SFマガジン2005年6月号
●片理誠
『終末の海 Mysterious Ark』(一九〇〇円/徳間書店)
●三島浩司
『MURAMURA 満月の人獣交渉史』(一九〇〇円/徳間書店)
●朱川湊人
『さよならの空』(一五〇〇円/角川書店)
●笹公人
『念力姫』(一六〇〇円/KKベストセラーズ)
今月は徳間書店から、真っ赤な表紙に太い帯の装丁もすっかりお馴染みになってきた日本SF新人賞関連作品が二冊。
まず、片理誠
『終末の海 Mysterious Ark』(一九〇〇円/徳間書店)は、第五回日本SF新人賞佳作入選作『終末の海 韜晦の箱舟』を全面改稿した作品。全面核戦争後に漁船で日本を脱出した人々の船が嵐で座礁。彼らの前に巨大な豪華客船が現れる。しかし、救世主かと思われたその客船の調査に向かった大人たちは誰一人として帰ってこない。意を決して客船に乗り込んだ子供たちは、船が完全に無人であることを知る。航行コンピュータやエンジンも動いていないが、なぜかあるデッキに限っては灯りが点され給湯設備などは動いている。大人たちはいったいどこへいったのか。そしてこの船はいったい何なのか。やがて、子供たちもまた、ひとり、またひとりと姿を消していく……。
今どき珍しいほどに単純明快なストーリーにはいささか物足りなさも感じるけれど、そこが逆にこの作品の魅力でもある。幽霊船をテーマにした由緒正しい海洋冒険SFホラーにして、少年の成長と喪失を描いた、昔懐かしいジュヴナイルSFの読み心地が楽しめる作品である。
続いて、『
ルナ Orphan's Trouble』で第四回日本SF新人賞を受賞した三島浩司の受賞第一作
『MURAMURA 満月の人獣交渉史』(一九〇〇円/徳間書店)は、同じく若者を主人公にしながらも、ジュヴナイルというよりは、よりライトノベルに近い読み味の、コミカルな伝奇ファンタジイ。評者は、タイトルからちょっとエッチな話を想像していたのだが、残念ながら(?)そういう話ではない。新興住宅地で、学校が忽然と消えてしまうという事件が相次ぐ。どうやら原因はキトネという化け狐らしいと聞かされた女子高生伊佐チエは、地元の狩猟集団の長だった曾祖父の作った夢の中の世界〈夢羅〉へと赴く。先祖伝来の滅魔の銃を携え、鷹と狼を従えて、夢と現実を往還しながらチエはキトネを追う。
既存の神話伝説に寄りかからないオリジナリティのある設定がユニークだが、文章が感覚的でわかりにくい部分や、説明不足に過ぎる部分が多く、設定や展開に理解しにくいところがあることは否めない。
朱川湊人
『さよならの空』(一五〇〇円/角川書店)は、ホラー畑で活躍し直木賞候補にもなった作者によるノスタルジックなSFファンタジイ。空中に散布することによりオゾンホールを食い止める働きを持つ化学物質ウェアジゾンが開発されるが、散布により夕焼けが消えてしまう、という思わぬ副作用があることが明らかになり、世界中は大混乱に。開発者の八〇代の女性科学者テレサは、ウェアジゾン散布のために日本を訪れていたが、ある目的のために警備をかいくぐってホテルを抜け出す。街に出たテレサは、夕焼けを嫌うトモルという小学生の少年に出会う。一方、イエスタデイと名乗るテロリストが彼女を狙っていた。
中盤までは押さえた筆致で物語は淡々と進んでいくが、細かい伏線をいくつも張り巡らせた上で、人智を超えた存在が顕現するクライマックスは、さすがホラーを得意とする作者の面目躍如たるところ。SF的なロジックをあえて外したところで感動を与えてくれる結末も実に巧みだ。ただ、この結末だとウェアジゾンを撒いた意味がなかったんじゃないかという気もするのだが。
さて最後に、本誌でもおなじみの異色歌人、笹公人のバラエティ作品集
『念力姫』(一六〇〇円/KKベストセラーズ)を紹介しておこう。表紙写真・沢渡朔、帯文・久世光彦+和田誠という格調高い装丁には驚くけれど、中身は短歌ありポエムあり合格ストーリーありのごった煮の楽しさあふれる作品集。全編に漂うのは、七〇年代、八〇年代ポップカルチャーへのノスタルジーで、ルービックキューブやジュディ・オング、Dr.キャッツポーなどある年代の人にはぐっとくるキーワードが散りばめられている。前作『
念力家族』で濃厚だったジュヴナイルSFっぽさ、あるいは角川映画テイストもまた健在。
ねらわれた少女がふいに倒れ込み合唱終わる春のホールに
(C)風野春樹