東京日日新聞大正13年8月1日号

あはれ天才島清クンの末路
精神病者と鑑定され昨夜保養院送り
青山墓地の爆弾事件犯人捜査のため巣鴨署では三十日午前一時から全署員を督して管内の総密行を行つた所、午前二時半ごろ巣鴨町二の三五先道路で怪しい男を発見し、刑事が取押さへるとよごれたゆかたになまなましい血痕を発見したので、こいつ大きな獲物とばかり、有無をいはせず引捕へて取調べると、はじめは辻褄の合はぬ事を申し立てゝゐたが、これなん先日吉野博士の宅におしかけ、居候をきめこんでお得意の一問題起こした天才島田清次郎クンと判明したので、同署でももてあまし、引取り方を徳田秋声氏に交渉したが、同氏も受けつけてくれず、今更放還する訳にもいかず閉口してゐる。同署警察医の鑑定では精神病者なることが確実なので、更に警視庁金子技師の鑑定を仰いだ結果、いよいよ精神病者として三十一日午前九時巣鴨町庚申塚四一四保養院(私立の精神病院)に送られた。
手前達に創作がわかるかい
と警察でタンカを切る
金子技師は語る。
島清かい、あれは立派な精神病者だよ。医学的にいへば早発性痴呆症といふやつでその症状は時々興奮して怒り易く都合の悪いことは応答せずいはゆる拒絶症状だ。大分悪い方で二年位前から罹つたものらしく、本人は気狂いぢやない脳が少し悪く記憶力が鈍つたなどといつてゐた。僕が、君は長野県の生れだつたねといふと、何を馬鹿な俺は信州の山猿ぢやない、加賀百萬石だと大威張りだ。巣鴨署でも俺を気違ひ扱ひにするは不都合だとたんかを切つてゐたが大事に抱へた布呂敷を一寸見せろといふと、手前等に創作がわかるかい、と大気焔であつた。
底本:東京日日新聞大正13年8月1日号

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