読売新聞大正13年1月27日号

郷里金沢に隠遁 『手形』の再発に焦り抜く島田清次郎クン
外出もせずひとり苦悶す
舟木芳江さんとの恋愛事件に慰し難い傷手を受けた自称天才島田清次郎氏は〓〓〓都(注1)――東京から脱れ出で金沢市に帰省し今春金沢で廿七歳の春を迎へ廃残の身を郷里に淋しく託してゐる。「吾れ世に勝てり」と豪語してゐたにもかゝはらず哀れ槿花一朝の夢となつて今は金沢市小将町の一角に小さき一軒家を借り内部から堅く錠を下して只一人侘しい悶々の征服出来ない「地上」の憾みと失恋の遣る瀬なさに吐息をついてゐる。而してその上東京の出版社には全部原稿をボイコツトされ僅に旧情から新潮社のみが単行本を継続して呉れるだけの悲境に落ち入つた。極度に呪詛と煩悶に焦燥狂熱した清次郎氏は帰省後高岡町なる実母のもとに同居してゐたが、先ごろ右の小将町の一角に借家を求め母さへも寄せつけず一歩も外出などはせず以前彼が豪勢時代に振り出した「手形」の再発を頻りに焦つてゐる。

(注1)三文字読み取れず。
底本:読売新聞大正13年1月27日号

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