読売新聞大正13年3月3日号
発狂天才島清クン 舟木芳江嬢に面会を強要す
二日続けて来たが同家で突ぱね 警察へ届けたので天才を厳探中
舟木芳江さんとの一件から醜名を満天下に流し、都に居たたまらず郷里金沢市に隠れてゐた自称天才の島田清次郎クンは最近になつて発狂して自家に再三放火したなどと伝へられてゐたが、去月廿八日午後四時頃、洋服姿に中折帽を面深く人目をはばかるやうに東京に姿を現した。そして麻布材木町六九の舟木家の玄関に大きな目を見据ゑて突立つた儘案内を乞うた。同家の女中が出て来ると『俺は島田だ。芳江さんに是非お会ひしたいから取次いでくれ』とのことに同家では大いに驚き芳江さんを隠して留守だからとことわつた。目を見張つたまゝ暫くは立去らうともしなかつたが残り惜しげに辞したが、廿九日にもまた訪れ家人に追はれて立去つた。その挙動に不審のところが多く発狂してゐるらしいので舟木家では六本木署に届け出でた。同署では秘密裡に島清クンの行衛を捜してゐる。
底本:読売新聞大正13年3月3日号