海近い砂丘を
島田清次郎
私は歩んでいつた――
鉛色の陰鬱の大空
空の下にうねつた砂丘
太陽は見えない
光は灰色だ
たゞじりじりと迫る炎熱
――砂丘、
みえるはたゞ砂丘のうねり
私は恐はくなつて後をふり返つた
あゝ、通つて来た許りの水溜も松林ももう見えない
私は歩みはじめた
海へ!
歩んでも歩んでも
波の音さへひゞかない
四辺はたゞ灰色から灰色にうつる
巨大な砂丘のうねり
(この道に間違ひはないはずだ)
歩むたびにたつ白い砂塵は
炎熱に融けて空にのぼる
私はたえられなくなつて
砂の上にねころがつた
(あゝこんなに遠いものを)
が私の後からさくさくと砂にきしむ足音がした
ふり向くと一人の男が
死んだやうな沈黙を道伴れに私の横を過り
彼方の丘へ見えなくなつた
(かうしてはゐられない!)
私はむつくと立つて又歩んだ――

(おゝ海がみえる!)
深い深い神秘な碧ききらめき
ま白い波の狂乱、
偉大な海はまんまんと力にみなぎる
あゝ海がみえる!
けれども砂丘はずゐ分長い

底本:『石川近代文学全集16 近代詩』
初出:「精神界」大正6年7月号

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