ジェフリー・ディーヴァー『静寂の叫び』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読み、電子本が普及すればいいのになあ、と心から思う。活字媒体だと、事件は一見終わったようにみえたが……という手法を使われても、ページ数の残りから、まだ一波乱あるのがわかってしまうのだ。ああ、電子本ならどこで終わるのか見当もつかない物語が読めるのに(短編だと思ってたら全1ギガバイトの長編だったりしたらイヤだけど)。
物語自体は評判通りの傑作。人質となる聾者の描写にはステレオタイプではないリアリティが感じられるし、交渉担当者ポターと脱獄犯ルー・ハンディの駆け引きも緊迫感あふれていて読ませる。ポターは交渉のプロとして描かれているものの決して万能のヒーローではなく、犯人の言葉にぐらつき、ときに自分を見失いながらもぎりぎりの交渉を進めていくのだ。うまいなあ。
心理描写は小説ならではのものとしても、ストーリーを追うだけでも映像化したら見栄えがしそうな作品だよなあ、と思っていたら、案の定"Dead Silence"というタイトルでTV映画化されているらしい(さすがに本国でも"Maiden's Grave"じゃなんの話かわからないと思ったようだ)。しかし、このTV版ではなぜか脱獄犯ルー・ハンディの名前が原作とは違っている。何という名かというと、テッド・ハンディ。そりゃないだろ、いくらなんでも。
柴田よしき『星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう』(アスペクト)と、装丁が変わった『幻想文学57』を買う。わーい、赤江瀑特集だぁ、と早速開いてみたのだけど、9ページの(たぶん東編集長の)「P・K・ディック原作の映画『JM』のようですね」という発言に愕然とする。活字になるまでに誰か気づかなかったんだろうか。続いてブックレビュー欄を読み、石堂藍の『BH85』評価のあまりの低さにも茫然とする(私に限らず、確かSF畑では好意的な評が多かったと思うんだけど)。幻想文学とSFの間の溝って意外に深いのかも。
浦沢直樹『MONSTER 13』(小学館)、小山田いく『魑魅 2』(ソニー・マガジンズ)も購入。
溝口さんが「よくわからない。まったく楽しめなかった」と書いている『SFバカ本 彗星パニック』の明智抄「笑う『私』、壊れる私」ですが、このへんとかこのへんを読めばちょっとはわかるかも。
柏崎の女性監禁の事件は、なんだか妙な方向に向かってますね。今やもう事件そのものよりも、女性が保護された日に県警本部長と警察庁から監察に来てた人が温泉宿で麻雀をしていたことの方が問題になっているみたい。いーじゃん、麻雀くらいしても。
新聞やニュースでは「許せませんねえ」と言いたげな調子で報道されているのだけど、果たして本気で「なんてひどいことを。許せん」と思っている人がどれだけいるんだろうか。「間の悪いときに事件が起きて、運が悪かったねー」と思ってる人が大多数なのではないか。
私としてはこの事件で許せないのはただ一点だけ、警察が「1万円の図書券を賭けて麻雀をしていた」と発表したところですね。麻雀してたのは別にいいんだけどさ、なんで今さらこんな見え透いた嘘つくんだろう。
高校生の頃の潔癖だった私だったらこういうニュースを聞いたら、「大人って……汚い」と思ったのかもしれないけど。私はもう汚れてしまったのかな。
この間襲撃した宇都宮さん宅を再襲撃。今度は1月2月生まれの人の誕生会という名目である。この間は宇都宮さん秘蔵のワインを瞬く間に7本もあけてしまい、あとになってあれはもしかして高いワインだったのでは、と申し訳なく思ったものだが、宇都宮さんは今度もニコニコしながらワインをあけてくれた。なんていい人なのだろう(<申し訳なく思うんなら金払えよ)。
ケーキやら何やらを食べながら、お決まりのアニメ主題歌集を見たり、『サウスパーク』を見たり、『ブレイド』のアクションシーンだけを見たり(DVDはこういうのが簡単にできるからいいなあ)。今思えば、『ブレイド』のウェズリー・スナイプスの黒コートにサングラスという格好って、『マトリックス』そのものだよなあ。
その後も宇都宮さん所蔵の『カウボーイ・ビバップ』を流しながら(「道化師の鎮魂歌」の回がティム・バートン風味でいいです)河豚鍋をつつくというオタク三昧な一日。いやあ、いいなあ、DVD。画質がむちゃくちゃいいし検索も簡単にできるし。プレステ2が届いたらソフト買おうかな。
すまんね、今日は芸のない日記で。遅く帰ってきて疲れてるんだよ。
ビデオで『ワイルドシングス』を観る。『ワールド・イズ・ノット・イナフ』でも活躍したデニス・リチャーズが巨乳を見せつける映画。まずはチアガール姿で登場するデニス。意味もなく車を洗ってずぶぬれになるデニス。プールではすけすけの水着で泳ぐデニス。なぜか家の中では下着で過ごしているデニス。不自然だ。むちゃくちゃ不自然だ。もう男の妄想そのまんまなんだけど、まあそういう映画なんだから仕方がない。さすが、映画秘宝で99年ベスト・エロティック・シーンに選ばれるだけのことはある映画である。『スクリーム』のネーヴ・キャンベルも出てるけど、はっきりいってどうでもよろしい。
一応サスペンス映画で、後半にはどんでん返しの嵐が吹き荒れるのだけど、これには驚くより先に笑ってしまった。伏線も何にもなくいきなり「あいつは実はIQ200なんだ」とか言われてもなあ。
有里さんの「北村薫の「私」シリーズは要するに『9マイルは遠すぎる』(←これでよかったけ、タイトル)なのだなと思った」を読んで、今までそう思っていなかった人がいたことの方にびっくり。これって大前提だと思ってたんですが。北村薫の「私」シリーズについては、キャラクタがどうのという前に、まず『9マイルは遠すぎる』や『グリーン車の子供』の系譜をつぐ安楽椅子ミステリとして評価すべきでしょう(『スキップ』や『水に眠る』になるとまた違ってくるけど)。で、安楽椅子ミステリというのは本質的に欠席裁判にならざるをえない。そりゃ仕方のないことでしょう、物語の性質上。
このシリーズってのは、円紫さんが些細な謎から意外な図柄を描き出すところがキモであって、その「意外な図柄」は本来事実でもそうでなくてもかまわないものだと思います。論理を重視するミステリにおいては、結末で推論が事実だとわかる、という部分は別になくてもいいものであり、いわば一種の読者サービスみたいなもんです。論理のキレ、現れてくる図柄の意外さ、これが命なんですね。だから最後の断罪のところも、「あー、『私』ちゃんたら、なんて信じやすい人なんだろう」とは思っても、そんなに不快感は覚えなかったなあ。
私にとって「私」シリーズは論理のアクロバットを楽しむものであって、「私」のキャラクタなんてものは、物語の口当たりをよくするための甘味料にすぎないと思ってたんだけど。感情移入する対象があるとすれば、それは「私」でも円紫さんでもなく、論理そのものでしょう。ロジック萌え(笑)。この読み方ってのは少数派なんだろうか。
こないだ有楽町に映画を観に行ったついでに買ってきたのが、「オリエンタル・バス・キューブ」なる名前のイギリス製の固形入浴剤。日本の代表的な香りが揃えてあるそうで、「きんもくせい」「ゆず」「ひのき」というあたりは納得がいくし、「さくら」「たけ」ってのも、あまり入浴剤にはない香りだけど、なるほどと思わされる。しかし、最後のキューブだけは謎だった。
「みず」。
この入浴剤を入れると、風呂は水の香りになるらしい。なんだそれは。
変な物好きな私は当然この入浴剤を購入し、さっそくこの風呂に入ってみたのだが、私にはどこが水の香りなのかさっぱりわからない。まあ、年中つまっている私の鼻などあまり当てにならないんだけど。ちなみに妻は、入った瞬間に「ああ、今日は水だなあ」という香りがしたというのだが、これもよくわからん世界である。じゃ、いつもの風呂は水じゃないのか。
しかし、水の中に水の匂いの入浴剤を入れるという行為には、何だかパラドキシカルな風情がある。風呂をかき混ぜながら固形入浴剤が溶けて行くのを待っている間、どんな香りなのだろうと期待しつつも、なんだか、自分はとても無駄なことをしているのではないか、という疑念を感じずにはいられないのだった。似たシチュエーションを考えてみると、ご飯味の振りかけをかけたご飯を食べる瞬間とか。あ、それはそれでうまいかも。
今日も病院の同僚と、赤坂のインドネシア料理店「ジュンタバン・メラ」で食事。最近、私好みのエスニック料理店での食事会が多くてうれしい。定番のナシゴレンや、テンペという豆腐みたいな食べ物の炒め物などを食べる。インドネシアの料理は、ココナツ味のむちゃくちゃ甘口のものから辛い料理までバラエティに富んでいるけど、なんだかカレー系のどろっとした料理が多いですね。頼み方が悪かったのかな。デザートはタピオカとか揚げバナナとか。美味でした。
asahi.comによれば、オムロンが10万円前後でネコ型ペットロボットを発売するそうで、ウェブページ(なんか妙に素人っぽいページなんですけど)でその声を募集しているとか。やっぱりここはのぶ代しか。
「映画秘宝15」を購入。『遠い空の向こうに』のレビューを『夏のロケット』の川端裕人が書いてるのがうれしい。原稿頼んだ編集者に拍手。
さて、映画『遠い空の向こうに』の原題は"OCTOBER SKY"。原作は『ロケット・ボーイズ』(こっちの原題はそのまんま"ROCKET BOYS")。なんで映画は原作とは違うタイトルなんだろう、と思っていたのだが、「映画秘宝」に意外な真実が。なんと、"OCTOBER SKY"は"ROCKET BOYS"のアナグラムだったのだ! うぅむ、確かに。これには気づきませんでしたよ。
あと芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行 7』(講談社)と『ネオデビルマン 3』(講談社)も購入。
ジェフ・ゲルブ、ロン・フレンド編のホラー・アンソロジー『震える血』(祥伝社文庫)読了。おもしろいです。このアンソロジーのテーマはずばりエロ。下世話で品格なんかかけらもない作品ばっかり並んでいるんだけど、おもしろいんだから仕方がない。アンソロジーには珍しくハイレベルな作品が揃っている。書き下ろしアンソロジーは玉石混淆というのが常識だけど、このアンソロジーは書き下ろしと再録が交じっているためこれだけの水準を保てたのかも。中でもいいのは、グレアム・マスタートン「変身」、F・ポール・ウィルスン「三角関係」、レイ・ガートン「お仕置き」、デイヴィッド・J・ショウの世界幻想文学大賞受賞作「赤い光」といったあたり。ただ、エロをテーマにするんなら、収録作家が男性作家だけというのはちょっと不公平な気がする。実はこの本は抄訳で、原書にはリサ・タトルの作品もあったらしいのだけど、それでも24人中たったひとりというのは少ないよ。
栗本薫『豹頭王の誕生』(ハヤカワ文庫JA)読了。タイトルのわりにグインの出番が少ないし、まあ、つなぎの巻ってところですか。以前からタイトルが予告されていたわりには淡々と終わってしまったような。
購入本は、岩波文庫の復刊からA・K・トルストイ『白銀公爵』。タイトルがむちゃくちゃかっこいいし、幻想文学畑でもよく名を聞く作家なので買ってみた。その上訳者は中村融だし(笑)(もちろんSF翻訳家の方とは別人なので、念のため)。
個人的備忘録。24日のBS2映画『華麗なる殺人』を録画しなきゃ(深夜1時40分〜3時20分)。原作はロバート・シェクリイの短編「七番目の犠牲者」(『人間の手がまだ触れない』所収。ハヤカワSFシリーズの『標的ナンバー10』はこの映画のノベライゼーションらしい)。出演はマルチェロ・マストロヤンニにウルスラ・アンドレスという1965年のイタリア映画。紹介文を読むと「乳房に弾丸発射装置を仕込んだNY出身の美しい殺人選手(アンドレス)は、ローマの殺人選手(マストロヤンニ)と張り合いながら、次々に知恵と腕力を駆使した殺人ゲームを実行していく」って、すごくバカっぽいんですけど。楽しみ楽しみ。
映画感想インデックスを日記インデックスから独立させてみました。タイトルは何も考えず「キネマ万年王国」。ひねりがないね、まったく。
ティム・バートンの映画を観たので、今回は私の好きな映画の話を少し。好きなものを通して自分を語るのはちと気恥ずかしいのだけど、今回限りということでご容赦を。
私の好きな映画は、物語だけではなく、世界そのものが人工的に作り込まれた映画ですね。全編が監督の美学で染められているような映画。監督で言えば、例えばティム・バートン、テリー・ギリアム、ピーター・グリーナウェイといったところ。
ティム・バートンだと、『シザーハンズ』は好きなんだけどこれを好きというのはちょっとあまりにもベタで恥ずかしいので、『バットマン・リターンズ』がいちばん好き、と言っておこう。バートンのモンスターへの偏愛がもっともよく現れた映画でしょう。登場人物はもう異形の者ばっかり。ペンギンの父親役にピーウィー・ハーマンという本物の異形を使っているあたり大変な凝りよう。
ギリアムなら『未来世紀ブラジル』は別格。『フィッシャーキング』に『モンティ・パイソン&ホーリー・グレイル』もいいですね。黒騎士とか、聖杯を守る凶悪な動物は最高。ニッ!
シンメトリーとグロテスクの人、グリーナウェイは『コックと泥棒、その妻と愛人』や『ベイビー・オブ・マコン』もいいけど、やはり最高傑作は『プロスペローの本』でしょう。書物の力によって自分の周囲に箱庭のように美しい世界を作り上げ、その世界の王として君臨している魔術師プロスペローが、外の世界に復讐を果たし、そして他者との和解を果たすまでの物語である。この映画、数多くの登場人物が出てくるのだけど、途中まではその声がすべてプロスペローの声なのですね。全員が魔術師の操り人形なわけ。しかし、プロスペローが「他者」との和解を果たした瞬間から、それぞれの声で語り始める。結末でプロスペローはついに他者の住む世界へと足を踏み出すのだけど、魔力を失いただの老人となったプロスペローが、本を次々に海に投げ込む姿は痛々しくて、本好きなら涙なしでは観られないはず。そしてプロスペローに使役されていたエアリアルが、ついに自由になって画面そのものの「外」へと飛び去ろうとするラストの美しさときたらもう。活字中毒者に強力にお勧めする映画である。
彼ら三大人工派監督の前に比べればちょっと小粒だけど、ジュネ&キャロとかラース・フォン・トリアーもなかなか。ジュネ&キャロは、『デリカテッセン』のグロテスクでビザールな笑いはとっても気に入ったけれど、『ロスト・チルドレン』や『エイリアン4』は今一つでがっかり。トリアーは『ヨーロッパ』と『キングダム』の凝りまくった映像はいいんだけど、映像の美しさのわりには今一つ琴線に触れるものがないような。まあトリアーには『奇跡の海』という衝撃作があるからいいか。
あとは以前ビデオで観て衝撃を受けたホドロフスキーの『サンタ・サングレ』(二人羽織映画とか言ってはいけない)や、このあいだBSで観たド・ブロカ監督『まぼろしの市街戦』も、同じ人工的な美しさとグロテスクさ、そして哀しさを感じる映画ですね。
似たような雰囲気の映画があったら教えて下さい。ぜひ観たいと思うので。
病院の同僚と一緒に、新宿のベトナム料理店「ミュン」で食事。うまいことはうまいのだが、5000円の飲み放題つきコースを頼んだら、生春巻きやら揚げ春巻きやら似たような巻き物ばっかり出てきたのには閉口。単品で注文すればよかったなあ。
『宇宙生物ゾーン』、『SFバカ本 リモコン変化』(廣済堂文庫)購入。
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