SFマガジン2007年2月号
三崎亜記失われた町(一六〇〇円/集英社)
森見登美彦夜は短し歩けよ乙女(一五〇〇円/角川書店)
仁木英之僕僕先生(一四〇〇円/新潮社)
堀川アサコ闇鏡(一五〇〇円/新潮社)
平田芳久LINK きずな(一三〇〇円/幸福の科学出版)

 断片的なモチーフが絡み合って、読んでいくうちに徐々に世界像が見えてくるのはSFの醍醐味のひとつだけれども、今月はそうした楽しみを満喫できる連作長篇が二作。
失われた町 まず、三崎亜記失われた町(一六〇〇円/集英社)は、『となり町戦争』に続く長篇第二作。三〇年ごとに「町」がひとつ消えてしまう世界で、消滅に抗おうとする人々の思いを描いた作品である。日常と非日常とのあわいを描いた寓話的な前作より、ぐっとSF寄りの小説になっている。細かい設定の積み重ねで世界を構築しようとする意思や、世界のありようをそのまま受け入れるのではなく対決しようとする姿勢はまさにSFのそれなのだけど、それだけに設定の矛盾も前作以上に気になってしまうのが難点。そういうものとして受け入れればいいのかもしれないが、それを受け入れられないのがSFファンなわけで……。七つのエピソードで重層的に語られたさまざまな人々の思いが、三〇年という時間を経てプロローグへと戻っていく構成は秀逸なだけに惜しい。

夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦夜は短し歩けよ乙女(一五〇〇円/角川書店)もまた、細かなモチーフの積み重ねで描かれた連作長篇。端正な怪談集だった前作『きつねのはなし』とはうってかわって、こんどはいつもの『太陽の塔』系列のコミカルな京都マジックリアリズム小説。「ナカメ作戦」(なるべく彼女の目にとまる作戦)を決行する純情かつひねくれた男子大学生と、ずんずんと歩いていくキュートな不思議少女の恋物語である。文体はもちろんお馴染みの韜晦を重ねた饒舌体。ただし今回はヒロイン側の一人称パートもあるのがこれまでとは違うところで、これがまた非常にかわいいのだけれども、あまりに萌えキャラすぎるので女性読者がいったいどう思うのかがちょっと心配。古本の神様やパンツ総番長やらといった、いったいどこから思いつくのか呆れてしまうような奇天烈な脇キャラは生き生きとしているし、暴走するストーリーが魔法のように収まるべきところに収まっていく手さばきもいつもながら見事だ。

僕僕先生 仁木英之僕僕先生(一四〇〇円/新潮社)は、今年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。素直だけれどもまったくやる気のない道楽息子・王弁が、美少女の姿をした仙人・僕僕に弟子入りして地上と仙界を駆けめぐる物語。「僕僕先生」という奇妙な名前は、別に美少女仙人の一人称が「ボク」だからではなく、唐代の伝奇小説集「広異記」に収められた「朴朴先生」という千字足らずの説話からきているもののよう。仙人が「ボク少女」だというのがなんとも今どきのライトノベル風だし、文章も軽めのだけれども、それでいてきっちりとした中国史や神話の知識を踏まえているあたりのギャップがなかなかユニーク。この不思議な読み心地は作者の才能だろう。

闇鏡 続いて優秀賞受賞作は堀川アサコ闇鏡(一五〇〇円/新潮社)。南北朝時代の京都を舞台に、検非違使が遊女殺しの謎を追う時代小説である。あまり取り上げられることのない室町初期という時代が描かれているのは珍しいが、完全にミステリの文法で書かれた小説であり、ファンタジーとしての面白さはあまり感じられない(とはいえミステリとしてもアンフェアな点があるが)。また、登場人物の性格づけが現代的すぎることや、「容疑」「殺人事件」などの現代語が無造作に使われているのに違和感を覚えた。

LINK きずな 最後にもうひとつ新人賞関係の作品を。平田芳久LINK きずな(一三〇〇円/幸福の科学出版)は、ユートピア文学賞二〇〇六受賞作。聞き慣れない名前の賞だが、どのような賞なのかは出版社名から推して知るべし。ごく普通の大学生・秀一がたまたま発見した「ロボットホームステイ募集」というホームページ。軽い気持ちで申し込んでみたところ、さっそく「マナブ」という人間型ロボットが派遣されてくる。「マナブ」は家庭環境の中で人間らしさを学習するのだというのだが……。SF映画やドラマ(特にスタトレとか)への言及もあって意外に楽しめるのだけれども、肝心の「人間らしさ」への踏み込みが浅く、後半になると宗教の教義に引っ張られてしまうのが残念。もっとも、作品の性格からすればこうした期待はお門違いなのだろうけれど。


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