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8月10日(木)

 高野史緒『ウィーン薔薇の騎士物語3』(C NOVELSファンタジア)読了。今回は、ルートヴィヒ二世に生き写しのオペラ歌手と、彼を陰で支える女性の物語。私は、これまでの3冊の中ではもっとも気に入りました。結局登場することのない狂王ルートヴィヒの使い方がうまいですね。けっこう感動的ないい話なのだけど、高野史緒に期待するものとはちょっと違うような(それを言えばこのシリーズ自体が、私が高野史緒に求めるものとは違っているのだけど)。結末はしんみりしたいい話になってしまっているのだけど、やっぱり悲劇で終わらせた方が高野史緒らしいよ。
 しかし、そろそろレギュラー陣が多くなりすぎて煩雑になってきたような(今回などアレクシスはほとんど活躍の場がなかったし)。
8月9日(水)

 試しにYahoo! JAPANで、「医学辞典」をキーワードに検索してみましょう。
 検索結果として出てくるのはたったの1サイト。しかもそれが当サイトなのだから驚きである。どうやら「私家版・精神医学辞典」があるせいらしい。今も一日に5、6人は「医学辞典」を求めてこのサイトに来る人がいるのだが、なんとも申し訳ない限りである。

 先日のSF大会でおもしろかった企画のひとつが、菊池聡氏と志水一夫氏の「超常現象こだわって語ります」。特に最高だったのが、菊池氏が畑違いの地震学会に招かれたときの話。
 その学会で菊池氏は、名だたる研究者たちが地震の前兆現象について発表した直後に、前兆現象研究の心理学・統計学的な問題点について発表するはめになったそうな。菊池氏は、統計学の基本中の基本である比較対象の必要性について語り、前兆現象を調べるのなら、地震が起きたときだけではなく、ふだんの状態での前兆現象の有無についても調べる必要がある、というもっともな指摘をしたところ、研究者たちは大混乱におちいり、中には「前兆現象の存在がはっきりすれば多くの人が助かるかもしれないのに、あなたはそれに水をさすんですか!」と詰め寄った先生までいたそうな。いやあ、統計学の基本がわかっていないのはトンデモさんばかりではないらしい。
 さて、その企画で菊池氏が絶賛していたのが、谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書)。確かにこれは全国民が読むべき名著である。この本の第一章はいきなりこう始まる。
 「社会調査」という名のゴミが氾濫している。そのゴミは新たなゴミを生み出し。大きなうねりとなって腐臭を発し、社会を、民衆を、惑わし続けている。
 著者は、「社会調査」の過半数は、自分の立場を弁護したりセンセーショナルな発見をしたように見せかけたりするためのゴミだと断言する。
 たとえば管理職の女性公務員のうち49パーセントが、能力評価に不満を持っている、という記事。この記事には致命的な欠点があるのだけど、どこか。さっきの地震学会の話を読んだ方ならわかりますよね。「比較対象が存在しない」のだ。管理職の男性公務員はどれだけ不満を持っているのか。もし49パーセントより多ければ、女性の不満は少ないことになってしまう。
 このように、実例をあげて、世の中に蔓延する「社会調査」と称するものをなで切りにしていく書きっぷりは実に痛快。新聞や雑誌に氾濫する数字に騙されないようになるための必読書といえよう。
 著者は大阪商業大学の教授で学長だそうだけど、学者らしからぬ語り口は味があって楽しい。中には攻撃的な語り口に拒否反応を起こす人もいるかもしれないけど、それだけの理由で読まないのは惜しい本である。
8月8日(火)

 当直である。
 まだ読書力は回復していないので、すいすい読めるヤングアダルトを重点的に読む。

 まずは上遠野浩平の新刊『冥王と獣のダンス』(電撃文庫)読了。この著者なので期待していたのだが、ごく普通の異世界ファンタジーだったので拍子抜け。『ブギーポップ』のような切実さや、読み手の心に直接触れるような痛みは感じられない。主人公がいみじくも言うように、「惚れたが悪いか」(これが太宰からの引用だと、この本の読者の何人がわかるのだろうか)という理屈も何もあったものではない話なのだが、いくらなんでもこのひとめぼれは、あまりにも唐突で感情移入しにくいような。しかも太宰の狸とは違って主人公モテモテだし。このラストからすると、どうもこれもシリーズになりそうだが……ううむ。

 続いて野尻抱介『ピニェルの振り子』(ソノラマ文庫)読了。これはよいです。ヤングアダルトのみならず、今年の国産SFとしてはこれまでのところベスト。分厚く難しくなる前の、かつてのハードSFが持っていた魅力を思い出させてくれる作品である。ただ、こちらも、スタンがどうしてモニカを好きになったのかもうちょっと描きこんでくれれば、その後のスタンの行動にも説得力が増したように思えるのだが……『冥王と獣のダンス』でもそうだったのだが、エヴァ以降、こういう虚無的な少女へのひとめぼれが流行ってるのだろうか。
8月7日(月)

 きのうはSF大会の帰りに千駄木のラーメン屋「神名備」に行ったのだった。かつてカムナビ・オフが開かれたあの「神名備」である。
 私たちが訪れたのは夕方の6時半頃だったのだが、店内にはすでに10人ほどが並んでいる。私たちは、20分くらい待ってようやく食べることができた。店を出るころには、店の外にも長い列ができていた。遠方からわざわざ車で来る人もいるらしく、路上には何台も車が停めてある。
 従業員は今も若い夫婦(たぶん)ふたりだけ。ご主人は厨房でラーメンを作り続け、奥さんはにこにこしながらも店中を休みなく動き回っている。これはかなり忙しそうだ。営業時間は客が増えるにしたがって逆に短縮(仕込みの時間が必要、とのこと)。定休日は月火。水木金は昼のみ営業。土日だけが昼と夜の営業ということになっていた。今じゃ、ここのラーメンはなかなか食べられないのである。
 というわけで、「神名備」は、いわゆる「行列ができるラーメン屋」になっていたのである。それほど待たずに入れた頃にこの店のラーメンを食べられたのは、けっこうラッキーだったのかも。
8月6日()

 今日も横浜でSF大会。「日本SF論争史」の部屋は、ファンダムの昔話がいろいろと聞けて楽しかったなあ。評論家小谷真理誕生秘話も聞けたり。大会全体としては、ゲストや企画も非常に充実しており、一参加者としてとても楽しめる大会でした。スタッフのみなさんご苦労様。

 埼玉県所沢市で、長男が家族3人を牛刀で刺殺したという事件。これについてasahi.comYomiuri On-LineMainichi INTERACTIVEの記事 を比較してみる。
 asahi.comは「家族3人を次々に刺殺 長男を殺人未遂容疑で現行犯逮捕」という見出しで、「家族5人で食事をとっている最中に長男が突然立ち上がり、調理場から牛刀2本(刃渡り29センチと18.5センチ)を持ち出した。『殺せ、殺せ、と言われた』と言い出したため、父親が制止しようとしたが、長男は父親の手を切りつけ、両手に牛刀を持ち飛び出した」、「長男は服を脱ぎ捨てて裸になり、牛刀を持ったままはいかいしていた」など、事実についての記述が詳しいが、精神科通院歴については記述がない。
 Yomiuri On-Lineは「長男が家族3人を牛刀で刺殺…埼玉・所沢」という見出し。「長男は四年前、精神科に約一年間、入院。その後も通院していたという」という記述がある。
 最後にMainichi INTERACTIVEだが、「殺人事件:通院男が牛刀で家族3人を殺す 埼玉・所沢」という見出し。「長男は通院しており、調べに対し「覚えがない」などと供述している」という記述があるが、どんな病院に通院しているかは書かれていない。
 さて、精神科医の立場からして、どの記事がもっとも評価できるか。まずMainichi INTERACTIVEは論外。私は「通院男」なんていう単語を初めて見たよ。そんな造語を見出しに使ってまで、精神科通院者への偏見を助長させてどうしようというのか。これはひどすぎる。精神科という言葉を使わなければいいというものではない。
 asahi.comには、おそらく精神科治療歴については書かないという方針があるのだろう。それに対して、Yomiuri On-Lineは入院・通院の事実に触れている。さてどちらの記事がより誠実な態度だろうか。
 こういった記事に精神科治療歴が書かれていれば、「ああ、なるほどそういうことか」と読者が短絡的に納得してしまうことは避けられない。だから、書くこと自体が「精神科通院者=犯罪=危険」という偏見を助長する、という人もいる。確かに、精神鑑定も行われていない時点で精神科通院歴と犯罪に関係があるように報じるのはどうかと思う。しかし、まったく触れないのが正しい態度なのだろうか。それでは差別用語への言葉狩りと一緒で、問題を目に触れなくしているだけなんじゃないか、という気もする。
 「精神科通院者=犯罪=危険」という偏見は明らかに間違いだが、病状と深い関係のある犯罪もあることは確かだ。asahi.comとYomiuri On-Lineのどちらを評価するかは迷うところだが、私としては今後精神鑑定の結果が出た時点で再びきちんと報道する、という条件つきで、asahi.comの記事を評価したいのである。
8月5日(土)

 なんだか喉の調子が悪いので、午前中は耳鼻咽喉科の病院に。内視鏡を鼻から入れられ、何もできていないと言われるが、確かに喉に異物感があるんだよなあ。何なんだろ。

 午後から横浜のSF大会へ。小松左京ととり・みきの対談を聞く。伝奇SFについての対談なのだが、小松左京の話はどんどんそれまくり、とり・みきは本筋に引き戻すのに苦労していた。考えてみれば、小松左京をナマで見るのは初めてかも。小松左京といえば地球のように大きい人というイメージだったのだが、とても小さかったのにショックを受けました。
 あとはリレー座談会で、あの福島正実の肉声テープが聞けたのに感動。SF作家クラブ発足準備会のテープなのだが、福島氏ひとりでしゃべりまくっており、なんだかしきり屋という感じ(失礼)。
 夜は「星ぼしの荒野から」の翻訳者として星雲賞を受賞された伊藤典夫師匠を囲んで宴会。
8月4日(金)

 ケーブルテレビとかCSで見られるチャンネルNECOで『さよならジュピター』をやってました。
 おお、これが有名な無重力セックスシーンか。ちゃんと見るのは10数年ぶりか。最初に見たときはいつまで続くんだ、と思ったものだが今見てもやはり長いね。特撮とかCGには確かに力が入っている(当時としては)のだけれど、やはりこのテンポののろさは致命的。ジュピター教団の場面もあまりにも古くさすぎ(教祖はまるで竹中直人が演じるヒッピー歌手のパロディのようである)だし、木星を破壊して太陽にしてしまえ、という発想自体、今考えれば時代遅れに思える。のちにグローブのマーク・パンサーになる子供は台詞棒読みだし、ユーミンの歌はゲレンデやビーチには似合っても、宇宙SFには似合わんと思うのだが。
 原作は悪くないのに、なんでこんな映画になってしまうかなあ。
 『さよならジュピター』は、10日24時、20日20時からもやるので録画したい人はどうぞ。さらに、14日21時からは『宇宙からのメッセージ』だそうな。こりゃまたマニアックな。

 重松清『四十回のまばたき』、川上弘美『いとしい』、恩田陸『上と外1』と、幻冬舎文庫の新刊を3冊と、上遠野浩平『冥王と獣のダンス』(電撃文庫)購入。

 アイルランド旅日記、7月24日25日をアップロード。
8月3日(木)

 時差ぼけのせいかむちゃくちゃ体調悪いです。うー、死にそう。なかなか本も読めないのだが、リハビリのため読みやすそうなヤングアダルトものでも読んでみる。
 というわけで時雨沢恵一『キノの旅』(電撃文庫)読了。この本を手に取ったのは、他のヤングアダルト作品とはなんとなく肌合いが違っていそうだったことと、シリーズものではなく単発もののようだったことから。私は基本的にシリーズものが苦手なのだ(『ブギーポップ』は単発だと思っていたのに騙されたよ)。
 読んでみると、キャラクター主導ではない寓話めいた作風は、ヤングアダルト作品の中では確かに異色。諸星大二郎のゼペッタ・シリーズにちょっと似ていると思ったのだが、この作品には諸星ほどの毒がなく、むしろ人間の愚かさを、祈りを込めてやさしく静かに見つめているように感じられる。必要以上に作者が出しゃばらない淡々とした筆致には好感が持てます。次の作品が楽しみな作家になりそうだ。できれば続編ではなく別の物語を希望。

 蛍光灯はなぜか突然直りました。もしかすると、直ったのではなくて、あまりにも状態変化の周期が速くなったため、人間には認知できない速度で点滅を繰り返すようになっただけかも。でも、よく考えてみれば、それって蛍光灯の原理そのものじゃ。
8月2日(水)

 きのうどのリモコンも受けつけるようになってしまった蛍光灯は、ついにリモコンを使わなくても点滅するようになってしまった。ランダムな周期で、いちばん明るい→少し明るい→小さなライトだけ→消灯の4つの状態を繰り返している。しかも、この周期がだんだん速くなってきているようだ。今この文章を書いている間にも、部屋は明るくなったり暗くなったりしている。これではとても本など読めません。いったいこの周期が極限に達したとき何が起こるのだろうか。

 アイルランド旅日記、7月22日23日をアップロード。
8月1日(火)

 さすがに10日間も日本を離れているとチェックすべき新刊が山ほど出ている。菅浩江『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)、デイヴィット・J・スカル『マッド・サイエンティストの夢』(青土社)、高野史緒『ウィーン薔薇の騎士物語』(C NOVELSファンタジア)、乙一『石ノ目』(集英社)、野尻抱介『ピニェルの振り子』(ソノラマ文庫)、キース・ロバーツ『パヴァーヌ』(扶桑社)、ニコルソン・ベイカー『室温』(白水社)購入。いつ読むね。

 なぜか突然、テレビのリモコンで居間の蛍光灯がついたり消えたりするようになってしまった。試してみると、ビデオのリモコンでもクーラーのリモコンでもOK。もともとこの蛍光灯は専用のリモコンで明るさを変えられたのだけど、それがどうしたきっかけか、いきなりどのリモコンも受け入れるようになってしまったのだ。赤外線なら何でもいいのか。無節操な蛍光灯である。
 しかし、これはむちゃくちゃ不便である。テレビのチャンネルをつけるといきなり部屋が暗くなる。クーラーをつけると明るくなる。チャンネルを変えるたびに明るさが変わる。あーいらいらする。しかし考えようによっては、リモコンをなくしても灯りを消せるのだから、便利だといえなくもない。これがポジティヴ・シンキングってやつですか。

 オランダに置き去りになっていたスーツケースは無事成田に到着し、本日宅急便で届く。もちろん費用は航空会社持ち。考えようによっては無料で家まで荷物を運んでもらったということになるのかも。ポジティヴポジティヴ〜。
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