ホーム  話題別インデックス  書評インデックス  掲示板

←前の日記次の日記→
11月10日(金)

 しかし、いくらなんでもこのタイトルはないのではないか。斎藤栄のトラベルミステリーの最新刊、その名も『大地震台湾殺人旅情』である。
 「大地震」で「殺人」でしかも「旅情」。私が台湾人だったら怒るぞ、こんなタイトルの本を見かけたら。2400人も死んでる大地震でのんきに「旅情」はないだろう。「大地震神戸殺人旅情」とか「大噴火三宅島殺人旅情」とかいうタイトルだったらどうよ。まあ「殺人旅情」というシリーズ名自体不謹慎といわれればその通りなのだけれど。
 買った本は、創元の復刊から、フランク・ハーバート『鞭打たれる星』『ドサディ実験星』、カーター・ディクスン『仮面荘の怪事件』。あとは井波律子『中国幻想ものがたり』(大修館書店)、鎌田東二、鶴岡真弓編著『ケルトと日本』(角川選書)。

 そういえば東千代之介が亡くなりましたが、東千代之介といえば「バトルフィーバーJ」しか思い浮かばない私はダメなやつですか。
11月9日(木)

 わけあって、今月は日本作家未読消化月間。
 山之口洋『オルガニスト』(新潮社)いまごろ読了。端正な小説である。それは別にバロック音楽を扱っているから、というわけではなく、小説の書き方自体が真摯なのですね。『0番目の男』もそうだったけど、古いSFにありがちなテーマを扱いながら、パロディに逃げたりガジェットに凝ったりという方向に行かず、あくまで真摯にテーマの可能性を追求してます。好感の持てる作風ではあるのだけれど、もうちょっと遊びの部分や意外性がほしいような気もする。ないものねだりかもしれないけれど。
 それに、「音楽になる」のと「楽器になる」のはちょっと違うんじゃ、という疑問もあるのだけど。

 続いて、池上永一『レキオス』(文藝春秋)読了。評判がいい作品なので期待して読み始めたのだけど、確かにこれはものすごい。
 帯には「過去と現在、夢と現実が交錯する異色のファンタジー」と編集者が苦労したのがよくわかるコピーがついているのだけど、とてもとても、こんな言葉で言い表せるような作品じゃない。近代兵器と黒魔術、シリアスとスラップスティック、沖縄の歴史と現実、お下劣と感動が平然と一体になった驚異の作品。一見むちゃくちゃきわまりない展開なようでいて、最後には伏線がきっちりと収まるところに収まるあたりの構成力もさすがである。「21世紀はあたしの思う壺! くすくす」と豪語する天才にして変態の女性学者とか、「お祝いだからねー」のポーポー売りの老姉妹とか、キャラクターも強烈。いや、今年のSFベスト5を選ぶ前に読んどいてよかったわ。

 井上雅彦編『ロボットの夜』(光文社文庫)、ベン・C・クロウ『ジャージーの悪魔』(ちくま文庫)、七北数人編『監禁淫楽』(ちくま文庫)購入。最後のはその名も「猟奇文学館」と題するアンソロジーの第1巻。ちくま文庫はまたヘンなアンソロジーを……。思わず河出文庫かと思ってしまったじゃないか。ちなみに続巻は『人獣怪婚』『人肉嗜食』だそうな。

 『チョコレート戦争』のロバート・コーミア死去。
11月8日(水)

 goreを英和辞典で引いてみたら、なんだか物騒なことが書いてあった。
「(傷から出た)血の塊り、血糊;流血の争い。殺し。」
 一方、bushの方はもちろん「やぶ」とか「灌木」という意味だけど、俗語だとこういう意味もあるらしい。
「《卑》女陰、茂み。《俗》マリファナ。《俗》劣等生名簿。」
 女陰vs.血糊。
 大統領選は、エロスとタナトスの闘いだったのか。

 スーパーチャンネルでスタートレック・ヴォイジャー。こないだの土日の「まるごと24時間」でついに関西を追いぬき、日本初放送エピソードに突入したらしい。今回は久々にボーグよりも強い生命体8472が登場。あと、TNGにも出てきた庭師ブースビーまで再登場(TNGの日本語版ではなぜかカール・ゴッチと訳されていた人物)。しかしこの展開は……肩透かしというかなんというか。ヴォイジャーの次のシリーズでは8472のクルーが登場したりして。
11月7日(火)

 不調。本は読んでいるのだが、どうも感想を書く気が起こらない。

 石器発見捏造。藤村副理事長が発掘した石器を撤去する博物館や資料館があいついでいるそうだけれど、撤去なんかするより、「これが疑惑の石器だ」とかいって堂々と展示した方が人を呼べると思うんだけどな。それじゃギャラリー・フェイクか。
 いや、真面目な話、撤去とか削除とかしてなかったことにしてしまうより、みんなに見てもらって反面教師とした方が、はるかに有意義だと思うんですが。
 しかし、これで藤村新一の名は、一部の考古学ファンのみならず、広範囲の人々に、のちのちまで語り継がれるでしょうね。ネアンデルタール人を発見した人の名前を覚えている人は少ないけど、ピルトダウン人を発見したチャールズ・ドーソンの名前を知っている人なら多いように。
11月6日(月)

 朝の山手線に乗っていたときのこと。
 駅に到着したのになぜかいくら待っても扉が開かない。
 どうしたのかな、と思っていると、すぐに車内に放送が入り「この電車で人身事故が発生したので、救出のためしばらく停車する」とのこと。事故で電車が遅れることはよくあるが、自分の乗っている電車で事故が起きたのは初めてだ。後ろの方の車両はホームから外れているようで、目の前はホームなのに扉が開かない。「救出作業」は電車の後ろの方で行われているらしく、ホームの客はみんなそちらの方をちらちらと見ているのだけど、もちろん電車の中からは何も見えない。
 こういう事故があるたびに私が反射的に考えてしまうこと、それは「まさか自分の患者じゃないだろうな」ということ。精神科医ならみんなそうだと思うのだが、自分の担当患者のうち、自ら死を選ぶ可能性がありそうな顔を何人か思い浮かべてしまうのである。
 5分ほどすると、中ほどの車両の扉を開けたので、振り替え輸送を希望する人は降りるように、と放送が入る。さらに5分するとようやく電車が動き出し、扉が開いた。放送によれば、「作業は終了しました、警察による現場検証があるのでもうしばらくお待ち下さい」とのこと。
 結局、電車は15分ほどの遅れで駅を出発。ちょっと遅刻してしまった。
 事故については今日の夕刊に小さい記事が載っていた。28歳の女性が亡くなり、警察は飛び込み自殺とみて調べているとか。私としては、自分が乗っていた電車で女性が死んだということより、わずか15分ですべての「処理」が終わってしまったことの方が驚きだった。
 なお、問い合わせがなかったところをみると、彼女はどうやら当院の患者ではなかったもよう。
11月5日()

 千石でモンゴル料理を食べました。東京にはいろんなエスニック料理屋があるけれど、モンゴル料理ってのは珍しいんじゃないだろうか。店名は「シリンゴル」。場所は住宅地の中で、ちょっとわかりにくい。
 料理は、モンゴルだけあって羊づくし。「チャンサンマハ」という骨つき塩ゆで肉、「バンシ」というモンゴル風水餃子、「ゴルリンホール」という肉うどんなどを食べたのだけど、全部肉は羊。「チャンサンマハ」は、ぶつ切りの肉をナイフで骨からこそげ取りながら食べるという豪快な料理。食べたことがない料理ばかりなのだけど、どれもなんだか懐かしいような味がするのが不思議。羊肉独特のくさみが嫌いな人にはお薦めできないけど、どれも素朴な味わいで美味です。
 毎日午後8時頃から馬頭琴の生演奏があるそうなんだけど、8時半頃に着いたのでほとんど聴けなかったのが残念。
11月4日(土)

 瀬名秀明『八月の博物館』(角川書店)読了。
 いやはや失礼ながら、瀬名秀明がこんな話を書くとは思わなかった。今までの作品からして、瀬名秀明といえば科学、理系というイメージしかなかったのだが、得意の科学を離れても、ここまで緻密で完成度の高い物語を書けるとは。これはうれしい驚きです。
 まず、表紙がいい。入道雲の浮かぶまぶしい夏空。その下に広がるのは、どこにでもありそうな日本の住宅地の屋根屋根。空中には、「どこでもドア」を思わせる扉が、マグリットの石のように浮かんでいる。そうした風景をバックに、金ぶちの文字で「八月の博物館」と入ったタイトルが、ちょっと上品そうな雰囲気を醸し出している。よく見ると、タイトルの下にはなぜか小さく"Le Musée d'Août"とタイトルのフランス語訳が入っている。
 本をひっくり返してみれば、裏表紙は、今度は表表紙とはうってかわって、古今東西の展示物が所狭しと並ぶ、驚異に満ちた博物館の中。いよいよ本を開いてみると、カバーに描かれた日本の空は、ピラミッドの並ぶナイル川沿いの空にそのままつながっていることがわかる。さらにページをめくって扉を眺めれば、そこには謎めいたフーコーの振り子が描かれている(でも、この絵だと、途中で振り子が球体にぶつかってとまってしまいそうだけど)。
 最近、表紙だけでこれほどわくわくさせてくれる本ってのも珍しい。そして、読んでみればわかるのだが、この表紙は小説の内容を的確に表しているのである。
 そして作品の方も、今までの瀬名作品とは全然違うけれど、確かに期待にたがわぬ傑作。少年時代のパートはそれだけでも藤子・F・不二雄風冒険ジュヴナイルSFとしておもしろいし、作者自身を思わせる作家が登場するパートでの自虐的なネタにはニヤニヤしてしまう(それが作者の思う壺なんだろうけど)。後半は一つ間違えればバカミスになりかねない展開なのだけれど、本書は、メタフィクショナルな仕掛けが主題と密接に関わっている点で、仕掛け先行のバカミスとは一線を画してます。
 今まで作者のトレードマークだった科学についての薀蓄を排したこの作品は、瀬名秀明の転換点として重要な作品になるはず。ただし、作者に『パラサイト・イヴ』みたいなイメージを求め続ける人は失望するかもしれないけど。
11月3日(金)

 『グリーン・デスティニー』を観ました。
 とにかくキャストとスタッフはむちゃくちゃ豪華。主演は『アンナと王様』のチョウ・ユンファに『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のミシェル・ヨー、監督は『いつか晴れた日に』のアン・リー、アクション監督は『マトリックス』のユエン・ウーピン、と香港からハリウッドに進出した顔ぶればかり。おまけに音楽は中国現代音楽の第一人者譚盾で、チェロ演奏はヨー・ヨー・マと来る。
 まあ、この映画がこれほどの規模で全国公開されたのも、この豪華なスタッフ、キャストのおかげだと思うのだけど、しかし映画がその豪華さに見合うだけの面白さになっているかというと、これはちょっと疑問である。
 長大な原作を2時間にまとめる、というのは香港の武侠片によくあるパターンなのだが、この映画もたぶんそうなのでしょうね。途中でいきなり長い回想シーンが入ったり、台詞だけで済まされているエピソードがあったりと、ストーリーがごちゃごちゃしていてわかりにくい点が多い。さすがに武術対決は迫力があるのだけれど、これは香港映画なら別に珍しくはない。真の主役といえるチャン・ツィイーちゃんは確かにかわいいけど、どうみても武術の達人にはみえません。
 スタッフは確かに豪華だけど、この映画は武侠片としてはごくごく標準的な出来。物語の面白さでは『スウォーズマン』とか『方世玉』などの方が上だし、アクションの斬新さという点では『ブレード/刀』や『風雲 ストームライダーズ』の方が上でしょう(★★★)。
11月2日(木)

 妻がなかなか帰らない。
 なぜなら、今日は、なんたらいうジャニーズのミュージカルの初日なのである。なんでも、東山紀之やら堂本光一やらが出ているのだそうだ。
 説明しよう。以前からのこの日記の読者ならご存知のことと思うが、妻は少年隊の東山紀之の大ファンなのである。もちろん「少年隊夢」は毎週欠かさず見ているし、「世界まる見え」だって東山の出ている週は必ず見ている(植草は別にどうでもいいらしい)。
 妻によれば「クリスマスには東山紀之のディナーショーがあるから行かなくちゃ」とのこと。ディナーショーがあるのは24日と25日。まさにクリスマス。どうやら、私はクリスマスをひとりですごさねばならないらしい。誰か一緒にすごしてくれないものか。

 谷田貝さんのところから「腐った魚の販売に営業許可=保健所長を懲戒処分」。確かにこれは何度読んでもよくわからない。「腐った魚を販売するという内容が入った魚介類販売」の営業許可申請が自営業の男性から保健所に出され、その男性は「自家用車のトランクの中で販売するとしていた」のだとか。保健所長は「上司の生活環境部長らに相談し、許可しないよう指導されたにもかかわらず」「自分の判断で許可した」のだという。なんでだろう。「食品衛生法の禁止項目に当たらないとして、当時は許可せざるを得ないと判断したが、おかしかった」という保健所長のコメントも謎。
11月1日(水)

 いちおうSFセミナーのスタッフ、ということで、ロバート・J・ソウヤー歓迎パーティの末席に加えてもらう。役得である。
 妻は、この日に備えて未読のソウヤーを次々に読破し、英会話に磨きをかけ、想定問答集まで作る入れこみよう(あんまり役に立たなかったようだが)。その甲斐あってソウヤーと奥さんと楽しげに会話をし、奥さんの詩集を送ってもらう約束までしていた。ソウヤーはどっしりとした体型の温厚そうな方。奥さんは小柄でチャーミングな眼鏡っ娘(というにはちょっと歳をとってるけど)で、SFファンだそうな。いいなあ、ソウヤー(何がだ)。
 妻によれば、ソウヤーの作品を読むと、作者が奥さんを愛していることがよくわかるとか。そういや、なんだかんだあっても結局最後は奥さんとよりを戻す話ばっかりだしなあ。あと、ソウヤーの作品には夫婦は出てきても子供が出てこないという妻の指摘にもなるほどと思いました。唯一赤ん坊が出てくる『フレームシフト』にしても、その赤ん坊ときたらアレだし。実際、ソウヤー夫妻には子供がいないそうで、作品も確かにそういう作者の生活を反映しているのでしょう。
過去の日記

過去の日記目次

home