SFマガジン2007年1月号
飛浩隆ラギッド・ガール(一六〇〇円/早川書房)
方波見大志削除ボーイズ0326(一四〇〇円/ポプラ社)
梶尾真治つばき、時跳び(一五〇〇円/平凡社)
椎名誠銀天公社の偽月(一三〇〇円/新潮社)
松宮宏こいわらい(一五〇〇円/マガジンハウス)
森見登美彦きつねのはなし(一四〇〇円/新潮社)

ラギッド・ガール 飛浩隆三冊目の著書(なんとまだわずか三冊目なのだ!)であるラギッド・ガール(一六〇〇円/早川書房)は、『グラン・ヴァカンス』に続く、〈廃園の天使〉シリーズ待望の第二弾となる短篇集。仮想リゾート〈数値海岸〉の誕生とその仕組み、〈大途絶〉の真相など、前作で語られなかった謎が惜しげもなく明かされ、『グラン・ヴァカンス』ではAIの視点からのみ描かれた物語が、まったく違った相貌をあらわにする。特に「直観像記憶を持つ、恐ろしく醜い女」阿形渓(あがたけい)の登場する表題作と「クローゼット」の二部作は衝撃的。阿形渓は、鮮烈なイメージと残酷さ、そして論理性を併せ持つ、まさに飛SFの特質を体現するかのようなキャラクターといえよう。既発表の作品も改稿されているので、本誌で読んだ方も再読をお薦めしたい。

削除ボーイズ0326 方波見大志削除ボーイズ0326(一四〇〇円/ポプラ社)は、第一回ポプラ社小説大賞受賞作。小学生の直都が手に入れた奇妙な装置。それを使えば使用した人の人生から任意の五分間を削除することができるのだという。直都たちは装置を使って不慮の怪我や失敗を次々と消していくのだが、その行為は思わぬ結果をもたらしていく。時間SF的にはツッコミどころもないではないが、ミステリ的な趣向の凝らされたストーリーは巧みで語り口も軽快。しかし、引きこもりやいじめ、少年犯罪など、散りばめられたテーマはかなり重い。特に印象に残るのが、作中で描写される小学生たちの社会の息苦しさ(気を遣うこと、空気を読むことが最重要なのである)。現代の子供たちのおかれた状況を反映した秀作である。

つばき、時跳び 梶尾真治つばき、時跳び(一五〇〇円/平凡社)は、幽霊が出ると言われる日本家屋「百椿庵」に住んで小説を書いている主人公のもとに、つばきという江戸時代の女性がタイムスリップしてきて……という、SFラブストーリーの王道というべき物語。この種の作品は小説でもマンガでも枚挙にいとまがないが、さすが時間SFの名手だけあって手さばきは確か。実在した熊本の人形師松本喜三郎をうまく物語に絡ませているのも見事で、いつもながら、心地よい時間を過ごさせてくれる佳品だ。

銀天公社の偽月 椎名誠銀天公社の偽月(一三〇〇円/新潮社)は、脂雨が降り巨大な人工月が昇る独特の異世界を舞台に、微妙に連関したエピソードの積み重ねで描かれる連作短篇集。奇態な固有名詞や登場人物の一部は『武装島田倉庫』や近作『砲艦銀鼠号』と共通しているが、続篇というよりは姉妹篇と言った方がいいだろう。ピカレスク小説の要素が濃かった『砲艦銀鼠号』よりは、『武装島田倉庫』に近い濃密な異世界が堪能できる椎名SFファン待望の一冊だ。

こいわらい 松宮宏こいわらい(一五〇〇円/マガジンハウス)は、現代京都を舞台に、一本の棒を操る女子大生剣士の活躍を描いたエンタテインメント。二〇〇〇年の第一二回ファンタジーノベル大賞最終候補作を改稿した作品である。プラダのリュックに入れた一本の棒。先祖から伝わる謎の秘技「こいわらい」。そして主人公は交通事故で小脳に障害を負い、運動機能を大脳で補償している……と、途中までは無類に面白いのだが、後半になると物語のスケールが縮んでしまい、最後に戦うことになる敵もいかにも小物なのが残念。伝奇小説らしくもっと思い切り風呂敷を広げてほしかった。

きつねのはなし 森見登美彦きつねのはなし(一四〇〇円/新潮社)は、日本ファンタジーノベル大賞を受賞した怪作『太陽の塔』『四畳半神話大系』の著者による、ゆるやかなつながりを持った連作京都綺談集。男子大学生の一人称であるところは変わりないが、前二作の狂騒的な語り口は影をひそめ、意外なほど端正でノスタルジックな雰囲気に満ちた作品に仕上がっている。

 その他、『ボーナス・トラック』でファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した越谷オサムが『階段途中のビッグ・ノイズ』を、SFミステリ『風の歌、星の口笛』で横溝正史ミステリ大賞を受賞した村崎友が『たゆたいサニーデイズ』を刊行しているが、いずれもSF要素のない青春小説なのがジャンル読者としては残念だ。


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