SFマガジン2006年10月号
小松左京+谷甲州日本沈没 第二部(一八〇〇円/小学館)
小松左京SF魂(六八〇円/新潮新書)
西村一・藤崎慎吾・松浦晋也日本列島は沈没するか?(一八〇〇円/早川書房)
眉村卓いいかげんワールド(一九〇〇円/出版芸術社)

 『日本沈没』のリメイク版映画が公開されたこともあって(出来については何も言うまい)、このところ小松左京・日本沈没関連本の出版が花盛り。

日本沈没 第二部 まず、大本命といえるのが、小松左京+谷甲州日本沈没 第二部(一八〇〇円/小学館)。タイトル通り、小松左京の大ベストセラー『日本沈没()』の三三年ぶりの第二部である。「第一部 完」の文字で終わった前作の正統な続編で、国土を失った日本人たちの二五年後を描いている。もちろん阿部玲子、中田、邦枝、渡花枝ら前作の登場人物たちもその姿を見せてくれる。  難民キャンプや雪原でのサバイバル、軍事的な描写などは谷甲州の面目躍如。国土を失った日本政府が安定しすぎていることや、周辺国家の動向が中国を除きあまり書き込まれていないなど、政治的な部分では疑問を感じるところもあるし、第二の災厄が地球を襲う後半はやや書き急いだ感もあるのだが、ナショナリズムかコスモポリタニズムかという、国土を失った日本人の進むべき道を問う骨太のテーマはまさに小松左京節。『復活の日』や『果しなき流れの果に』へのオマージュもうれしい。三三年間待たされた甲斐のある大作だ。

SF魂 「私が日本を沈没させました。」という帯の文句が眩しい小松左京SF魂(六八〇円/新潮新書)は小松左京語り下ろしの半生記。新書サイズなので記述があっさりしていて物足りないのは仕方ないが、SFという枠を超えてイベントや映画などに積極的に関わっていったマルチ作家小松左京のさまざまな顔が見てとれる本である。作家になって以降の記述が多く、作家になるまでの青春時代についてはあまり語られていないので、青年期のエピソードについては『やぶれかぶれ青春記』など他の回想録も読んだ方がいいだろう。小松左京以外の第一世代SF作家もこうした回想録を書いてくれれば、日本SF草創期の貴重な記録になると思うのだが……。

日本列島は沈没するか? 続いて、西村一・藤崎慎吾・松浦晋也日本列島は沈没するか?(一八〇〇円/早川書房)は、地球科学の立場から『日本沈没』を分析したノンフィクション。『日本沈没』現代版ともいえる『ハイドゥナン()』を著した藤崎慎吾、科学ノンフィクション・ライターの松浦晋也、海洋研究開発機構の西村一の三人がそれぞれの立場から、『日本沈没』に迫っている。リメイク版映画で沈没のメカニズムとされているメガリス崩落についても詳しく書かれているほか、『日本沈没 第二部』で重要な役割を果たす地球シミュレータについても解説されているので、副読本として是非読んでおきたい。

いいかげんワールド 今月は期せずして、大ベテラン作家の長篇が揃い踏みとなった。眉村卓いいかげんワールド(一九〇〇円/出版芸術社)は、著者久々の書き下ろし長篇。眉村卓といえば、司政官ものやショートショート、ジュヴナイル作品が有名だが、その傍らで書き続けているのが自分自身の心象を反映した私小説的なSFで、この作品もその系統に属する作品だ。
 主人公は妻を亡くし、大学で客員教授を勤める老作家、という明らかに作者本人をモデルにした人物。あるとき教え子の若葉快児という若者から手紙が届く。自分で作り上げた空想世界カイジワールドに行く手助けとして九十八万円を出してほしい、というのである。主人公が百万円を快児の口座に振り込むと、快児が訪ねてきて奇妙な儀式を行う。快児は首尾良く異世界に到達するが、妻を失い現世への執着がなくなっていた主人公もとばっちりを食ってカイジワールドへと放り込まれてしまうのである。
 なんとも人を食ったような設定だが、若者中心の社会の中で生きることを強いられている老人の心象風景ととらえることも可能だろう。並の老人であれば自己中心的な若者を皮肉ってみせるところだが、主人公は快児の自分勝手さに憤ることも世界の不条理さを嘆くこともなく、すべてを「それでいいではないか」と受け入れ、自由闊達、融通無碍に生きていく。何かふっきれたような明るさと強さをたたえた作品であり、これまでSFではあまり体験したことのないような不思議な読後感を残す私SFである。


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