地上 島田清次郎 新潮社(1957年10月26日発行)

 島田清次郎という作家をご存知だろうか。
 たぶん、知らない人の方が多いと思う。大正時代のベストセラー作家なのだが、今ではほどんど忘れられた作家になっているからだ。
 知っているという人は、たぶん森田信吾のマンガ『栄光なき天才たち』(小学館)か杉森久英の書いた伝記小説『天才と狂人の間』(河出文庫)を読んだか、本木雅弘主演でNHKで放送されたドラマ『涙たたえて微笑せよ』を見たのだと思う。今では、この3つの作品くらいしか、島田清次郎について語ったものはないし、彼の作品もすべて絶版で入手困難だ。
 どれも読んだことのない方は、島田清次郎の生涯を紹介したこのページを読んでください。なかなか劇的な人生ではないか。

 私は「栄光なき天才たち」で彼のことを読んでから、ずっと『地上』が読みたいと思っていたのだがどこにも見つからず、最近やっと某所の古本屋で見つけたのだ。といってももちろん大正の初刊本ではなく昭和32年に映画化(川口浩主演)されたときの復刊本。値千円也。
 売れていることを鼻にかけたり、大言壮語をかましたりするあたり、私は「島田清次郎=大正の梅○○○」なんじゃないかと思っていたのだが(笑)、実際読んでみるとなんだか作風は「大正の江川達也」という感じである。

 別のページで、『地上』第一部のあらすじを紹介している。長くてすまん。最後まで紹介しているので、これから読むという人は読まないように。
 さすがベストセラーになるだけあって、ドラマチックで読ませる展開である。今読むと、古めかしくて微笑ましい学園恋愛ものパートと、シリアスで悲惨な遊廓パートのギャップが激しいように見えるが、当時の現実もそんなものだったのかもしれない。
 ただ主人公が「えらくなる」というばっかりで何もしないあたりとか、伏線をたくさん張っておきながら全然回収されないあたりに不満が残る。最初、私はシリーズの第一部なんでこんななのかと思ったのだが、解説によると、第二部はまったく別の主人公の話になってしまうし、第三部は再び第一部の主人公が登場するものの、別に政治家にもなっていないし、実業家天野とも対決しないらしい。ヒロインとも再開するがまたすぐ離れていってしまうそうだ。
 自分の半生を脚色した作品だけに、作者本人が天野にあたる人物も倒さず、和歌子も手に入れていない以上、カタルシスのある続編は書けなかったようなのだが、これでは読者は納得するまい。
 しかし、今読んでも決してつまらない作品ではない。まったく復刊されていないのが不思議なくらいである。
 作者の生涯もからめて、江川達也の絵でマンガ化してみたらおもしろいと思うのだが。ちょうどGOLDEN BOYも中絶してしまったところだしね。

 なお、Infoseekで検索してみたところ、ただひとつ、島田清次郎のファンページが見つかった。工事中のところも多いけれど、作品リストや、記念館探訪記などが読める、たぶんウェブ上唯一の島田清次郎ページとして貴重である。

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