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12月10日(火)

▼殺人を犯した精神科医石田昇について話題にしたのはついこのあいだのことなのだけれど、ニュースサイトを見ていたら、ラカン派の精神分析医として有名な小笠原晋也医師が婚約者を殺して自殺を図ったという記事を目にしてびっくり。
 こないだは小酒井不木の日記に、友人の殺人について「驚く」としか書いていないことに疑問を抱いたのだけれど、実際、精神科医が人を殺したと聞いても「びっくり」くらいしか書けないものですね。まあ私の場合は不木と石田の関係とは違い、小笠原医師のことは著書や紹介状の文字で知っている程度で、一度もお会いしたことはないのだけれど。
 小笠原晋也、といっても一般の方には馴染みのない名前だと思うのだけど、精神分析界では超有名人、ラカン派の精神分析医として著書・訳書も多く、日本ではきわめて数少ない、本格的な精神分析を行う精神分析医のひとりです。
 小笠原医師は病棟のないクリニックを開業しているので、ときどき私の勤めている病院にも患者さんの入院依頼をしてきていたのだけれど、これがなんともたいへんな患者さんばかりで閉口した覚えがあります。しかも、どうみても境界型人格障害なのに紹介状をみると精神分裂病という診断がついていたり。どうも、小笠原医師には「人格障害など存在しない」という確固たる信念があったようです。ラカン派ってのはそういう立場なのかな? ラカンなどわからんこっちから見ると明らかに人格障害なんですが。
 医者としてどころか人間として許されないことをしてしまった彼に別に同情はしないのだけれど、それでもやっぱり優秀な才能がこんな下らないことで喪われるのは惜しい気がします。

12月9日(月)

先日のこの日記で話題にした精神科医石田昇の殺人事件について、小酒井不木研究サイト「奈落の井戸」のもぐらもちさんが雑記(12月4日)で取り上げてくださっています。小酒井と石田がアメリカで親しくしていたらしい、というところまでは私も調べたのだけれど、さすがもぐらもちさんは小酒井不木研究家だけあって、小酒井が事件について回想した「I君の殺人」(大正14年)という単行本未収録の小文を紹介、その貴重な全文を翻刻されております。
 「I君の殺人」には留学中の石田昇の人となりが描かれているとともに、
十一月頃、I君から絵ハガキが届いて、「どうも同じ病院に居る医員が僕を妬んで排斥しようゝゝゝとして居るから、近いうちに、南部へ旅行するつもりだ」と書かれてあつた。あとで聞くと、アメリカに居る友人といふ友人へ同じことを書いて出したらしい。
 というところなど、事件前の石田の精神状態が窺い知れる部分もあります。事件は石田の被害妄想が高まっていった結果として起きたものであり、決して突発的に起きた事件ではなかったのですね。
 さらに、この「I君の殺人」を読むと、なんとなく、不木の日記に石田の殺人についての感想がほとんど書かれていない理由がわかったような気がするのですね。不木の文章からすると、どうも石田昇はそうとう自信過剰でエキセントリックな人物だったようです。不木も、異邦の数少ない同胞としてつきあってはいたものの、それほど石田を先輩として敬愛していたというわけではなさそう。
 日記に何も書かれていないことや、エッセイの「私はすぐにも飛んで行かねばならぬと思ひ乍ら、どうしても気が進まぬので、やめてしまひ」というあたりの記述に、不木の石田に対する複雑な感情が垣間見られるような気がするのですね。しかも、エッセイの後半は石田の話題はどこかへいってしまい、法廷の滑稽話になってしまうし。
 ちなみに、石田昇は7年間をアメリカの刑務所ですごしたあと、大正14年(ちょうど「I君の殺人」が書かれた年)に日本に送還され、12月27日から死ぬまでの15年間を松沢病院の入院患者としてすごしております。
 もぐらもちさん、貴重な文献の翻刻をどうもありがとうございました。

12月2日(月)

▼大学の医局忘年会に出る。若い研修医から、論文や専門書の著者としてよく名前を見かける高名な先生まで来ていたのだけれど、医局から離れてしばらくになる私はどちらとも面識がないので、食べ物を取ってきては隅っこでもぐもぐと食べておりました。高い参加費取るだけあって食べ物はさすがにうまい。
 受付で渡される名札には「○○先生」と印刷されていて、会場内どちらを見ても先生だらけ。そしてお互いがお互いを「先生」と呼び合っている。相当笑える光景だと思ったのだけれど、当然ながら誰も笑っていない。私もずっとそれをつけていたのだけれど、なんだか馬鹿になったような気分でした。

12月1日()

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』を観てきました。あんまし期待しないで観たのだけれど、これがまた「トイレの花子さん」+「スパイダーズ」+「アナコンダ」みたいな映画(そういう要約でいいのか、本当に?)。内容はかなりとっちらかっているのだけれども、むちゃくちゃ金かけたB級映画みたいなノリが楽しい映画である。
 ただし、ハーマイオニーは前作ほど見せ場がないのが残念(ラストで二人と再会するとき、ハリーにはためらいなく抱きついたのに、ロンには躊躇した上で握手だけ、というのは何かの伏線なんだろうか。もしかしてロンの方に気があるとか?)。
 私としては、エンドクレジットのあとのむちゃくちゃブラックなオチだけでも☆ひとつぶんおまけしてあげてもいいくらいである。いやー子ども向け映画であんなオチをつけますか。この作品、子どもたちに、「映画は最後まで席を立たないこと」という教訓を教える映画としてもいいんじゃないかな。
 あと、家では虐待されていて、ハリーを理想化して自己卑下を繰り返し、「ハリーのため」という自分勝手な理由づけでハリーを迷惑をかけまくったかと思うと、少しやさしい言葉をかけただけで自傷する(壁に頭を打ちつけたり手にアイロンかけたり)という「しもべ妖精」が、妙に生々しく見えたのだけれど……考えすぎかな(★★★☆)。


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