「北安田たより」より
暁烏敏

 島田清次郎君。大作『地上』は第一篇新潮社から出版せられました。きび/\したよい筆で私共と通うた考を表現した長篇の小説であります。同君はまだ二十一歳の青年です。先日講習会に来て話しました。その折彼は、「今夜誰の話をきかなくても私の話さへきいたらよいのです」と言ひ、「私は話せと言はれてもめつたに話したことはありませんが、今夜は話したくなつて話します。諸君は今夜私の話を聞くのは幸福です」とやりましたので、皆があまりのその自信のある言葉にドツト笑ひましたが、私はその痛ましい真実の叫びに同感をしました。『地上』もこの調子で書かれてあるのです。代価は一円二十銭。東京の新潮社の出版です。
底本:「暁烏敏全集第三部二巻」香草舎
親本:「氾濫」大正8年9月

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