医学の情報化について尋ねられていたのだけれど、実のところ精神科ってのは医学の中でもいちばん情報化が遅れている分野だと思う。他科と違って診療上、電子機器を使う必然性もないわけだし(使うとしても脳波計くらいのもの。もっとも、私の専門が精神科の中でももっとも文系よりの精神病理なのでそうなのかもしれないけれど)、カルテや処方も手で書いているところが大多数だと思う。
 私の大学の医局には3台ものパソコンがあるのだが、LANで相互につながってはいるものの、インターネットにはつながっていない。プロバイダと契約しよう、という意見もあったらしいのだが、「当直中の医者がアダルトサイトなどに接続しまくったら困る」という信じられないような理由で却下されてしまった。私らは中学生並みかい。
 というわけで、精神医学とコンピュータ、というのは今のところあんまり相性がいいとはいえない状況だ。たとえば、『こころの臨床a la carte』(本当にこういうタイトルなのだ。なんで「アラカルト」がつかなきゃならんのか、私にはさっぱりわからないのだが)という雑誌が、精神科専門誌としては珍しく、1997年3月号で「インターネットが意識を変える」という特集を組んでいるのだが、ふだんのこの雑誌から比べて、あまりにも薄い内容である。
 最初の論文(なのか?)からして、タイトルが「役に立つインターネットの利用法」で、小見出しには「インターネットとは何か」「インターネットで何ができるのか」(笑)。オヤジ向け入門書並みだよ、これじゃ。ホームページを開いている精神科医のYASU-Qさん(うちとは違って真面目な精神医学のページです)も書いているけど、これもインターネット入門に近い内容。
 結局、この号の記事は、インターネットはこんなに仕事に役に立ちますよ、という話と、ステレオタイプなインターネット害毒論の二つがほとんどなのだ。ひとつだけ、映画「ハル」を引用して、現実との新しい関係性が誕生していることを指摘している論文もあるけど、これだって一般誌に載ってもおかしくないようなもの。精神医学専門誌らしい深い読みはまるでなくてがっかりさせられる。
 さらに、その次の号に載っている「近年の犯罪心理−ヴァーチャル・リアリティと犯罪−」という論文ときたら、「VRによって現実と空想の境界が希薄になる」という言い古された言葉を無批判に繰り返すだけという、なんとも困ってしまうような代物。「VRを使ったゲームから、さらに進んだ仕掛けがサイバースペース(SS)である」などと意味不明の文も出てくる。恥ずかしいことに、この人はそのあとも何度となく「SS」を連発するのですね。ナチ親衛隊のことですか、それは(笑)。そもそもこの著者はサイバースペースが何なのか全然わかってなくて、ハビタットみたいなののことだ思っているらしい。こういう輩はギブスンでも読んで出直してきてほしい。
 てなわけで、精神医学界のインターネットやコンピュータに関する認識は、いまだにこんなもんです>森山さん。トホホ。

 2月11日の日記には「船木が心配」などと書いてしまったが、そんなのはどうやら素人の杞憂にすぎなかったようで、ラージヒルでは見事に金メダル獲得。それよりも偉大なる気分屋、原田のジャンプには度肝を抜かれた。前人未到の大ジャンプを決めたのに、飛型のせいで勝てないとは納得が行かないぞ。
2月14日()

 結局、荻原健司は4位、次晴が6位かぁ。でも、兄は順位を5つも上げているぞ。だから双子トリックを使っておけば……(まだ言ってるか)。
 岡崎朋美はライバル対決で島崎を下して銅メダル! 岡崎はそのまんまスポコンもの主人公、島崎は意地悪な(ほんとに意地悪かどうか知らないが)ライバル、という役どころですね。岡崎は確かにかわいい(笑)。でも、脇役好みの私としてはどうしても島崎に感情移入してしまうなあ。島崎は、自分よりはるかに人気のある岡崎に相当敵意を燃やしていただろうに。くじけるな島崎。
 見ていて意外に面白かったのがカーリング。手前で石を止めて壁を作るとか、わざとはずして相手に一手与えるとか、こりゃ確かに頭脳戦だわ。でも、スポーツというよりボードゲームの面白さだな、これは。
 それにしても、冬季オリンピックってのは夏のオリンピックと違って黒人選手がほとんどいない。確かにノルウェーとかスウェーデンとか緯度の高い国が有利だってこともあるのだろうけど、子供の頃から始めなければならず、やたらと金のかかる競技が多いだけに、貧しい層には難しいってのも原因なんだろうな。スキーもスケートも、要は金持ちのスポーツなのだ。そう思って見ていると、なんだか白人の祭典という感じでちょっと気味が悪い。
 そんな中で、日本はかなり健闘している方といえるだろうけど、いったい日本人のことを他の白人たちはどう思っているんだろうな。「俺たちのゲームなのに勝手に入り込んできやがって」とか思ってないかな(被害妄想か?)。
 「芸術点」とか「飛型点」とかで勝敗が決まってしまう競技が多いのもどうもカタルシスに欠けるところ。スキーのジャンプなんて純粋に空気力学の問題なのに、飛ぶ姿勢の美しさだのテレマークだので点が決められてたまるか、という気もする。今じゃ全盛のV字だって当初は飛型で減点されてさんざんだったし、いっそ飛型点なんてなくしてもいいんじゃないかと思うんだが。

 今日は池袋HMVでCDを買う。最近ではCDはめったに買わないのだが、買うときにはどっさりと買う。遊佐未森『ECHO』椎名へきる『Baby blue eyes』平岩英子『ユリイカ』マイケル・ナイマン"Concertos"、パッヘルベルのオルガン曲集"Hexachordum Apollinis"。私の大好きなへ短調のシャコンヌが収められているのだが(カノンだけの作曲家ではないのだ)、John Buttによるこの演奏は今一つ。ヴァルヒャの演奏がいちばん好きだなあ。それから、バッハ・コレギウム・ジャパンによるアーレ声楽曲集。米良美一の、本業のバロック歌手としての歌声が聴ける。同居人のために少年隊「湾岸スキーヤー」も忘れずに。この曲、数年前のザウスのCMソングのはずだったのに、いつのまに長野五輪のテーマに?

 シェリイ・スミス『午後の死』(ハヤカワ・ミステリ)読了。地味で渋いイギリス・ミステリだけど、こういうのもいいなあ。
2月13日(金)

 ノルディック複合のジャンプでは荻原次晴が3位、マスコミが勝手に金メダルを期待して本人にプレッシャーをかけまくっている健司は9位。明日は経験豊富な健司が次晴と入れ替われば、金メダルは確実だぞ(笑)。取ったメダルはもちろん「友情のメダル」のひそみにならって半分に割るのだ。
 スピードスケート女子500mで3位と4位につけた岡崎と島崎だけど、この二人が非常に対照的なキャラクターでおもしろい。アイドル顔でインタビューにもにこやかに答える岡崎に、こわもてで無愛想、勝って当然と言わんばかりの島崎。どちらもプロの(いやアマチュアだったな)自信にあふれたいい表情をしているのだけれど、やっぱり人気を得るのは岡崎というのが世の中の不公平さ。

 さてそろそろ私も精神保健指定医のケースレポートを書きはじめなければならない。レポートを書くにあたっては、「精神保健福祉法」という法律だの、施行規則だの、厚生省の通知だのといろいろと参照する必要があるのだが、これらはすべて「精神保健福祉関係法令通知集」という分厚くて重い本にまとめられている。これが非常に検索しにくい本で、法律に「厚生省令に定める事項については」などとあるたびに、目次を見ながらあちこちめくらなければならなくて(どの厚生省令なのか、どこにも書いてないのだ!)、法律には素人の私にとっては、非常に大変である。
 こういう本こそ、ハイパーテキスト化してCD-ROMで配布するべきなんじゃないのかなあ。「第18条第1項の規定に従い」とか書いてあるところをクリックすれば第18条1項に飛べたり、注1などとあるところを押せば関連する通知に飛べるようになっていればとても便利なのに(ちなみに、上のリンクはどこへも通じてません(笑))。まあ、こんなこと誰でも考えつきそうなことなので、法学方面では、こういう電子化はとっくになされてるんだろうと思うけど(それともまだなのか?)。

 大原まり子『タイム・リーパー』(ハヤカワ文庫JA)は、単行本で買ってあるのだけれど、ただただ鶴田謙二の表紙絵に惹かれて購入。マキャモン『ミステリー・ウォーク』(福武文庫)も買う。まだ文庫化されていなかったとはびっくり。今さらマキャモンを出すとは、完全に文庫化の期を逸しましたね。
 山田正紀『仮面』と積木鏡介『歪んだ創世記』の感想を書きました。
2月12日(木)

 松谷健二氏が亡くなったとのこと。本当に今年はSF関係者の訃報が続く。松谷氏といえばローダンをつい最近までたった一人で支えてきた人物。今後ローダンの翻訳はどうなってしまうんだろう。ペリー・ローダンというのは、文学的に価値があるというわけでもなし、かといってSFとして名作と呼ばれるものでもなし、翻訳家としてはあんまり報われない仕事だと思う。それを一人で黙々と続け、裏方に徹してきた松谷氏の努力には本当に頭が下がる。そういえば、「エッダ」の翻訳や、「ヴァンダル興亡史」や「東ゴート興亡史」などの著者として松谷氏の名前を見かけて驚いたこともあったな。一方では古典叙事詩を訳し、一方ではほぼ月一冊ずつローダンを訳す、ということを平然とやってのけてしまう松谷氏という人の懐の深さには感嘆するほかはない。果たして、「ソフィーの世界」の人にそれができるのかな?
 私も高校の頃いちどローダンに挑戦したことがあるのだが、タコ・カクタとかイシ・マツという異様な名前の日本人ミュータントたちが活躍していたあたりで挫折してしまった。しかし、今思えばあのへんで挫折してよかった。一気に50巻あたりまで読んでいたとしたら、引っ込みがつかなくなっていまだに読み続けていたことだろうから(笑)。

 積木鏡介『歪んだ創世記』(講談社ノベルス)読了。こいつはすげえ。さすがはメフィスト賞。ラスト80ページの暴走ぶりといったらもう(笑)。ここまですさまじい小説を読んだのは久しぶり。読むべし、読むべし、読むべし。
2月11日(水)

 話題の文藝春秋3月号を買ってくる。酒鬼薔薇君の供述調書が47ページにもわたって掲載されている号だ。調書を読むと、少年を殺害したときの細かいディテールは、それはもう嫌というほどわかるのだけれど、酒鬼薔薇君の心情の方は全然伝わってこない。「続きは次回申し上げます」などと、本当に彼が言ったのだろうか。警察官の筆というフィルタを通した彼の告白からは、彼の特異性がまったく感じられないのだ。
 これはもう不可能なことなのだろうけれど、やっぱり、事件について彼自身の文章で読みたかった。彼の文章ってのは、挑戦状にしても「懲役13年」にしてももちろんフィクションまじりなんだろうけど、一種異様な吸引力を持っていて、事実を連ねただけの調書よりも彼の心情を的確に表現している。その意味では、彼は天性の表現者だったのかもしれない。私たちは、惜しい作家の卵をなくしたのかも。いや、でも医療少年院を出る数年後には、一切姿を見せないまま「酒鬼薔薇聖斗」として作家デビューし、カルト的人気を博す可能性もないとはいえないぞ。あるいは、バモイドオキ神を信奉する破壊的カルトのリーダーとして祭り上げられるかも……。
 そういう不謹慎な想像はおいとくとして、不思議に思うことがひとつ。FOCUSが顔写真を掲載したときは、置かない書店が山ほど現れたのに、今回はそういう話は全然聞かないということ(営団地下鉄の売店では売らなかったようだけど)。これは、やっぱりFOCUSと文藝春秋の雑誌の「格」の違いなんだろうなあ。違法性としては今回の方がはるかに上だと思うのだが。流出した調書を載せたわけだし。

 オリンピックではモーグルで里谷多英選手が金メダル獲得。解説者の「すげー」という興奮した言葉が耳に残る。競技前は上村愛子選手ばっかり追っかけていたマスコミが、手のひらを返したように里谷選手にすりよっているありさまには、もう笑うしかないでしょう。
 期待されていた船木は銀。唇をかみしめてインタビューを受けている様子は悲壮としかいいようがない。確かに世界のチャンピオンとしてのプライドがあるのだろうが、「今度は必ず金をとります」と語る表情の硬さが、私にはとても心配である。「平成の日の丸飛行隊などと言われてますが、ぼくらは日の丸特攻隊のつもりでいます」とも言っていた。自分を「特攻隊」と規定するとは尋常ではない。プレッシャーに押しつぶされなければいいんだけど。

 山田正紀『仮面』(幻冬舎ノベルス)読了。今回はハズレ。山田正紀といえば、新聞のテレビ欄によれば、10日の火曜サスペンス劇場「家族の48時間」の原作が、なんと山田正紀であったのだった。山田ミステリというと、まさか『螺旋』? 『妖鳥』? と思ってエンドクレジットだけを見たら、原作『愛しても、獣』だそうな。そういやそういう本もあったなあ。『女囮捜査官』でミステリ作家として復活する前のつまんなかった時期に出た作品ですね。山田正紀ファンを自任している私ですら読んでないのだが。

過去の日記

98年2月上旬 ナイフ犯罪、DHMO、そしてペリー・ローダンの巻
98年1月下旬 肥満遺伝子、名前厄、そして大阪の巻
98年1月中旬 北京原人、アンモナイト、そして織田信長の巻
98年1月上旬 さようならミステリー、星新一、そして日本醫事新報の巻
97年12月下旬 イエス、精神分裂病、そして忘年会の巻
97年12月中旬 拷問、ポケモン、そして早瀬優香子の巻
97年12月上旬 『タイタニック』、ノリピー、そしてナイフで刺された男の巻

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