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9月20日(水)

 柔道の吉田秀彦の肘がぐきっと逆に折れ曲がるシーンを今日一日で何度見たことか。痛い痛い痛い痛い。何度見てもあれは痛い。苦痛に歪む吉田の顔がなお痛い。

 石原プロ初の女性アーティスト、その名は「ウラン」。この名前では、まずたいがいの人がアトムの妹を思い浮かべると思うのですが。それに、本人の、「ウランという物質は他のものと組み合わさってものすごいエネルギーを出す。私も力を発揮したい」というコメントはどうかと思います。「他のものと組み合わさって」とは? ヒットを飛ばしながら自分はどんどん崩壊していくアーティストなのかも。

 ジョン・ディクスン・カー『囁く影』(ハヤカワ・ミステリ文庫)購入。
9月19日(火)

 『中井久夫著作集2巻「治療」』(岩崎学術出版社)に収録された「妄想患者とのつき合いと折り合い」という論文から。
 1960年代、患者が喰い入るようにみていたテレビ番組は「インヴェイダー」と「逃亡者」であった。前者は異星からの目に見えない侵入者が人間にとりつく結果隣人をも信用できなくなるがその証拠はないという物語であり、後者は、犯人とまちがえられた医師が次々に善行をして一夜の宿を得てもお尋ね者であることが露見しそうになってその都度また果てのない逃亡の旅に出なくてはならない物語である。このテレビフィルムをみる患者たちの中からは深い呻き声に近い歎声がしばしば聞き取れたのである。
 確かに、SFやホラーのストーリーってのは、分裂病患者の迫害妄想に近いものがありますね。特に『X-FILE』なんて、ほのめかしばかりでいつまでも真相にたどり着けないあたり、きわめて分裂病的。そうした分裂病的なストーリーが、私たち健常者の心をも深く揺さぶるのは不思議なことである。分裂病者の不安というのは、まったく異質で理解不能なものというわけではなく、私たちも持っている根源的な不安なのだろう。

 恩田陸『光の帝国』(集英社文庫)、フレッド・カサック『殺人交叉点』(創元推理文庫)、『怪奇・伝奇時代小説選集(12)』(春陽文庫)←まだ続いているよ(泣)購入。
9月18日(月)

 当直。
 竹本健治『クー』(ハルキ文庫)読了。絵に描いたようなB級SFバイオレンス小説。展開は一本調子で意外性もなく、エンタテインメントとしてあんまりよくできているとは思えない作品。主人公は7年も戦闘訓練を受けていたにしてはあまりにも弱すぎるとか、敵は強大な組織のはずなのに2人しか出てこないとか、気になる箇所も多い。竹本健治模索期の作品であって、わざわざ復刊したり、ましてや続編を書いたりするまでもない作品だと思うのだけど。

 表彰台から落ちて足をくじいたおかげで次の種目は予選落ちとは、なんとも笑うに笑えませんね。でも、それも豪快でまたよし。応援するぞ、田島寧子。
9月17日()

 ジェフ・ゲルブ、マイクル・ギャレット編『囁く血』(祥伝社文庫)読了。さすがに3巻目になるとマンネリ気味かな。前巻までのマキャモンやレイモンみたいに、特に目玉になる作家もこの巻にはいないし。作品の出来は総じて低調なのだけど、前巻のレイモンに触発されたのかバカホラーが多いのが特徴といえば特徴。グレアム・ワトキンズ「妖女の深情け」、ロン・ディー「おかまのシンデレラ」、ジョン・シャーリー「愛咬」なんて、いったい何を考えているのか、と思うほどバカバカしいオチである。エロとバカは相性がいいのだろうか。
 そんなこの巻の最高傑作は、なんといってもホームズものを思わせる設定のグラント・モリスン「愛欲空間の囚」。オカルト探偵オーブリー・ヴァレンタイン最後の事件! 邪悪な異次元生命体“ミステリーズ”とオカルト探偵の熾烈な戦いはついにクライマックスを迎えた。包帯で封印してあった左手の力を解放し、最後にして最大の戦いに挑むヴァレンタイン! とまあ、ただごとでない盛り上がりよう。これは燃えます。……でも、これ、別にシリーズものじゃなくて、オーブリー・ヴァレンタインが出てくるのはこれ一作きりなのですね。うーむ、惜しい。ヴァレンタインものの他の作品も読みたいぞ。
 さて、この"Hot Blood"シリーズ、本国では10巻まで出ているらしい。そこで次巻以降の邦題を考えてみた。『昂ぶる血』『溶けあう血』『ほとばしる血』……ときて、最終巻は『るちおふる血』というのはどうか。
9月16日(土)

 田村亮子金メダル。インタビューでアナウンサーやタレントが盛んに「YAWARAちゃん」と話しかけ、田村亮子も当然のようにそれに答えているのは考えてみれば奇妙な光景である。画面にも「YAWARAちゃん、野村選手金メダル!」のテロップが出ているし。野村選手も愛称がないとバランスがとれないので、「男YAWARAちゃん」とか呼んであげたらどうか。いやがられるだろうな。
 ときどき「田村亮子のどこがYAWARAちゃんなんだ、全然似てないじゃないか」という人がいるが、私が気になるのは、むしろ常にあだ名で呼ばれる田村亮子の側の気持ちである。たとえば私が「オバケのQ太郎」によく似ていたとする。その場合、親しい人に「Qちゃん」とあだ名で呼ばれるのはいいが、日本国民全員に「Qちゃん」と呼ばれたら、「私はQちゃんじゃない、名前で呼んでくれ!」と叫び出したくなるだろう。
 もし田村亮子が選挙に立候補したら、おそらく8割近くの人が投票用紙に「YAWARAちゃん」と書いて無効票になるに違いない。そのときは仕方ない。覚悟を決めて、田村YAWARAに改名するしかないだろう。広く認知されている通称だから、きっと改名は認められるはずだ。いや、そもそも立候補なんてしないだろうけど。
 それを考えると、女子スケート界を描いた人気マンガがなかったおかげで、橋本聖子は国会議員になれたのかもしれない。

 あ、比例代表制だから関係ないのか。
9月15日(金)

 またつまらぬ映画を観てしまった。
 『ルール』である。『スクリーム』以来山ほど作られている学園連続殺人映画のひとつだが、この映画ならではの新しい要素は何ひとつない凡庸な作品である。
 原題は"Urban Legend"(都市伝説)。タイトルの通り、アメリカの都市伝説がいろいろと紹介されていて確かにその点は楽しい。「ドンパッチ(だっけ。日本でも昔売ってた口の中ではじけるお菓子)とコーラを一緒に飲むと胃の中で爆発する」とか「海外旅行中に飲み物を飲んだら意識を失い、気がついたら腎臓を取られていた」とか。しかし、この都市伝説の扱い方が下手すぎる。物語は単に都市伝説の通りに殺人が繰り返されるというだけで、伝説そのものの不気味さや魅力にはまったく迫っていないのだ。伝説の背景にある人々の無意識についてもっと掘り下げるようなストーリーだったら、少なくとも『テシス 次に私が殺される』くらいの秀作になっただろうに。
 エルム街のフレディことロバート・イングランドが怪しげな役で出てくるのが唯一の見物のB級サスペンス映画である(★★)。

 ハルキ文庫のSFはどれを買おうかなあ、と迷ったあげく、タイトルに(1)とか「第一部」とか「第一話」とかついてるのは全部脇において、残ったものの中から小川一水『回転翼の天使』のみ購入。しかし先月のホラーはシリーズものなんて全然なかったのに、SFだとなんでこんなにシリーズが多いかなあ。同じ世界に安住してだらだらと書くのではなく、単発の長篇でびしっと決めてくれる作家にこそ期待したい。復刊では竹本健治『クー』を買う。あとは、平井呈一『真夜中の檻』(創元推理文庫)、ジェフリー・ディーヴァー『監禁』(ハヤカワ・ミステリ文庫)、十川幸司『精神分析への抵抗』(青土社)購入。
9月14日(木)

 ジェフリー・ディーヴァー『悪魔の涙』(文春文庫)読了。主人公はわけあってFBIを離れた筆跡鑑定の達人。彼を捜査に呼び戻してコンビを組むのは元デザイナーのFBI女性捜査官。対する相手は鑑定を見越してニセの証拠まで残す頭脳犯。果たして主人公は犯人の裏をかいて次の犯行を食い止められるか……って、『ボーン・コレクター』とパターンおんなじ。いくらなんでもあんまり似すぎてるとは思わなかったんだろうか。
 まあ、パターンとしてはマンネリなのだけど、どうしてもこの作家を憎めないのは、物語の完成度を犠牲にしてまで意外性に奉仕する心意気が好きだから。当然ながらこの作品にも、新本格なみに無茶などんでん返しが待ち構えていて大笑い(ディーヴァー作品にどんでん返しがつきものだということは周知の事実だから、ネタバレにはあたるまい)。主人公が大のパズル好きなところといい、犯人の残した一枚の脅迫状から犯人像を推理するというまるで『九マイルは遠すぎる』のようなシチュエーションといい、ディーヴァーってかなりの本格好きなんじゃないだろうか。おまけに雪の密室まで出てくるし(ほんのちょっとだけど)。もしかすると、今海外で日本の本格ミステリに近い作品を書くのはディーヴァーただひとりかもしれない。少なくとも、今どき、「完全な犯罪者対完全な探偵」なんて話を書くのはディーヴァーくらいのものだろう。
 ただ、本格として見た場合、いくつか疑問点はあるんだけど……。

 『聖の青春』ドラマ化。妻に「村山聖役は誰だと思う?」と訊いたら、「デーブ? ゲームwaveの人?(伊集院光のことか)」などと失礼なことを言っていたが、ふつう藤原竜也とは思わないよなあ。藤原竜也はデ・ニーロを見習って、役作りのため村山そっくりに太ってほしいものである。
9月13日(水)

 菅浩江『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)読了。至高の美をめぐる連作短篇集、などというので多少身構えて読み始めた(だって「至高」の「美」だよ)。「美とは何か」なんてテーゼを大上段から押しつけてきたらどうしよう、と思っていたのだが、当然ながらこの作者はそんなことはしないのであった。権威的な美を押しつけるのではなく、それぞれの人の心の中にある美しさに対して、さまざまな方向からアプローチしていき、結果として「美」を浮かび上がらせる構成になっている。
 もちろん、データベースと直接接続した学芸員や、変形菌やマイクロモーターを使ったバイオクロックなど魅力的なガジェットにも満ちていて、SFとしても読み応え充分。第1話から何気なく張られていた伏線の数々が最終話できっちりと生きてくるあたりもうまいなあ。
 ただ、第1話「天上の調べ聞きうる者」はちょっとロマンティックな方向に流れすぎ。脳に障害を受けた患者のことを「無垢なる心」だというだけど、別に障害と無垢とは関係ないのでは。障害者を差別するのも無垢だといって持ち上げるのも同じように偏見だと思います。
9月12日(火)

 もう今となっては忘れている人が多いかと思うが、明日はセカンド・インパクトの日だ(ついでに渚カヲル君の誕生日)。まあたいがいの人は忘れているか、そもそもそんなこと知りもしないのだろうけど、そういうことをちゃんと覚えている奇特な人というのはいるもので、その人が今日、セカンド・インパクト前夜祭をやろうと言い出した。まあ、セカンド・インパクトをダシに今さらながらエヴァを語ろうってわけですね。その人物がたまたま私の友人だったもので、私も某家にて行われたその集まりに参加。まあ、すでに語り尽くされた感のあるアニメだけあって、当然ながらそんなに新しい話題が出たわけではないのだが、しかし、みんなきのうのことのようにエヴァを熱く語るのでびっくりである。
 参加者10人のうち、なぜかSFセミナースタッフが5人もいたのが謎。
9月11日(月)

 中村融編訳のホラーSF傑作選『影が行く』(創元SF文庫)読了。傑作選とはいっても、最も新しいクーンツの「悪夢団」でも1970年の作品。「ホラーSF傑作選」の前に「ヴィンテージ」とつけた方がいいかもしれない。
 ブライアン・W・オールディスのネビュラ賞受賞作「唾の木」や、語りのテクニックが絶妙なアルフレッド・ベスター「ごきげん目盛り」など確かに傑作もあるのだけど、マシスンやトーマスの作品など、今となってはさすがに古めかしく感じられるものも多い。キース・ロバーツの「ボールターのカナリア」は主人公二人のかけあいが面白く、まるで坂田靖子のユーモア短篇のよう。続編の短篇もどこかで訳してほしいものである。その他、ディックはいかにもディックらしいし、C・A・スミスはいかにもスミス。
 前半の作品は古色蒼然としているものが多いが、後半になるほど面白くなってくるので途中で本を閉じないように。

 続けて永井義男『算学奇人伝』(祥伝社文庫)読了。これは珍しい時代数学ミステリ。江戸時代の和算家を主人公にした宝探し小説である。確率や幾何を駆使したストーリーは確かに新鮮でおもしろいのだが、本筋の宝探しの問題が拍子抜けしてしまうほど簡単なのが残念。もうちょっと問題を複雑にして長くじっくりと書いてほしかった。まあ、一般向けの読みものとしては、これくらい単純でないとダメなのかも。主人公の和算家のキャラクターも、わかりやすい奇人といったイメージで、ちょっとステレオタイプすぎる。
 さて、この物語の冒頭に、あるサイコロ賭博が出てくる。このルールなのだが、「まず、一回につき十文を親に支払い、丁か半かを宣言してから、自分でサイコロを一つ振る。丁と宣言した場合、ひと振り目で丁が出れば一文もらえてそこでおしまい。しかし、一回目が半で二回目に丁が出た場合は賞金はその倍で二文。賞金はひと振りごとに倍になり、例えば、四振り続けて半が出て、五振り目にようやく丁が出て勝ったとすれば十六文もらえる」というもの。
 これを聞いた主人公、下男に対し、「損をするようにできているのだ。もう二度といくんじゃないぞ」といさめるのだが、その根拠は2084回試行してやはり損であった、というもの。でも、それじゃ証明にはなっていないよなあ。この問題の本当のパラドックスは、計算すると期待値が無限大になってしまう、というところだと思うんだけど。まあ、江戸時代に期待値という発想はないだろうから、そこまで踏み込んでいなくても仕方ないか。

 エロティック・ホラー『囁く血』(祥伝社文庫)、異形コレクション『帰還』(光文社文庫)と、ホラー・アンソロジーを2冊購入。
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