12月31日(水)
午後から鎌倉の実家へ帰る。同居人が実家に泊まるのは初めてなので、母親はなんだか妙にはりきってご馳走を作っている。私が家にいたころは、こんな食事を食べたことは一度だってなかったぞ。父親は緊張してしどろもどろだし。
紅白はほとんど見ず、ときどきドロンズ特番を見る。ドロンズは猿岩石よりも芸があり、逆にそこが猿岩石よりもつまらない。猿岩石は大方の予想を裏切って、いまだに芸能界で生き残っているが(お笑いとしてではないが)果たしてドロンズはどうか。私は来年の終わりには消えているとみるが、どうなるかな。二匹目のどじょうをなんとかあてた電波少年が次にどんな企画を用意するかも気になるところ。
12月30日(火)
今月初めにホームページを立ちあげてから、トップページのカウンタは27日間で340まで上がった。私自身を除くと、だいたい1日11人程度が読んでくれているということになる。まったくの無名人のページだし、特に売りがあるわけでもないのだから、これくらいで上出来だろう。読んでくださっているみなさんに感謝します。
でも、まさか、この日記のページだけ読んでる人はいないよね? そういう方はちゃんとトップページも1回は見るように。私は日に日にカウンタが上がっていくのを
とても楽しみにしているのだから(だからといって何度も再読込したりしないようにね)。
島田清次郎
『地上』(新潮社)読了。なるほど、ベストセラーになるのもうなずける、読みやすくドラマチックな展開。しかし、主人公が宿敵と出会ったところで終わりとは、なんとも。解説によれば、続編でも別に宿敵と対決したりはしないようだし。なんなんだ、これは。
島田清次郎は今では忘れられた作家だけれども、「栄光なき天才たち」で取り上げられたり、モックン主演でドラマになったり、知名度は徐々に上がってきている。なんと
島田清次郎のファンページまで発見(今年6月以降更新がないようだけれど)。
『地上』は現在きわめて入手困難な本だし、島田清次郎を扱った本にもあらすじはほとんど載っていないので、いずれ詳しいストーリー紹介つきの感想を書く予定。乞御期待。
というわけで、明日から実家に帰るため、今年の更新は今日でおしまい。
ではみなさん、よいお年を。
12月29日(月)
同居人と一緒に秋葉原へ掃除機を買いに行く。彼女は日本製の掃除機には見向きもせず、輸入家電を置いている店へと直行。彼女によれば日本メーカーの掃除機はみんなダメであり、ドイツのミーレ社製の掃除機がいちばんいいそうだ。そんなものなのか。
しかし、ヨーロッパ製の家電というやつは、どれをとってもやたらと大きい。冷蔵庫も洗濯機も、こんなものどこに置くのかと思うほどである。掃除機のカタログによるとヨーロッパの平均的なご家庭の主婦は、3LDK、80m
2の家やアパートに住み、週に2、3回掃除をするそうだ。日本に80m
2の家に住む人がどれだけいるというのか。これだけ広ければ大きな家電を使っても困ることはあるまい。
さて、ドイツ製の掃除機もやはり日本製よりも大きく重く、そして値段も高い。こんなものどこがいいのかと最初は思っていたのだが、カタログを読んでこれもいいかもしれないと思うようになった。そもそも設計思想が日本製とは根本的に異なっているのだ。吸引力は日本製よりも低いのだが集塵力と空気清浄力が優れている。さらに日本製よりもはるかに耐久性が重視されている。0.3ミクロン以上の粒子なら99.97%集塵し、20年間使用できるように設計されているとのこと。99.97%というあたりがいい。パソコン者はスペックに弱いのである。
私には舶来(古い言葉だね)ものやブランドものをありがたがるという性癖はないのだが、この掃除機に限っては国産より優れていると認めてもよかろう。ただむちゃくちゃ大きい同じメーカーの冷蔵庫は買う気にはなれないけどね。
12月28日(日)
今年買いそびれていた本を買いに行く。松尾由美
『マックス・マウスと仲間たち』、シュミット+ズブリン編
『未来宇宙技術講義』。前者は
タニグチリウイチ氏のページで、後者は
森山和道氏のページで書評を読んで気になっていた本。どちらも定番書評ページですね。いつもどうもありがとうございます。
当ページもそういう頼りになる書評ページを目指しているのだけれども、今の読書ペースでは、冊数がある程度増えるまでにはかなりの時間がかかりそうだ。しかし、森山氏の読書量は驚異的である。どうやって読んでるんだろう。
帰ってからは、ひたすら年賀状を書きまくる。今年結婚した通知もかねているので、やたらと枚数が多い。はたして今年中に書き終えることができるであろうか?
というわけで『地上』は読むひまがなかったので紹介は次回以降に。
12月27日(土)
SFマガジン500号のエト・セトラの欄に、私がかつて所属していた
「新月お茶の会」の会誌「月猫通り」発行の告知がある。これを見て買おうと思う人間が果たしているんだろうか。隣の「COSMOS」と比べるとOBとしてちょっと恥ずかしい。
今読んでいるのは大正時代の作家島田清次郎の
『地上』(新潮社)。島田清次郎は今ではすっかり忘れられているが、わずか20歳のデビュー作『地上』が大ベストセラーとなり、自らを天才と称して「精神界の帝王」とまで豪語した作家。でも陸軍少将の令嬢を誘拐して監禁凌辱したという事件をきっかけにまたたく間に人気を失い、狂人として精神病院に収容されて31歳で死亡。なかなか豪快な生涯だ。
私は「栄光なき天才たち」で彼のことを読んでから、ずっと『地上』が読みたいと思っていたのだがどこにも見つからず、最近やっと某所の古本屋で見つけたのだ。といってももちろん大正の初刊本ではなく昭和32年に映画化されたときの復刊本。値千円也。
売れていることを鼻にかけたり、大言壮語をかましたりするあたり、私は「島田清次郎=大正の梅○○○」なんじゃないかと思っていたのだが(笑)、実際読んでみるとなんだか作風は「大正の江川達也」という感じである。
冒頭がすごい。柔道初段の長田が、
美少年の深井に
「稚子さん」になれ、と組み敷いているところを、主人公の級長大河平一郎が「はなしてやれ」と止めるのである。深井は
「黒い睫毛の長い眼に涙をにじまして」立ち上がる。長田は平一郎と深井をにらみ比べて、
「大河、お前こそ、をかしいぞ!」と捨て台詞を残して去って行く。
「時折信頼するやうに見上げる深い瞳の表情は、平一郎にある堪らない美と誇らしさをもたらした。平一郎は実際、自分と深井とは少しをかしくなつたと思つた」。
どういう展開になるのかとわくわくしたのだが、残念ながらそういう話ではなかった(笑)。
続きについてはまた日を改めて。
12月26日(金)
鈴木光司
『らせん』(角川ホラー文庫)読了。あの『リング』がまさかこうなるとはなあ。ホラーというよりは、ホラ噺だな、これは(ほめてるんだよ)。ここまでぬけぬけと嘘をつかれるとむしろすがすがしい。ただ一点納得が行かないのは、記憶がDNAに乗って遺伝してしまうところ。それ自体はホラ噺なんだからいいんだけど、さらりと流さずにここはもっとちゃんと嘘をつくべきところだと思うけどなあ。
ああ、舞ちゃん好きだったのに。『ループ』で再登場するわずかな可能性を信じて来年を待つぞ。
東京に戻ってきたので
SFマガジン500号を買う。小林泰三、高野史緒、牧野修と、注目作家目白押しだし、光瀬龍御大の短編(金森達のイラストつき)が読めるのもうれしい。山田正紀新連載に、雪風シリーズ再開かあ。おお、友人の作品がリーダーズ・ストーリイに載っている(森下一仁師匠の日記で知ってたけど)。別の友人は、てれぽーとで梅原克文にただ一人ほめられ、「一筋の光」とまで言われている(笑)。
オールタイムベストの日本編発表。『星海の紋章』『ハイブリッド・チャイルド』『銀河英雄伝説』『グイン・サーガ』など、プロとアマとで極端に評価が違う作品がいくつもあるのが興味深い。まあ、プロの方が平均年齢が高いのが大きな理由だろうけど。私としては、『ハイブリッド・チャイルド』のベストテン入りは文句ないが、あとはちょっと首をひねる口。
記念号だけあって、さすがに読みでがある充実した誌面。これからゆっくり読もっと。
しかし、ビデオ版『母なる夜』の解説が爆笑問題の太田ってのは何故だ?
ほかに買い物は唐沢商会
『ガラダマ天国』(ぴあ)、やっと出たとり・みき
『SF大将』(早川書房)、朝香祥
『鳳凰飛翔』(コバルト文庫)。
夜は、池袋で
森下一仁師匠の空想小説ワークショップ大忘年会。ゲストとして中井紀夫さんと伊藤典夫師匠も来る。リーダーズ・ストーリイに載ったのも、「一筋の光」も、この会の友人である。「一筋の光」氏は、今年いちばんうれしかった、とまで喜んでいたが、今、梅原氏にほめられるということは、そんなにうれしいことではないような気もするのだが(笑)。まあ、本人が喜んでいるのならいいか。
二次会は八人程度で中井紀夫さんと一緒に庄やへ。なんだかいろいろ濃い話題で盛り上がったような気がするが、よく覚えていない。2時半ごろまで飲んでタクシーで帰宅。
12月25日(木)
スティーヴン・マーティン・コーエン
『マンハッタン市街戦』(創元ノヴェルズ)読了。ひとことでいえば
バカな話である。ひねりのないストーリーといい、主人公の飛ばす笑えないギャグといい、ハリウッド製B級アクション映画そのまんま。マンハッタンでどかんどかんと爆弾が爆発し、人が死にまくる。三人組の犯人を警察側の三人の主人公が追うのだが、頭脳戦なんてのは展開されなくて、どちらの陣営もまるっきり行き当たりばったり。まさに
バカばっか。最も驚愕したのは、犯人からの脅迫状に
暗号が記されているのだが、そんなものだれも気にせずにアクションシーンを展開し続け、
結局何の意味もないままに終わること。暗号ミステリのコードの解体、とかそういう意図は作者には全然なさそうである。
午後からは山奥の老人保健施設と診療所へ。診療所があるのは柏崎市大字女谷というところ。女谷と書いて「おなだに」と読む。何でも鎌倉時代にはここに平家の落ち武者が住んでいたという。また、江戸時代には遊女が住んでいたため、女谷という地名がついたという話を人に聞いたが、どこまで本当なのかはわからない。だいたい、今でさえ柏崎市街から車で20分もかかるような山奥に遊女がいて商売になるのかどうかも疑問である。むろん、今では遊女などどこにもおらず、暮らしているのは老人たちばかり。
12月24日(水)
精神分裂病の患者さんは、最初の頃こそ幻覚やら妄想やらが出現したり、あるいは興奮して暴れ出したりして、我々を楽しませたり苦しませたりしてくれるのだけれども、発症から十年二十年とたった患者さんの中には、派手な症状は影を潜め、ただぼーっと一日を過ごすようになる一群がある(もちろん治る患者さんもいるし、幻覚妄想が残る患者さんもいる)。思考や感情は平板化して、人との接触も少なくなる。これを、伝統的なドイツ系の用語では
欠陥状態(Defekt)というのだけれど、いくらなんでも欠陥はないだろ、欠陥は、ということで、最近ではアメリカ流に
残遺状態と呼ぶことが多い。
担当の患者さんに、もう十数年閉鎖病棟に入院している分裂病の女性患者がいる。最初話したときには、何を聞いても無表情に「はい」か「いいえ」と簡単な返事をするばかりで、典型的な残遺状態にみえた。しばらくそんな無味乾燥な面談を続けたあと、あるときふと、週に一度行われる売店での買い物について聞いてみた。すると彼女は急にいきいきとした顔になって、その日売店で買ったものを列挙し始めた。そしてそれからは自分からうれしそうに買い物について話すようになったのである。長い間入院している彼女にとって、たぶんそれが唯一の楽しみなのだ。
またあるとき、彼女に睡眠について尋ねると、ひとこと「夢を見ました」という。私が「どんな夢を見たの?」と聞くと、困った顔になって「わかりません」という。それから毎回のように「夢を見なくなりました」「まだ夢を見ます」と報告してくれるのだが、内容はいつも「わかりません」である。もしかしたら悪い夢でも見ているのではないか、と思って「夢を見るとつらいですか」と聞いてみたら、「夢見て楽しんでます」とにこやかに答えたのでほっとした。
彼女の夢というのはいったい何なのだろう? 毎回自分から報告するということは、彼女にとっては重要なことに違いない。たぶんそれは何か言語に絶する体験であり、彼女はそれを表現する言葉を知らなかったため「わかりません」としか言えなかったのだと思う。少なくとも、我々非分裂病者の「夢」とは違ったものにちがいない。我々の言語は、分裂病の体験を的確に表現するには、あまりにも不完全なのだ。だから、ある種の分裂病患者は奇妙な言葉や文字を作って説明しようとするし、それよりも表現力のない彼女のような患者は、説明しかねて押し黙ってしまうことになる。
彼らの体験は、おそろしいものであることがほとんど(誰かに見られているとか迫害されているとかいうように表現されることが多い)だが、中には彼女のように楽しい体験だと語る患者さんもいる。彼女の体験している世界を少しだけでいいからのぞいてみたいと思うのだが、たかだか非分裂病者でしかない私にはそれは到底不可能なことなのである。
柏崎の冬には珍しく、今日もよく晴れた暖かい日。
12月23日(火)
『RIVEN』の世界は、ところどころにかすかに人間が登場するものの、やはり前作と同じく非人間的な美しい廃墟。現れる謎もきわめて論理的なので考えればなんとか解けるようにできている。この突き放された感触がたまらない。さすがあの『MYST』の続編だけあって、完成度が高い。
それに比べて『DEMENTIA』は、すでにヒント集依存モードに入ってます(笑)。だってあまりに不条理なんだもの。バケツに入った虫を池に放すと水がきれいになって木が元気になる、って何故だ? こんなもん、ノーヒントで解けるかい。ゲームバランス悪すぎ。
夜の新幹線から信越線に乗り継いで柏崎へ。柏崎は東京と同じ程度の寒さで、雪も全然ない。むちゃくちゃ寒いだろうと予想していたのに拍子抜け。
12月22日(月)
今日の買い物(こればっかりや)。
まずは、星野之宣の
『宗像教授伝奇考』第三集と山下和美
『天才柳沢教授の生活』11巻の二大教授マンガ(笑)。さすがはベテランだけあって、どちらも安定した面白さ。しかし、宗像教授の下の名前が「伝奇」と書いて「ただくす」だったとは。まるで斎藤栄の二階堂警部。
とり・みき
『石神伝説』1巻。1巻の段階ではまだ話ははじまったばかり。スケールの大きい話になりそうなのだが、こういう伝奇ものでは、やっぱり諸星星野に一日の長があるような気も。
そして、鬼頭莫宏
『ヴァンデミエールの翼』2巻。繊細な線で描かれる、翼を持った少女人形の物語。最終話では第1話に戻ってこの閉じた世界の円環は閉じられる。謎は謎のままに残して。長々と続けることなく、きっぱりと2巻で終えたところもこの佳作にはふさわしい。
文庫本は、ウィルキー・コリンズの短編集
『夢の女・恐怖のベッド』(岩波文庫)と、なぜか学術文庫ではなく講談社文芸文庫から出た
『新約聖書外典』。聖書外典の中でも特に異端好きにお勧めなのが「トマスによるイエスの幼時物語」。これが、ほとんどスティーヴン・キングのごとき超能力少年ものなのですね。
イエスが五歳のとき、川辺に穴を掘ってそこに水を集めていたら、いじわるな子供が水を流してしまう。腹を立てたイエスが「お前なんか木のように枯れてしまえ」と叫ぶと、
たちまちその子は全身枯れてしまう。また、イエスが歩いていると、駈けてきた子どもがイエスの肩にぶつかってしまう。怒ったイエスが「お前はもう道を歩けない」というと、
子どもはたちまち倒れて死んでしまう。あまりのことに、親たちはイエスの父ヨセフのもとに文句をいいに来る。そのためヨセフがイエスを叱ると、イエスは「あの人たちは罰を受けるでしょう」といい、
イエスを非難した人々は盲になってしまう。
どうみても、これは神の子ではなく悪魔の子の所業である。イエスおそるべし。
北方謙三
『三国志』八の巻と、
『宇宙塵傑作選II』(出版芸術社)。この巻には、幻の中編版「二重ラセンの悪魔」収録。著者のことばがなかなかすごい。なんでこの人はいつも攻撃的なんだろう。何もこんなところでまで、こんなこと書かなくてもいいのにねえ。
夜はいつものように伊藤典夫先生を囲んでの例会。
12月21日(日)
秋葉原に出て
「RIVEN」と
「DEMENTIA」を買う。両方とも、いわゆる超美麗アドヴェンチャーゲーム。最近、こういうゲームが多いなあ。そしてなんと両方ともCD-ROM5枚組。うげ。こんなん解く時間があるのか。本を読む時間すらあまりとれないというのに。
まあ、「RIVEN」は「MYST」の続編だから、「MYST」にはまりまくった自分としてはデフォルトで買い。冒頭だけやってみたのだが、今回の世界には人間が登場するようでちょっと首をかしげる。「MYST」は、徹底的に人間のいない廃墟じみた世界が心地よかったのだが。
「DEMENTIA」の方は、コミカルな味のゲームらしい。主人公は人間ぎらいな老婦人で、いじわるな家族や世間から離れ、ひとりお料理のレシピ本だけを友として屋根裏部屋で生活している。物語は、命より大切なレシピ本を奪われた主人公が、本を取り戻すため、シュールレアリスティックな世界を冒険していく、というもの。で、タイトルがDEMENTIA(痴呆)とくる。好きだなあ、このブラックなセンス。画面いっぱいの3Dグラフィックがアニメーションして気持ちがいいのだが、こちらもものすごく難しそうなので、まだ冒頭だけ。
帰ってみて、伊丹十三監督自殺のニュースを知る。伊丹監督の映画は一本も観たことがないのでさほどのショックは受けないが、自殺という死に方だけは選びそうにない人だと思っていたので驚いた。不謹慎だが、もし動機が報道されている通りとするならば、きのう書いた催涙ガススリ団と新幹線痴漢男に引き続き、犯した罪(伊丹監督は罪は犯していないといっているのだが)に見合わない行為の三つ目ということになる。この三組が吸っていた煙草が同じで、さらにそこから赤い粒子が発見されたりすると侵略SFになるのだがな。