ソンディ・テスト Szondi Test

 歴史学、その中でも特に物証が少ない古代史にはトンデモ学説が多いように、人の心を扱う精神医学も、定量的検証が困難だけにトンデモの入り込む余地が大きいようだ。たとえばライヒのオルゴン・エネルギーとかね(まあ精神分析自体トンデモといえなくもないが)。
 中でも、以前からこれはどうもおかしいんじゃないか、と思っていたのが「ソンディ・テスト」という代物。8枚の顔写真(こういうの)の中から好きな写真2枚と嫌いな写真2枚を選ぶ。残った4枚の中から、また嫌いなもの2枚を選ぶ。それを6組計48枚のカードで繰り返すことによって、性格傾向を判定するという心理テストである(ソンディの原法では24時間以上間をおいて、これを10回繰り返す)。ロールシャッハ・テストとともに、心理テストについて書かれた本には、「投影法」の代表として必ず出てくるテストである(ネットにはなんでもあるもので、ソンディ・テストはこのページで実際にやってみることができる。もちろんコンピュータによる自動診断には無理があるし、ちょっと写真が小さいのが難点だけど)。
 この顔写真、実は8種類の精神疾患の患者の写真なのですね。8種類の精神疾患というのは、緊張型精神分裂病、妄想型精神分裂病、うつ病、躁病、てんかん、ヒステリー、同性愛、サド・マゾヒズムなのだそうなのだが、私にはどれも「変な顔」にしか見えない。ソンディによれば、この写真の好き嫌いでそのファクターへの傾向がわかる、というのだが、本当かなあ。それ以前に、「同性愛」を「精神疾患」などと言ったら、今じゃ即座に抗議がくるだろう。
 だいたい、精神疾患は顔に出るものなのだろうか。顔を見ただけで病気を診断できれば苦労はないのだけれど、私には、どの写真がどの病気なのかさっぱりわからない。それに、患者Aの顔が好きだからといって、その患者Aの疾患の傾向があるということにはならないと思うのだが。また、60年以上も前の外人の写真を使ったテストが、日本人にも有効なのだろうか。このテストが有効だと確かめるためには、そういった項目についてきちんと検証する必要があると思うのだが、あんまりそういう実証的な研究は行われていないようである。
 このテストを考案したのはレオポルド・ソンディ(1893-1986)というハンガリー生まれの精神科医である。ソンディの理論はきわめて膨大で難解なので、全貌を知る人はほとんどいないとか。まあ、てっとりばやく言えば、ソンディは自らの理論を「運命分析」と呼び、ユングの「集合的無意識」に対抗して「家族的無意識」なるものを提唱したのですね。これは、例えばある家庭、家族の中では無意識のうちに同じような選択をしてしまう、ということ。まあ、これは納得がいきますね。たとえば、アル中の父親を持つ娘が父親と同じように暴力的な男と結婚してしまうとか。知らず知らずのうちに父と同じ職業を選んでいたとか。
 また、運命分析には独特の治療法があって、「精神衝撃療法」では、患者を寝椅子に座らせるところまでは普通の精神分析と同じなのだけど、自由連想で患者が反復して述べた言葉を刺激語として連呼、患者にショックを与えて病的祖先と同じような状態に陥らせるのだという。例えば、「サーベル、サーベル、サーベル……」、「殺人、殺人、殺人……」などと患者に強くハンマーで打つように言ってきかせるわけだ。これで、患者がけいれん発作を起こしてしまったとすると、祖先にあった「てんかん」を患者が体験できたことになり、家族的無意識の中にあるてんかん素質を認識できたが、現実の生活ではてんかんにならないですむのだそうだ。これを名づけて「ハンマー打ち連想法」! なんだかすごくイヤな治療法である。
 当然ながらソンディの理論は今ではほとんど忘れされれているし、ソンディ・テストもあまり使われていないのだけど、なぜか一部の矯正施設関係ではいまだに使われているらしいんだよなあ。なんでだろ。
(last update 01/06/13)

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