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10月20日(土)

▼電車の中にフロム・エーの吊り広告。ゴシック体で大きく書かれたコピーが「広告業界って、どうよ」。ああ、こんなところにまで2ちゃんねるの影響が。
 さらに、その上には「おれのバイトはパソコンでいえば1000ギガバイトだぜ。どうだ」なる意味不明のコピーまで。なんだか「兵隊の位でいえば……」みたいだなあ。しかし、ディスク容量よりクロック数を誇った方がいいと思うのだが。

11日に書いた川原泉原作の『ヴァンデミエール 葡萄月の反動』&『森には真理が落ちている』という芝居を渋谷で観てきました。実は私川原泉は読んだことがないのだけれど、両作とも、わりと泣かせ系の「いい話」といった感じ。ちと演出があざとすぎるのが難点か。

▼同じ芝居を観にきていた森下一仁先生に久しぶりにお会いしたのだけれど、話の途中で「君は40歳くらいだっけ?」と言われる。森下先生には私が40歳に見えていたのか……ショック。まだ12歳なのに(嘘)。

▼夕食は森下ワークショップのメンバーとともに(なぜか駅前で偶然出くわしたのむのむさんも一緒に)109にあるインドネシア料理店「ジュンバタン・メラ」にて。チキン・スープやガドガド、ローストチキンなどなど、スパイスの味が効いていて美味。

10月19日(金)

▼こないだ医学関係の編集者に聞いた話。
 精神分裂病の新病名として、
(1)スキゾフレニア
(2)クレペリン・ブロイラー症候群
(3)統合失調症
 の3つの案が出ていることは周知の事実だけれど、今のところこの中では「統合失調症」がもっとも有力らしい。
 この中間集計結果にほっと胸をなでおろしているのが、医学系の出版社。なぜなら、「統合失調症」は3案の中で唯一「精神分裂病」と文字数が同じ5文字。本の字組みを変えずにすむのである。

▼掲示板のスズキトモユさんの書き込みによると、ウド鈴木は「100%キャイーン」という番組で漢字検定2級に合格し、「ウドゼミ」なる漢字検定合格のためのゼミまで開いているそうな。なーるーほーどー、ウド鈴木が語彙力4位なのはそういう理由だったのか。
 しかし、私は小泉純一郎や田中真紀子の語彙力が豊かだと感じたことは一度もないのだけれど(後者は特に)、小中学生の感じ方は違うのだろうか。それとも、単に、よく話題になる政治家→頭がいいはず→語彙力がある、という連想なのだろうか。たぶん、1年前に同じアンケートをとったら、当時の首相は決してランクインしなかっただろうなあ。

10月18日(木)

▼炭疽菌パイとシナモンティー。特に意味はない。

▼書店でゲームラボを立ち読みしたら、精神科医の斎藤環が連載を持っていてびっくり。しかも、「やあ、日本一『萌え』に詳しい精神科医だよ」とかいう書き出しには腰砕け。前にも書いたけど、仕事選んだ方がいいと思うんですが>斎藤先生。

▼トマス・F・モンテルオーニの『聖なる血』の解説に、未訳のナチもの長編"Night of Broken Souls"が紹介されているのだけど、紹介文には「悪魔の医師、メンレゲ」と書いてある。最近出た『聖なる血』の続編『破滅の使徒』の解説でも同じ本が紹介されているのだけど、そこでは「狂気の医師メレンゲ」。そんなにわかりにくい名前ですか、メンゲレって。

わたしのおきにいりを読んでいたら、
高校生に向けて、語彙の多い有名人は誰かと思うか? というアンケートがあって、一位は小泉首相で、二位はウド鈴木だった。
 という記載があって驚愕。本当なのか。
 調べてみたところ、元データは生涯学習検定センターこれのようだ。
 「語彙力検定」3級から7級までの全受験者(小学5年生から高校生まで)に、「あなたが、『語彙力があるなあ(ことばをよく知っているなあ)』と感じる有名人はだれですか? ひとりだけ名前を挙げてください」という質問をしたところ、1位は小泉純一郎、2位は田中真紀子、3位みのもんた、そして4位ウド鈴木! 特に学年別集計の中学2年生では、ウド鈴木は小泉純一郎と並んで1位!
 子供たちはいったいウド鈴木のどこに「語彙力」を感じているのだろうか。私にはさっぱりわかりません(データと「わたしのおきにいり」では母集団、順位についての記述が違っているが、驚愕すべき結果であることには変わりない)。
 しかし、この記事、「文壇からは上位30位だと夏目漱石(23位)が顔を出しただけ」とあるのだけれど、そりゃ19位の田中康夫、28位の石原慎太郎に失礼というものではないか?

 同じページによれば、
次の語句に一番近い意味を持つものを(1)〜(4)の中から一つ選びなさい。
  「見解」
(1)意見 (2)拝見 (3)発見 (4)一見
 という問題で、(2)拝見と答えた人が40.8%。正解の(1)を選んだ人は23.2%だったそうな。
 大丈夫か、日本の国語力。

▼藤崎慎吾『蛍女』(朝日ソノラマ)(→【bk1】)購入。

10月17日(水)

▼西村京太郎に『華麗なる誘拐』という小説がある。「日本国民全員を人質に取った」と称する誘拐犯が、国家に対して身代金を要求する。そして「人質」である国民がひとりずつ無差別に殺されていく……という話なのだけれど、これって今考えればテロの話ですねえ。

栗本薫『魔界の刻印』(ハヤカワ文庫JA)読了。しかしよくしゃべるひとたちだ。本書には「はるかな東方の仏像のよう」(p.247)という形容が出てくるのだけれど、そうするとこの世界にはどこからか仏教が伝来しているのだろうか。

▼丸谷才一、宮崎駿、イチロー、双葉十三郎、「プロジェクトX」制作スタッフ、毎日新聞旧石器遺跡取材班の共通点は? 正解は第49回菊池寛賞受賞者。いったい、どういう基準で選ばれてるんだ、菊池寛賞。
 調べてみると、どうやら「文学、映画・演劇、新聞、放送、出版、その他文化活動一般において、9月1日〜翌年8月末に至る1年間に、最も清新且つ創造的業績をあげた人、あるいは団体に贈られる賞」であるらしい。イチローって文化活動をしてたのか。
 歴代の受賞者をみると、永六輔、田村亮子、佐々淳行、中坊公平、野茂英雄、「安田祥子・由紀さおり姉妹による童謡コンサート」なども受賞してるらしい。やっぱりなんの賞だかよくわかりません。

▼ポール・ギャリコ『ジェニィ』(新潮文庫)(→【bk1】)、マーヴィン・ハリス『食と文化の謎』(岩波現代文庫)、玉井邦夫『〈子どもの虐待〉を考える』(講談社現代新書)(→【bk1】)購入。

10月16日(火)

約1年前に、富山県立大門高等学校学校図書館データベースを取り上げたのだけれど、この大門高校、コンピュータ関連の授業に力を入れていて、毎年生徒にページを作らせているようで、今年も面白いページがいくつも見つかった。
 たとえば、課題研究の中の爆発について。アルコール爆発、粉塵爆発、水素爆発の実験をしていて、しかもちゃんと動画つき。やっぱり爆発は男のロマンだよね。ゆく末が楽しみな高校生たちである。
 もちろん、今年も図書紹介ページはちゃんとある。全部読んだわけじゃないけど、SF関係の本は『夏への扉』『スキップ』『地球外生命』くらいかな。人気があるのは『五体不満足』と『だからあなたも生き抜いて』あたりみたい。中には『日露戦争』全5巻なんてものを読んでいる人もいる。なんとマニアックな。

▼篠田節子『弥勒』(講談社文庫)(→【bk1】)、大原まり子『超・恋・愛』(光文社文庫)(→【bk1】)、武部好伸『北アイルランド「ケルト」紀行』(彩流社)(→【bk1】)購入。

10月15日(月)

坪内祐三編集『明治の文学第23巻 田山花袋』(筑摩書房)(→【bk1】)なんてものを読んでます。明治の文学はなんだかゆったりとしたテンポで、かと思うとところどころにどきっとするほど現代的なところがあって、なかなかいい感じです。
 田山花袋というと、明治の作家の中でもことのほか地味な人で、知られている作品は「蒲団」くらい。しかもこの「蒲団」も、女弟子に去られた作家が、弟子が使っていた蒲団に顔をうずめて泣くラストシーンだけは有名だけど、実際に読んだことのある人はほとんどいない、という不遇な作品。しかし、初めて読んだ「蒲団」は、ダメ男の情けなさを徹底的に描いていて意外に面白い。よくもまあ、こんな自虐的でしかも周囲の人に迷惑がかかりそうな小説を堂々と発表したものである。明治の私小説作家って、繊細なようでいて意外と豪胆なのかも。
 長編「縁」は「蒲団」の続編で、去った女弟子が東京に戻ってくる話。続編があるなんて知らなかったよ。ただ、この作品では主人公のダメ人間ぶりは影をひそめ、終始、女弟子の保護者として振舞っているのが物足りないところ。解説によると、女弟子は東京に戻ったあと、若い男と交際し、妊娠してしまったあげく、結局花袋の養子になって恋人と結婚したのだそうだ。なんだ、いい奴じゃないか、花袋。
 しかし、本書の収録作の中で特に強烈だったのが、冒頭に収められた「少女病」というごく短い作品。「少女病」。タイトルからしてすごいのだけれど、これがまた少女が好きで好きでたまらない男を描いた、題名通りの作品なのだ。
 主人公は年のころ37、8の編集者。妻子もあるのだけれど、趣味はといえば少女観察。通勤途中に出くわす少女を眺めるのが大好きなのである。気に入った少女があれば、あとを尾行してわざわざその家をつきとめたりもする。もう立派なストーカーである。かといって別に少女に性的な欲望を感じているというわけでもないらしく、ただ少女を眺めたり少女との恋愛を妄想したりするのが好きなのである。
 自宅近くの代々木駅で電車に乗ってからも、彼は外の風景などは見ないで、少女観察に打ち込む。
此無言の自然よりも美しい少女の姿の方が好いので、男は前に相対した二人の娘の顔と姿とに殆ど魂を打込んで居た。けれど無言の自然よりも活きた人間を眺めるのは困難なもので、余りしげしげ見て、悟られてはといふ気があるので、傍を見て居るやうな顔をして、そして電光のやうに早く鋭くながし眼を遣ふ。(中略)男は少女にあくがれるのが病であるほどであるから、無論此位の秘訣は人に教はるまでもなく、自然に其の呼吸を自覚して居て、いつでも其の便利な機会を攫むことを過まらない。
 年上の方の娘の眼の表情がいかにも美しい。星――天上の星もこれに比べたなら其の光を失ふであらうと思つた。縮緬のすらりとした膝のあたりから、華奢な藤色の裾、白足袋をつまだてた三枚襲の雪駄、ことに色の白い襟首から、あのむつちりと胸が高くなつて居るあたりが美しい乳房だと思ふと、総身が掻むしられるやうな気がする。
 熟練した少女観察のテクニックはプロ級。しかもこの主人公、千駄ヶ谷では少なくとも三人の少女が乗る、とか、信濃町では乗る少女が少ない、とか駅ごとの傾向まできちんと把握しているのである。すごいやつだぜ。
 込合った電車の中の美しい娘、これほどかれに趣味深くうれしく感ぜられるものはないので、今迄にも既に幾度となく其の嬉しさを経験した。柔かい衣服が触る。得ならぬ香水のかをりがする。温かい肉の触感が言ふに言はれぬ思をそゝる。ことに、女の髪の匂ひと謂ふものは、一種の激しい望を男に起させるもので、それが何とも名状せられぬ愉快をかれに与へるのであつた。
 すでに痴漢と変わりない主人公である。
 やがて電車はお茶の水に着き、主人公は雑誌社に出勤。薄暗い部屋の中で校正の仕事をしたり編集長にいやみを言われたりして一日を過ごし、ひたすら退社時間を待つ。その間考えることといったら、当然少女のこと。ああ、もっと若い頃に激しい恋をすればよかったなあ。今になっていくら美少女に憧れたって、もう自分が恋をできるわけでもないし。ああまた恋をしたいなあ(少女と)。少女と恋ができないなんて、もう生きてる価値なんかないよ、死んだ方がいいかも。妻子? あーそんなもんもうどうだっていいや、などと考えている主人公である。
 そして退社時間になると、また彼は生き生きしはじめる。
 外濠の電車が来たのでかれは乗つた。敏捷な眼はすぐ美しい衣服の色を求めたが、生憎それにはかれの願を満足させるやうなものは乗つて居らなかつた。けれど電車に乗つたというふことだけで心が落付いて、これからが――家に帰るまでが、自分の極楽境(パラダイス)のやうに、気がゆつたりと為る。
 家に帰るまでが自分の極楽境! なんと力強い言葉だろうか。
 お茶の水で乗り換えて車内を見回した彼ははっとする。以前一度だけ信濃町で同乗したことがあって、どうにかしてもう一度逢いたい、見たいと思っていた美しい令嬢が乗っているではないか。ああ、あんな美しい令嬢がこの世の中にいるとは。心ゆくまで美しい姿を眺め、うっとりと我を忘れる主人公。
 ピーと発車の笛が鳴つて、車台が一二間ほど出て、急にまた其速力が早められた時、何うした機会か、少くとも横に居た乗客の二三が中心を失つて倒れ懸つて来た為めでもあらうが、令嬢の美に恍惚として居たかれの手が真鍮の棒から離れたと同時に、其の大きな体は見事にとんぼがへりを打つて、何の事はない大きな毬のやうに、ころころと線路の上に転り落ちた。危ないと車掌は絶叫したのも遅し早し、下りの電車が運悪く地を撼かして遣つて来たので、忽ち其の黒い大きい一塊物は、あなやと言ふ間に、三四間ずるずると引摺られて、紅い血が一線長くレールを染めた。
 非常警笛が空気をつんざいてけたゝましく鳴つた。
 これでおしまい。なんとも呆然とするエンディングである。
 ちなみに、これが書かれたのは明治40年。花袋、あんたはすごいよ。

▼「少女病」は青空文庫に収められているので、ここで全文が読めます。

10月14日()

乙一『失踪HOLIDAY』『きみにしか聞こえない CALLING YOU』(角川スニーカー文庫)読了。どの作品も、後ろ向きで過去にとらわれた主人公が成長し、希望を取り戻すまでの物語、とくくってしまえるのだけれど、やっぱりこの人は巧いねぇ。『失踪HOLIDAY』では、「失踪HOLIDAY」も軽い作品かと思いきや、後半に明かされるミステリ的な仕掛けには感心したし、「しあわせは子猫のかたち」も設定はありきたりだけれど、軽妙な語り口とほのかな明るさをたたえた結末が絶妙。
 『きみにしか聞こえない』の方では、「華歌」の結末に、読者が思い込んでいた物語の構図をがらりと替えてしまうという大技が決まっていて呆然。それこそ設定から主人公の心情にいたるまで、まったく別の物語に変貌を遂げてしまうのである。「CALLING YOU」と「傷-KIZ/KIDS-」はちょっとありきたりな泣かせの物語だけれど、やはり語り口で読ませる。
 ただひとつ不満があるとすれば、以前の作品で感じたような、常識との微妙なズレが薄れてきているところかな。作者が成長したせいか、設定などに常識外れなところが少なくなり、どの作品も普通に巧い小説になってきているのですね。私としては、作者の奇妙な感覚が好きだったので、これはちょっと残念。まあ、こりゃ難癖のようなものだけれど。

10月13日(土)

▼千石にある「ノナ・アンナ」というインドネシア料理店に行きました。巣鴨駅からちょっと離れた住宅街の中にぽつんとあって、知っている人でないと見つけられないような小ぢんまりとした店である。以前行ったモンゴル料理店「シリンゴル」もこの近く。
 ビルの2階にある店に入ると、狭い店内はかなり混んでいる。空いていたテーブルは1つだけ。椅子に座ると妻が顔をよせ、「すごい人がいるよ」と緊張した声でいう。ふりかえってみると、確かに後ろの席にはテレビで見たことのあるいかつい顔が。おおあれは。鳩山邦夫ではないか。確かにここは文京区。鳩山邦夫邸もこの近く。しかし、エスニック・レストランに鳩山邦夫がいるとは思わないよなあ、ふつう。
 鳩山氏のテーブルには、秘書らしい太った男性と、ボランティアらしいラフな服装の若者たちが一緒である。スタッフと一緒に食事に来たのだろうか、と思っていたら、外人風の顔立ちをした中年の女性とメガネをかけた若者があとからやってきて席に座った。どうやら、鳩山氏の奥さんと息子さんのようだ(あとで調べたところによると、鳩山邦夫夫人は、元アイドルの高見エミリーだそうな。よくしゃべる元気なおばちゃん、といった感じだったが)。
 あとで店のおかみのアンナさんに訊いてみると、鳩山邦夫氏は2年前の開店時以来のこの店の常連。鳩山氏自身、料理が趣味だそうで、食べ物にはうるさいのだそうだ。
 料理の方は、チキンスープ、ガドガド、インドネシア風お好み焼きなどを食べたのだけれど、どれもとても美味。バリ島で食べた料理よりおいしかった、とアンナさんに言うと、「バリの料理はまずいのよ」とのたまっておりました(アンナさんはジャカルタ出身)。
 しかし鳩山氏、私の聴き間違いでなければ、「300年後の日本史には、小泉より大きく載ってるよ」と言っていたような気がするのだけれど……。

10月12日(金)

SF人妻日記を読んではっと気づく。そうか、『サイファイ・ムーン』第三夜の登場人物名、どっかで見たような、と思っていたら、ガンパレだったのか。すっかり忘れていたよ。ちなみに主人公は茜大介、ヒロインは吉野春香。そのほか、速水厚志、若宮康光、岩田裕、狩谷冬樹(なぜか夏樹ではない)が登場するのである。そのまんまだなあ。

七北数人編『人獣怪婚』(ちくま文庫)読了。猟奇文学館の2巻目。テーマがテーマだけに、前巻『監禁淫楽』よりファンタジー色が強く、SFファンにもお薦めの一冊。収録作も秀作揃いで、赤江瀑「幻鯨」香山滋「美女と赤蟻」澁澤龍彦「獏園」の濃密で幻想的な文章にはうっとりしてしまうし、中勘助「ゆめ」も、80年以上前の作品とは思えない奔放な幻想世界にほれぼれする。村田基「白い少女」の悪夢めいたクライマックスも見事だし、皆川博子「獣舎のスキャット」のイヤさも相当なもの。この強烈な悪意!
 文章の魔力が存分に堪能できるアンソロジーである。

10月11日(木)

梅原克文『サイファイ・ムーン』(集英社)(→【bk1】)読了。「サイファイ」とか「科幻小説」とか、彼の提唱する用語の妥当性についてはもう問うまい。科学的な誤りへのツッコミを入れても詮ないことは、もう『カムナビ』で充分わかったので、あえて書くことはするまい。ツッコミを入れたところで、おそらく作者からは、自分は「大衆娯楽小説」を目指しているので、そのような細かいところは気にしないのだ、という答えが返ってくるだけに違いない。
 でも、これだけはいえると思うのだ。大衆娯楽小説を目指す、という方向性はいい。でも、大衆娯楽小説ならば、文章が即物的でうるおいがなくてもいい、ということにはならないのではないだろうか。登場人物の感情の動きや行動が単純でいい、ということにはならないのではないだろうか。大衆向けに書く、ということと、読者のレベルを低く見る、ということはまったく違うと思うのである。マニア向けではなく、大衆向けだからこそ、科学的には多少の誤りがあったとしても、少なくとも登場人物の感情だけは、読者が共感し納得できるものでなければならないのではないか。作者は「大衆」をあまりにもバカにしているように思えるのである。

▼友人の尾山ノルマさんからダイレクトメールが届く。尾山ノルマといっても知ってる人は少ないだろうけれど、今年のSF大会に来た方なら、オープニングで武田さんと掛け合いをしていたコスプレの女性、と言えばわかるはず。彼女の所属する劇団SERAPH!で、『ヴァンデミエール 葡萄月の反動』&『森には真理が落ちている』という川原泉原作の短篇2本を上演するそうな。10月19日〜21日に渋谷Za Hallにて。詳しくは劇団SERAPH!のページを参照のこと。

▼西澤保彦『異邦人 fusion』(集英社)(→【bk1】)、奥泉光『坊っちゃん忍者幕末見聞録』(中央公論新社)(→【bk1】)、秋山瑞人『イリヤの空 UFOの夏 その1』(→【bk1】)、栗本薫『魔界の封印』(ハヤカワ文庫JA)、乙一『死にぞこないの青』(幻冬舎文庫)(→【bk1】)購入。


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