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3月31日()

▼はらはらと降りしきる桜花の下、頭上から落ちてくる烏のフンにもめげず、池袋某公園にて、毎年恒例の空想小説ワークショップの花見がとり行われる。
 講師の森下一仁さんと川又千秋さん、それからゲストで永瀬唯さんも参加。永瀬さんは、なぜか「わたしの句集改」なるものを売ってました。永瀬さんは髪の色を『ヨコハマ買い出し紀行』のアルファさんと同じ色にしたいとか。……いつか、緑色の髪の永瀬さんを見る日を楽しみにしたい。

木村睡蓮『BIOHAZARD to the Liberty』(電撃ゲーム文庫)(→【bk1】)読了。大型客船を舞台にしたハリウッド風アクション小説。あまりにハリウッド映画風すぎるところが気になるけれど、まあ、そこそこ読ませる作品にはなってます。偶然の多用と人物の書き込み不足は、この枚数じゃ仕方ないか。

▼しりあがり寿『弥次喜多in DEEP(7)』(エンターブレイン)、安田弘之『続 紺野さんと遊ぼう』(太田出版)、芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行(9)』(講談社)、福山庸治『臥夢螺館(1)』(講談社)購入。『臥夢螺館』は、93〜94年の連載時から単行本にまとまるのを楽しみにしていたのだけれど、CD-ROMつきで2000円というのはいくらなんでも高いよ。

3月30日(土)

▼下のカウンタが100万を突破しました。3月31日2時20分ごろかな。
 以下に、10万ヒットごとの日付と所用期間を示します。
ヒット数日付日数所用期間
10万99/05/03516日516日
20万99/12/13740日224日
30万00/06/20930日190日
40万00/11/151078日148日
50万01/03/151198日120日
60万01/06/271302日104日
70万01/09/161383日81日
80万01/12/031461日78日
90万02/02/031523日62日
100万02/03/311579日56日
 現在のアクセス数が今後も変わらないとするならば、200万ヒットは2003年10月12日の予定。

▼なんでも、ビートルズが1960年代に『指輪物語』を映画化しようとしていたそうな。ピーター・ジャクソンが、アカデミー賞授賞式のときにポール・マッカートニーから聞いた話だそうだ。ジョン・レノンはゴクリ、ポールはフロド、ジョージがガンダルフでリンゴはサムを演じるつもりだったんだけど、トールキンが拒否したので計画はぽしゃったんだとか(日本語版記事)。
 ビートルズの指輪物語……。見たかったような気もするけれど、トールキンが拒否するのも当然、という気もする。

太陽系シミュレーター。任意の時間、任意の惑星や探査機から見た惑星・衛星の様子をシミュレートできます。たとえばこんなふうに

使用頻度の高い英単語300。この300語を使って、ブルース・スターリングが小説を書いた、というのだけれど、さっぱり意味がわからんよ。
The of, and a to in, is you. That it? He for was on -- are as with his they. At be this: "From I have, or by one had not; but what all were." When we there can: an your which!

Their said, "If do will each about, how up out them?" Then she many -- some -- so these would other into. Has more; her two, like him. See, time could no make than first.

3月29日(金)

▼夕刊紙の見出しに
「加護・辻」
 とあったので、何事かと思ったら、
「加藤・辻元参考人招致へ」
 であった。
 私は別にモーオタじゃないのに。
 加護と辻の区別もつかないのに。

渡辺哲夫『知覚の呪縛』(ちくま学芸文庫)(→【bk1】)読了。
 精神病理学という学問があった。
 あった、と過去形で書くのは、21世紀初頭の今、脳科学、薬理学、EBM、DSMなど客観性を重んじるアメリカ流生物学的精神医学の波に飲まれ、この学問はほぼ絶滅に瀕しているから。同じく片隅に追いやられた精神分析はまだ思想の分野に生き残っているけれど、精神病理学はといえば、今や完全に壊滅状態。
 精神病理学ってのがどういう学問かといえば、簡単に言えば、病者の語りをもとにして精神分裂病やうつ病といった病者の精神内界を描き出す学問。武器は哲学と思索のみ。場合によっては、たったひとりの患者の語りから壮大な仮説を導き出すことだってある。症例数が多いかどうか、統計的に有意かどうかを重要視する昨今の医学の流れにはまっこうから対立するのです。
 この本で扱われるのも、たったひとりの精神分裂病患者の語りです。著者は10年にわたり、ひとりの患者とつきあい、その話をていねいに聞きつづける。そして「ワラ人間」「オトチ」「トグロ巻き」といった、ともすれば意味不明な妄想発言だと片付けられかねない言葉を手がかりにして、彼女の世界の中に分け入っていくのですね。著者が彼女の体験している世界を描き出す筆致はきわめて論理的、分析的で、どこか異星人の異質な論理体系を描いたSFにも似ています。
 かなり難解な本なのだけれど、精神分裂病とはどんな事態なのか、精神病理学とはどんな学問なのか、知りたい人はまずこの本を読んでみるといいと思います。
 解説はなぜか田口ランディなのだけれど、著者のアプローチを「科学的な方法論」だと書いているのはちょっと疑問。精神病理学はいつだって、そんなのは科学じゃない、まるで文学部だ、と揶揄されてきたのだから(まあ、哲学だって「人文科学」のひとつではあるのだけれど)。

▼岡崎伸郎編『メンタルヘルスはどこへ行くのか』(批評社)(→【bk1】)、卜部敬康・林理編著『常識の社会心理 「あたりまえ」は本当にあたりまえか』(北王子書房)(→【bk1】)購入。

3月28日(木)

ジェイソン・モス『「連続殺人犯」の心理分析』(講談社)(→【bk1】)読了。タイトルだけを見ると、ありがちな犯罪心理本のように見えるのだけれど、実はこれはかなりユニークな本である。しかも、めっぽうおもしろい。
 これは連続殺人犯についての本ではないのだ。連続殺人犯のペンフレンドになった犯罪実話マニアのジェイソン君(1975年生まれ)の物語なのである(本の冒頭には、33人の少年を殺したジョン・ウェイン・ゲーシーと18歳のジェイソン君のツーショット写真が載ってます)。
 10代前半の頃から犯罪実話ものが大好きだったジェイソン君(母親も同じ趣味の持ち主で、13歳のジェイソン君に「絶対にこの本、お読みなさい」と、エド・ゲインの本を読んできかせてくれたこともあるとか)は、18歳になったある日のこと、すばらしいアイディアを思いつく。
 収監されている連続殺人犯たちと文通したらどうだろう。殺人鬼と文通している大学生なんてほかにいないんじゃないか?
 なんてすばらしいアイディア!
 早速両親に話してみるものの、犯罪実話好きな母親もこれには大反対。そりゃそうだ。誰だって、シリアルキラーに自宅の住所を教えたくはない。
 しかし、両親の反対にもめげずジェイソン君は手紙を書く(実名、実住所で)。
 拝啓ジョン・ウェイン・ゲーシー様。
 なんとこれに返事が来てしまうのだ!
 気をよくした彼は名だたるシリアルキラーたちに、次々と手紙を送る。
 チャールズ・マンソン
 ジェフリー・ダーマー
 リチャード・ラミレス
 ヘンリー・リー・ルーカス
 そして、驚いたことに、そのことごとくに本人からの返事が来るのだ!
 返事を勝ち取るために彼がとった作戦というのは、それぞれの殺人犯に対して、気に入られるようなキャラクターを演じること。ゲーシーにはホモセクシュアルに興味のある傷つきやすい少年、マンソンには彼に憧れる崇拝者、ダーマーには孤独で病的な少年、ラミレスには悪魔主義カルトの指導者(「毎晩、羊を殺してその血を飲んでいます……」)、というぐあい。
 ジェイソン君は、手紙を出す前にはその殺人者についての情報をかたっぱしからあさり(ゲイの心理を知るため男娼に話を聞いたり、警察署に供述調書のコピーを頼んだりまでしている)、理想的な犠牲者像を装うのである。
 しかも、彼らの求めに応じて、弟の名前で手紙を書いて兄(自分)との近親相姦の様子を教えたり(もちろん実際にはそういう行為はしていない)、(無断で)モデルをやっている同級生の女の子の写真を送ったりまでするのだ。おい、そりゃまずいんじゃないのか。
 さらにジェイソン君は手紙でゲーシーに自宅の電話番号を教え、ひんぱんに電話をする仲にまでなってしまう。そしてついに、誘いに応じて矯正センターにいるゲーシーに会いに行くのだ!
 当然母親は大反対するが、電話に出た所長が安全を保証したので、不承不承息子がシリアルキラーと面会しに行くことを認める。しかし、電話で所長と名乗ったのは実は本物の所長ではなかったのである。ゲーシーが、仲のいい看守を抱き込んで嘘をつかせていたのだ。
 そして、矯正センターでゲーシーとふたりきりになったジェイソンの身に起こったできごととは……。

 読み終えて呆然。ここに書かれているのはすべて本当のことなんだろうか。本当なら、よくもこんな無謀なことをやったもんだと思う。
 もし文通した殺人犯のうちの誰かが釈放されたり、テッド・バンディみたいに脱獄して家を訪ねてきたらどうするつもりだったんだろうか。
 ジェイソン君、かなり無謀で自信過剰だし、シリアルキラーそれぞれに対して理想的な犠牲者を演じてみせる手つきには、感心というよりもむしろ薄気味の悪さを感じてしまうのだけれど、少なくともその並外れた行動力には頭が下がる。
 すごいよジェイソン。

 不満点を挙げるなら、原著についている指導教官ジェフリー・コトラーの前書きが省かれている点ですね(原著では著者クレジットはジェイソン君とコトラーの連名になっている)。邦訳版ではそのかわり監訳者の小田晋が前書きを書いているのだけれど、こんな内容のない文章じゃなくて、ちゃんと指導教官の前書きをつけてほしかった。
 それに、不思議なのは、ジェイソン君の本文中では、指導教官コトラーの存在はまったくなかったことにされていること。指導教官だったはずなのに、コトラーの名前は1回も出てこないのである。
 さらに、殺人犯それぞれに対して理想的な犠牲者をみごとに演じてみせた優等生ジェイソン君のこと。本の中でいろいろと心情を吐露してくれても、どれも本心ではなく読者向けの演技のように思えてしまうのも事実。
 確かにおもしろい本ではあるのだけれど、ジェイソン君の文章には、どうも素直に信用しきれない何かを感じてしまうのである。

3月27日(水)

▼このページのいちばん下を見てください。
 カウンタがありますね。
 そのカウンタがもうすぐ100万になります。
 今のペースでいけば、100万を超えるのは3月31日か4月1日あたりか。
 4年で100万。よくこんなに続けられたもんです(なんかきのうと同じようなこと書いてるな)。
 100万ヒット記念オフでもやろうかな。

清水義範『博士の異常な発明』(集英社)(→【bk1】)読了。マッド・サイエンティストをテーマにした短篇集。うーん、なんだかなつかしいぞ。昔の中間小説誌に載っていたSF短篇って、こんな感じだったような(実際これも「小説すばる」に載った作品を集めた本だし)。しかし、今どきこんな単純なアイディアストーリーは、いくらなんでも古すぎる気がする。それに「文明崩壊の日」のアイディアって、『終末のプロメテウス』そのまんまじゃないですか。
 中ではマッド・サイエンティストの出てこない「鼎談 日本遺跡考古学の世界」がいちばん楽しめました。日本沈没10000年後の世界の考古学者が、トチョーシャは神殿だったのか王の宮殿だったのか、とかいろいろと議論する話。『日本沈没』の続編かも。

▼東野司『展翅蝶 昭和80年、夏』(EXノベルズ)(→【bk1】)購入。

3月26日(火)

▼当直。私家版・精神医学用語辞典スキゾイド(分裂病質)の項目を書いたので、今日の日記はお休み。
 あと、心の闇狂人塔の項目も追加。どこが精神医学用語なんだ、とか言わないように。
 これで、辞典の項目も42になりました。よくここまで書いたもんです。ただ、「悪性症候群」「ファントム空間論」の2項目は、サイト開設以来ずっと準備中のままだけど。

3月25日(月)

▼きのうの『デスゲーム24/7』なんて小説を読んでることでもわかるとおり、私はバカ小説には目がありません。
 今日も、書店をぶらぶらしていたら、ロス・ラマンナ『草原の蒼き狼』(二見書房)(上→【bk1】、下→【bk1】)なる本がふと目に止まった。どうやらトム・クランシー系の近未来戦争小説のようなのだが、なぜかタイトルは「蒼き狼」。戦争ものは私の守備範囲ではないのだけれど、これはバカ小説の匂いがする。
 二見書房の新刊案内にあるあらすじを引用すれば、
中央アジアにチンギス・カーンの末裔と称するバトゥ・カーン率いる汎アルタイ連合が出現する。ゲルで移動しながら高性能な武器と通信技術を駆使して周辺諸国を併合し、一大強国となる。さらに野望はとどまることなく、ロシア制圧に向けられた。モンゴルの蒼天を駆け巡る男の壮大な夢とは!

合衆国大統領は汎アルタイ連合に対し戦端を開くべく警告を発した。これに対し、バトゥ・カーンは米軍から盗みだした機密をもとに超音速機の完成を急がせる。世界が新たな戦争の予感に怯えるなか、米国は急遽空母移動部隊を地中海、インド洋へ!だが、バトゥみずから指揮する戦闘機群が首都ワシントンへ向けて飛び立った!
 という話のよう。まさに予想通りのバカっぷりである。
 チンギス・カーンの末裔、という設定には、いまだに黄禍論かい、とげんなりするのだけれど、訳者あとがきを読んでさらに仰天。「爆撃機からモンゴルの騎馬軍団が降下してきて都市を占領する」というシーンがあるのだそうだ。えーと、これはコメディ小説ですか。
 訳者は、この小説はビン・ラディンのテロを予言していて「トム・クランシーも顔色を失う」とか書いているのだけれど、本気なんでしょうか。
 よっぽど買おうかと思ったのだけれど、すんでのところで思いとどまる。いくらバカ小説好きでも、それだけで上下巻を読むのはなあ。

▼この本、ちょっと調べてみたら、amazon.comのカスタマー・レビューでは平均4つ星半という高評価。しかも、著者は『ラッシュアワー』の脚本家だったらしい。なんだ、やっぱりコメディじゃないか。

▼木村睡蓮『BIOHAZARD to the Liberty』(電撃ゲーム文庫)(→【bk1】)、愛沢匡『BIOHAZARD ローズ・ブランク』(電撃ゲーム文庫)(→【bk1】)購入。

3月24日()

ジム・ブラウン『デスゲーム24/7』(ハヤカワ文庫NV)(→【bk1】)読了。
 いやあ、バカな話である。だいたい設定からもうバカ。
 要するに、『サバイバー』みたいなサバイバル番組の話なのである。カリブ海の孤島に集められた12人の男女。島には600以上のカメラが設置され、彼らの行動はテレビとインターネットで全世界に生中継されている。で、視聴者の投票により1人ずつ脱落していき、最後の1人が勝者になるのである。
 しかし!
 第1回の放送中に、司会者とスタッフがエボラ出血熱に似たウィルスに感染して全員急死。番組は「コントロール」と名乗る人物に乗っ取られる。救出に向かった米海軍のヘリと戦闘機は島の上空で謎の墜落。参加者は生きてはいるもののウィルスに感染しているので、24時間に1回ワクチンを注射しないと死んでしまう。そして、誰が死ぬかは視聴者の投票によって決まるのだ!
 とにかく抜群のリーダビリティで、つるつると読めてしまう小説である。ひまつぶしにはもってこいの小説ですね。ただ、こういうおバカな設定は大好きだし、腰砕けな真相も悪くないのだけれど、やっぱりアメリカ産サスペンスの限界か、現代社会への悪意(というか批判精神)がほとんど感じられないのが物足りないところ。
 この設定からは『バトル・ロワイアル』とか『メロス・レヴェル』のような日本産のゲーム小説がすぐに思い浮かぶと思うのだけれど、そうした作品のように我々の持っている良識や道徳観念を逆なでするところがないのですね。もっとねちっこく書き込んでくれれば面白くなったはずの細部もさらっと通り過ぎてしまうし、結局ハリウッド的予定調和かい、と言いたくなるような結末もいただけません。

▼NHKのBSハイビジョンでやっていた「デジスタ」という番組で、フランスのCGアニメが紹介されてました。その中の"Molly, Star Racer"という作品は、明らかに日本アニメの影響が濃厚。BGMは浜崎あゆみだし。どうやら、26話からなるテレビシリーズの予告編にあたるらしくて、キャラクター設定までできている。製作者である"Sav! the world"のサイトはここ、ダウンロードサイトはこちら。サイズがかなり大きいけれど、落としてみる価値はあります。
 どうもこのアニメはすでに日本からも注目を浴びているようで、ダウンロードサイトの方には、バンダイビジュアルの高梨実氏が「このアニメにとても興味があります」とか書き込んでますね。本物?

3月23日(土)

▼リンチ好きの妻が観たいというので、デイヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』を観てきました。
 いやあ、わからん。
 途中までは、ハリウッドを舞台にした普通の(というより、かなり面白い)記憶喪失サスペンスなのですね。しかし、最後の30分で、それまでの謎は全部チャラ。観客はいっきに迷宮の中に叩き込まれてしまうのである。
 まあ、リンチはわからなさそのものを楽しむようなものなので、これでいいのか。これだけわからない映画なのに2時間30分まったく飽きさせないというのは流石。
 すいません、今日は全然感想になってませんね。リンチの映画を語るのは難しいや(★★★★)。

▼世界がもし百人町だったら
 20人が日本人で、80人が外国人です。
 そのうち10人が不法滞在者です。
 10人が売春婦で、5人が麻薬密売人です……。

 また東京ローカルな話ですいません。当然ながら、数字は適当です。

フィリップ・K・ディックの「妖精の王」(ハヤカワ文庫『ゴールデン・マン』所収)映画化へ。しかしなぜディックばかりこうも映画化されるのか。

▼平谷美樹『レスレクティオ』(角川春樹事務所)をいただきました。どうもありがとうございます。

3月22日(金)

中内かなみ『李朝暗行御史霊遊記』(角川書店)(→【bk1】)読了。暗行御史(あめんおさ)というのは、昔の朝鮮にあった役職で、隠密に地方をめぐって官吏の不正を摘発するのが仕事。要するに、水戸黄門がオフィシャルな役職になってるみたいなもんですね。
 マンガ界では、尹仁完+梁慶一『新暗行御史』とか皇なつき『李朝暗行記』とか、少しずつ暗行御史モノが出てきてますが、小説ではこれが初めてかな?
 この作品のミソは、暗行御史に韓国伝統の妖怪をからめたところ(あのプルガサリも出てきます)。チャイナ・ファンタジーは数あるけれど、韓国ファンタジーというのは今までほとんどなかったジャンルなので、固有名詞やら習慣やらが新鮮です。中国の志怪小説めいた味も楽しいのだけれど、物語のメリハリが乏しいのと、キャラが弱いのが難点。
 それに、主人公が最初のほうで退治した妖怪がお供になるのかと思いきや、次の章では似たような禍神が登場して、前章の妖怪は何の説明もなく消えてしまう構成のまずさはどうかと思います。それに、伏線は未回収のままで中途半端な終わり方のままだし。続編のお楽しみ、ということなんだろうけど、こんなふうにあからさまに続編を意識したつくりにするんじゃなく、これ1冊で完結させてほしかったなあ。

サダム・フセインが書いた(らしい)小説が2冊出版されるそうな。しかも、この2冊、第3作と第4作なのだそうだ。読んでみたい気もしないでもない。『鉄の夢』みたいなんでしょうか。

クリスチャン・ディオールのiPodケース

雑誌"BOOK"が選んだ20世紀の小説キャラクターベスト100。1位はジェイ・ギャツビー(『華麗なるギャツビー』)。2位はホールデン・コールフィールド(『ライ麦畑でつかまえて』)、3位はハンバート・ハンバート(『ロリータ』)。ふーん、てな感じですが。
 我々にもなじみ深いエンタテインメント系のキャラを探してみると、18位にジョージ・スマイリー、25位にフィリップ・マーロウ、29位にくまのプーさん、40位にピーター・パン、60位にトム・リプリー、66位にジェームズ・ボンド、79位にターザン、85位にハリー・ポッターがいますね。

▼山岸真編『90年代SF傑作選』(ハヤカワ文庫SF)、小林照幸『朱鷺の遺言』(中公文庫)、森護『スコットランド王国史話』(中公文庫)、ジェレミー・ドロンフィールド『飛蝗の農場』(創元推理文庫)、ジム・ブラウン『デスゲーム24/7』(ハヤカワ文庫NV)、菅浩江『末枯れの花守り』(角川文庫)購入。

3月21日(木)

多い死刑(←実にぴったりな変換に(笑))大石圭『殺人勤務医』(角川ホラー文庫)読了。
 中絶専門産婦人科医の古河は、広々とした邸宅に住み、ポルシェ356に乗り、クラシックを愛し、看護婦にはモテモテの31歳独身。しかし、夜になると、自分が死に値すると判断した人間を地下室に監禁、拷問しては殺害する連続殺人鬼になるのだった。
 設定からして、最初は『アメリカン・サイコ』日本版かと思ったのだけれど、そういうわけではない。主人公には過去に虐待経験があるのだけれど、かといってありがちなトラウマ小説というわけでもない。
 これはつまり、猟奇殺人者の生活を淡々と描いた物語なのですね。多くのサイコホラーのように殺人者を理解不能な他者として描くのは簡単だし、殺人衝動をトラウマのせいにしてしまうのもわりあい楽な道である。しかし、猟奇殺人者の内面を描いて読者に共感させるのはかなり難しい(トマス・ハリスも『ハンニバル』でそれをやって失敗していたし)。それを成功させているというだけでも、この作品は一読の価値はあると思います。

▼角川文庫来月の新刊に池上永一『あたしのマブイ見ませんでしたか』が。「待望の文庫化」と書いてあるのだけれど、こんな本あったっけ。「珠玉の短編集」ということは、おそらく『復活、へび女』ではないかと思うのだけれど、あれはとうてい「明るく美しい8つの物語」とはいえないしなあ。


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