幻惑密室 西澤保彦 講談社ノベルス 98/1/7発行 780円
毎回毎回とんでもない設定で笑かしてくれる西澤保彦の最新作なのだが……今回ははっきりいって不発。
今度のネタは、超能力で構成された密室というもの。ドアは開いているのにどうしたわけか出ることができず、時間の流れすら狂っている。まあ、そういう設定なんだけど、今回はいくらなんでも無理がありすぎる。意味もなく複雑で、いかにも論理を組み立てるために無理に作った設定という感じ。
それから、これは前作『複製症候群』あたりからの傾向だと思うのだけれど、作中人物の言葉を借りて作者の意見というか持論が展開されるようになってきている。前作ではそれがメインストーリーとうまくかみ合っていたと思うが、この作品では意見ばかりが突出していてストーリーの進行をさまたげている。なにしろ、それほど弁が立つようには思えないようなキャラクターまでが、いきなり持論をまくしたてはじめるのだ。これは不自然だ。
謎の解決にもいつものようなキレがないし、うーん、どうしちゃったんでしょ。
次作に期待。
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グランド・ゼロ彷徨える絆 北野安騎夫 トクマノベルス 98/1/31発行 905円
「大森望氏激賞!」「現代日本SFの本流をなすバイオSFの系譜に、また新たな収穫が加わった」とか帯に書いてあるし。それに確かこの作者の前作は高橋良平も絶賛してたし。気がついたときには本を持ってレジの前に立っていた私である。しかし、書店を出たときにふと思った。大森望が帯で絶賛していた本でおもしろかったのってあったっけ。
なかった。
読んだ。
後半は斜め読みになった。
法則の例外はまだ見つからない。
今どき日本を影で動かす財団というのもアナクロだが、この財団が感染症の特効薬をなぜドラッグとして暴力団に流さなければならないのか、その理由がさっぱりわからない。相当悲惨な症状の感染症が全世界に流行しているというのに、登場人物たちはガラの悪い少女の争奪戦にかかりきりで、全然切迫感が感じられないのも不可解。さらに、作者は利己的遺伝子説をまったく誤解してるし、遺伝子に関する科学的に致命的な間違いもある。
『らせん』や『パラサイト・イヴ』に比べて、本書はあまりにも科学的な踏み込みが浅すぎるのだ。大森望は「バイオSF」と言っているが、私はこれを絶対にSFとは認めない。SF的なトッピングをまぶしてはいるものの、本書は単なるアクション小説なのだ。
私にとっては全然楽しめない小説だった。
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陀吉尼の紡ぐ糸 藤木稟 トクマノベルス 98/1/31発行 905円
舞台は昭和九年の吉原。神隠し、陀吉尼信仰、ドッペルゲンガー、出口王仁三郎、真言立川流といったモチーフがてんこもり。そして探偵役をつとめるのは盲目の美青年朱雀十五。こういう設定にぞくぞくと来るような人なら、問題なく「買い」でしょう。
でも、解説で野崎六助が書いているとおり、この作品は「京極系」のひとことで要約できてしまう。まあ、京極夏彦の作風ってのはなかなか並の人間には真似のできるものではないので、「京極系」の作品が書けるというだけでもかなりの才能があるってことなのだけど。
次から次へこれでもかといわんばかりに繰り出される妖異を、ラストできちんと収束させる手際はなかなかのもの。だけど、あまりにも偶然が多いし、探偵の推理も推測ばかりで、京極夏彦の域には達していないといわざるをえない。
事件に関わる登場人物のほとんどが実際に登場することなく、伝聞の形だけで聞かされるので、実在感が感じられず事件の概要がつかみにくいのも難点。もっとも、これはあえて現実感を薄くする効果を狙っているのかもしれないけれど。
こういう作品を書いているかぎり、この作者が京極夏彦のエピゴーネンとしか見られないのは仕方のないことだろう。そして、京極作品は完成度が高いだけに、この分野で京極夏彦を超えることは難しい。次作で独自のものが出せるかどうかが鍵でしょう。
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仮面ペルソナ 山田正紀 幻冬舎ノベルス 98/2/16発行 800円
山田正紀の幻冬舎ノベルス第4作にして、風水火那子シリーズ第2弾。冒頭にいきなり探偵が密室の謎を解き明かすシーンがあったり、関係者の手記と探偵の回想と現在の出来事が交互に描かれたり、と相変わらず凝った構成の山田新本格。でも、今回は、うーん、はっきりいって失敗作でしょう。
とっても親切な記述のおかげで、メインの叙述トリックは、それほどミステリを読みなれた読者でなくてもすぐわかってしまうんじゃないだろうか。トリックがわかれば犯人もわかっちゃうし。それにこの仕掛けはあまりにも不自然。なんで犯人がこんな面倒なことをしなければならなかったのかがよくわからないし、どうやって手記を読んだのかもわからない。うーん、トリックに触れるとなると、どうしてもあいまいな表現しかできなくなってしまう。
最後に、精神科医としてひとこと。探偵と精神科医の類似性を語る部分は、一面的な見方なのが気になるけれど、まあ悪くはない。ただ、結末近くに登場する病気の扱いにはちょっと納得がいかないぞ。こんな病気じゃないんだけどなあ。
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歪んだ創世記 積木鏡介 講談社ノベルス 98/2/5発行 780円
第6回メフィスト賞受賞作なのだが、さすがにメフィスト賞の名に恥じない怪作。同時発売された3冊のうちでは見かけはいちばん地味そうだったので、あんまり期待していなかったのだが、まさかこんなにとんでもない話とは思わなかった。
地味といえば、オープニングも地味だし、文章も生硬でとても読みにくい。過去の記憶をすべて奪われ、見知らぬ部屋で覚醒した若い男女、というまるで宮部みゆきの『レベル7』のような書き出しなのだが、そこはメフィスト賞、宮部みゆきのように手堅くも平凡な着地はしない。読みにくい文章を我慢して100ページも読みすすめば、だんだんと作者のむちゃくちゃなたくらみが見えてくる。そこからはもう一気に読める。
ただでさえとんでもない設定だというのに、ラストに近づくにつれ、物語は着地するどころか、ますます暴走の度合いを深め、ついには海を切り裂いて×××××まで甦る! いやあ、このすさまじさといったらもう筆舌に尽くしがたいほど。これはもう反則すれすれの、究極のメタミステリ。たった一度きりしか使えない大技だけど、作者は見事に成功させている。
読め。そして笑え。
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