島田清次郎略歴

 島田清次郎は明治32年石川県生まれ。
 わずか20歳で書いたデビュー作『地上』を当時の一流批評家生田長江に送ったところ、認められて華々しい宣伝とともに売り出され、大正7年には大ベストセラーとなる。
 彼は自らを天才と信じ、「精神界の帝王」「人類の征服者」とまで豪語する。もともと理想家肌でカリスマ性のある彼は、若者を中心にカルト的な人気を得て、勢いに乗って『地上』の続編を次々と第4部まで発表する。だが一般の人気とは裏腹に、文壇では傲岸不遜で他の作家を見下す彼の振る舞いを嫌うものが多かった。
 しかし大正12年、ファンレターを送ってきた女性との恋愛事件をきっかけに、彼の人気は急落する。相手の女性は陸軍少将の令嬢であり、彼は、令嬢を誘拐して監禁凌辱したというかどで少将から告訴されたのである。
 結局は相手側にも責任があったということで告訴は取り下げられるのだが、この事件によって理想主義を旗印にしてきた彼のイメージは大幅にダウン。注文もなく、原稿も受け取ってもらえず、彼は「天才」のプライドをずたずたに引き裂かれる。
 大正13年、彼は血と泥にまみれた姿で池袋の路上を人力車で通行中、挙動不審のかどで警官に逮捕される。精神鑑定の結果、早発性痴呆(現在の精神分裂病)の診断を受け精神病院に収容。昭和5年、31歳で死亡。

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