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12月10日(水)

 深夜に警察から電話。喧嘩をしてナイフで刺された男が興奮しているとか。電話口の警察官は、なんだか入院させてほしそうな口調。でも、これはどう考えても精神科の出番じゃないだろ。断る。
 朝から、晴れたり曇ったり、雨になったり、挙げ句の果てには突然あられが降ってきたりとめまぐるしい天気。しかも一日中激しい風が吹き荒れる。越後線は強風のため運休だそうだ。柏崎は、内陸部ほどの積雪はないかわりに、海沿いのため冬場は非常に風が強いのである。
 午後には、半年ほど診てきた分裂病の患者さんが退院。入院して二ヶ月くらいは、保護室の中で夜も眠らず大声を出したりドアを蹴ったりしていて、治療には苦労したのだが、今ではすっかりよくなって「ありがとうございます」と私に頭を下げる。迎えに来たお父さんと一緒に実家のある金沢に帰るという。この患者さんとはもう二度と会わないのだろうな、と思いつつ「退院おめでとう」と挨拶。

 本屋で宝島のVOWを立ち読み。「五木寛之が『援助交際は売笑ではないか』と発言した」とかいう新聞記事の写真が載っており、「売笑」に赤線が引いてある。どこがおかしいのかわからず、コメントを読むと「芸人なのか?」とある。
 自分の知らない単語に出くわしたら、普通は誤植を疑う前に自分の無知を疑うものではないか? 投稿する前に辞書を引いてみようとは思わなかったのか? それよりも罪が重いのは、こんなものを載せる編集者だが。
 夜から雪。

12月9日(火)

 新幹線で新潟へ向かう。車内では、discmanで遊佐未森を聴きながら睡眠。越後湯沢のあたりで一度目を開けてみると、もう12月だというのに雪がまったく積もっていない。雪国に慣れない私にとっては少雪はありがたいけど、こんなんで、本当に長野オリンピックができるのか? それとも長野の方には降ってるのか?
 午後は病棟診察だが、患者家族との面談が入ってしまったため、ほとんど進まず。明日に回す。明日は忙しくなりそう。

 夜は当直。テレビを見ていると、東京では見られないCMをいろいろとやっているのが楽しい。特に見応えがあるのが、新潟に本社のある亀田製菓のCM。こちらでは、酒井法子と工藤静香の豪華二枚看板である。東京では「えびっぷり」などに工藤静香が出ていたが、酒井法子が出てきたのは見たことがない。新潟では酒井法子が出ているのは、その名も「海苔ピーパック」のコマーシャル。
 今放映中なのは、主婦の服装をした男が「ノリピー、ノリピー」とうわごとのようにつぶやきながらスーパーを這い回って海苔ピーパックを探し回り、警備員に取り押さえられる(酒井法子は男の夢想シーンの中に登場、いたずらっぽくほほえみながら寝そべってあられを食べている)、というなかなか切れたCMで、よい。
 そのほか、北越銀行には中山忍が登場。午後7時の時報前のCMは、お嬢様と執事シリーズ。
中山「今日は3時からチャールズとテニスの約束ね」
執事「お嬢様、もう7時でございます」
中山「え〜〜〜〜」
 というパターンである。かわいい。
 夜は瀬名秀明の『BRAIN VALLEY』をちょこっと読んだが、ほとんどは医局のMacでホームページ作り。  
12月8日(月)

 今日は大学病院へ。外来診療が終わり、医局の図書室に行ってみると、分厚くて黄ばんだ紙の見慣れぬ本がある。
 タイトルは『現代用語の基礎知識 1958年版』。かのベストセラーの、40年も前のバージョンである。なんでも、どこかの図書館が捨てた本をもらってきたのだとか。まったく、うちの医局の連中ときたら物好きだ。
 読んでみるとなかなか面白いので、いくつか項目を選んで別ページで紹介することにする。

 夜は例によって渋谷に出て、伊藤典夫先生を囲んで飲む。
12月7日()

 先週からずっと北方謙三の『林蔵の貌』を読んでいたのだが、ついに挫折。もともと、ハードボイルドなどどこが面白いのかわからない人間なので仕方ないのだが、どんなにつまらない本であれ読んだからには最後まで読むのがポリシーなので、途中でやめてしまうということは、よほど北方謙三は自分には合わなかったようだ。
 ただ、北方謙三はすでに『三国志』のシリーズを読んでいるのだが、こちらはいまのところなぜか挫折もせず読めている。
 なぜ『林蔵』がだめだったかというと、物語の流れ、全体像がつかみにくかったからだ。ハードボイルド文体では、人物に密着した描き方をする。心理描写こそほとんどないが、人物の行動を逐一描くことによって、内面が手にとるようにわかるようになっている。しかし、あまりに密着しているので、大局的な状況がよくわからない。男たちの生きざまや犬との交流はもうわかったから、今何が起こっているのか教えてくれ、と言いたくなってしまう。これが、ハードボイルドの読者にあるまじき態度なのはわかってる。でも、いちおうは歴史小説なんだから、時代の流れがわかるように書いてほしいのだ。
 ちなみに、なぜ『三国志』がOKなのかは簡単なこと。『三国志』でも、全体像がわかりにくいのは同じなのだけど、三国志の読者というものは、ストーリーの流れなど承知の上でキャラの描き方の違いとか細かいところを読んでいるのだ。
 だから、初めて三国志を読む人には北方版は不向き。吉川版か横山版でも読んでからにしましょう。

12月6日()

 銀座に出て映画を見る。しばらく見に行ってなかったので今日はまとめて3本を梯子。
 まずは三谷幸喜監督の『ラヂオの時間』。三谷作品は東京サンシャインボーイズのころから見ているけれど、あいかわらず手堅くまとまっている。いつものようにひとつの嘘がどんどんと膨らんでいってあらぬ方向に転がっていくという黄金のパターンですね。映画的なテクニックの部分ではまだ不慣れなところが多いので、2作目以降はさらに面白くなるでしょう。
 2本目は『エアフォース・ワン』。こともあろうに大統領がダイ・ハードをやってしまうという、アイディア賞ものの映画。主役はどことなくジャック・ライアンとかいう人によく似た風貌の大統領。本家ライアンの方は、異常な方法で大統領になっていたけど、さすがにあれは映画にはできないんだろうな。映画の方は、主役ハリソン・フォードはきわめて影が薄く、ゲイリー・オールドマン、グレン・クロースといった脇役陣の活躍が目立つ。もういい歳のハリソンにアクションは無理でしょ。まあ、この物語の場合、大統領は物語を動かす道具にすぎないので、これでいいのだろう。天下のハリソンをマクガフィンに使うとは大胆な映画である。
 そして3本目はいよいよあの『タイタニック』のワールドプレミア・オールナイト。上映時間3時間9分。長い。とにかく長い。前半のちんたらしたラブストーリーの部分はもっと短くできるはずだし、現代パートももう少し切れるはず(ビル・パクストンはかわいそうだが)。ストーリーはほんとに単純で、予告編を見た人なら、もうストーリーはすべてわかったも同然である。どうしてここまで単純な話にこんなに時間をかけますか。とはいえ、巨額の金をかけた沈没シーンとか、現代から過去への移り変わりのシーンとか、キャメロンがこだわった部分は見事な出来栄えだし、美しいラストシーンは感動もの。映画館に足を運ぶ価値は充分にある。いや、私が『コクーン』とか『ドライビング・ミス・デイジー』とかの老人ものに弱いからだけかもしれないけど。

 終わったのは2時。続けて本日初日の『MIB』でも見ようかとも思ったのだが、さすがに疲れたので家に帰る。

12月5日(金)

 ほとんど半年ぶりに来た患者さん、高校生の女の子である。
 この女の子には、2年前に前医から引き継いでいらい、手を焼かされ続けた。
 とても頭のいい子なのだが、おそらくその振る舞いにどこか変わったところがあったからだろう、学校でいじめを受け、不登校になっていた。
 外来では、私に甘えたかと思うと次の瞬間には大声で泣き出すなど、情緒不安定で、「病院になんか来たくない、精神病扱いされるから」と言ったかと思うと、「先生、助けてよ」と涙を浮かべながら私に訴えた。彼女との面談は、いつも1時間以上に及んだ。
「普通になりたい」というのが口癖だった。自分が高校生の頃、常に人とは違っていたいと思っていた私は、「普通になんかならなくてもいい。『普通』の女の子なんてどこにもいないんだから」と答えたが、彼女には通じなかったようだ。
 今は定時制に通いつつアルバイトをしているという。「私、普通になったよね」にこにこしながら彼女は聞いてきた。
 私にとっては、普通であることは耐え難い苦痛であり、それでも現実には普通でしかない自分に諦めを感じているのだが、人と違うことによっていじめられ続けてきた彼女にとっては、「普通である」と認められることこそが、なによりの安らぎなのだろう。
「うん、普通になった」というと、彼女はうれしそうに笑った。

12月4日(木)

 今日から日記を書き始めることにする。
 今のところ、仕事の関係上、火曜から金曜は新潟県柏崎市(原発の街)、土曜から月曜までは東京、という忙しい生活をしている。最初に柏崎に来たときはおそろしく田舎の街だと思ったが、1年半近くたった今ではすっかり慣れてしまった。深夜12時まで開いてる本屋はあるし、コンビニもあるし、生活に一片の不安もなしだ(ただれた生活をしているのう)。
 ただ、どこの本屋をみてもSFマガジンが入荷していないのが難点だが、まあこれは東京に帰ったときに買えばいい。ハヤカワSF文庫はちゃんと発売日に並ぶのだけれど、だいたいみな1冊ずつなので、柏崎のSFファンの芽をつまないため、これも東京で買うことにしている。

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