読売新聞大正13年9月2日号
死んだと誤報された島田君
巣鴨病院で駄々をコネる
自称天才文士島田清次郎クンが諏訪湖畔で惨死したと長野電話は報じてゐるが、処が夫は真赤な大ウソ、御本尊の島田君は吉野作造博士や徳田秋声氏の奥さん達を散々悩ました挙句、七月三十一日夜警察から西巣鴨庚申塚の狂病人保養院へ放り込まれ、十八号室八畳の日本間を天下と頗る機嫌よく昨今ではデツプリ太つて男振りがズツト上つたさうだ。医学上の病名は、早発性痴呆の一種破瓜病とか言ふ艶つぽい方で、目が覚めれば『僕は狂人ではない。早く出して下さい、芳江さんの許へ行つて何んとか自活の道が立てたい』と医員看護婦を拝み倒して駄々をコネるかと思へば『何か書くから』と貰つた原稿用紙を枕許へ積んで喜んでゐるが、経過はあまり好くないらしく、全快の見込みはつかぬさうだ。
底本:読売新聞大正13年9月2日号