SFマガジン2004年11月号
●仁木稔
『グアルディア』(一九〇〇円/早川書房)
●小林泰三
『ネフィリム 超吸血幻想譚』(一六〇〇円/角川書店)
●山本弘
『審判の日』(一六〇〇円/角川書店)
●荻原浩
『僕たちの戦争』(一九〇〇円/双葉社)
数々の秀作を送り出してきたJコレクションも、ひとまず今月でひとくぎり。第二期のトリを飾るのは、これがデビュー作となる仁木稔の
『グアルディア』(一九〇〇円/早川書房)。舞台は、ウィルスの蔓延により荒廃し、
変異体と化した人間たちの住む二七世紀の中南米。巨大コンピュータ〈サンティアゴ〉の生体端末であり、何度も生と死を繰り返すアンヘル、不老長生のメトセラでありアンヘルに付き従うホアキン。そして〈グアルディア〉として超人的な戦闘能力を持つ旅人JDとその娘カルラといった
変異体たちが織りなす退廃的な愛憎劇を描いた長大な物語である。ひとつの世界の姿が徐々に立ち上がってくる前半は実に見事だし、クライマックスの戦闘シーンも圧巻。ただし、些末な場面と物語上重要なシーンがほとんど同じタッチで緩急なく描かれるため本筋がつかみづらいし、国家的規模で展開する物語でありながら、限られた人々のエキセントリックな愛憎関係ばかりに主軸が置かれ、政治や外交の描写がほとんどないのもわかりにくい。全体に詰め込みすぎであり、もう少し枝葉を刈り込んだ方が、すっきりした作品になっただろう。ただ、指摘した欠点はすべて技術的に解決可能なことばかり。そして技術は経験を重ねていけば自然に身についてくる。作者の作り上げた世界や創造した人物たちは充分に魅力的だし、何よりも、これが書きたいのだ、という熱意が読者に伝わってくる。これで技術が追いつけば、いずれとんでもない傑作を書いてくれるに違いない。
続いて、角川書店からSFホラーが二冊。小林泰三
『ネフィリム 超吸血幻想譚』(一六〇〇円/角川書店)は、帯によれば「ハード・SF・アクション・ホラー」(なんだそりゃ)。太古から人類を捕食してきた吸血鬼。人類は彼らに対抗するため「コンソーシアム」という組織を結成し強力な兵器を開発していた。そんなとき吸血鬼を捕食する
追跡者・Jが復活。人間、吸血鬼、追跡者の三つ巴の戦いが始まる……。普通に読めば単なるバイオレンスアクションホラーとして読めてしまう作品だが、吸血鬼の能力を論理的に分析する描写や、吸血鬼の圧倒的な力に対して知恵で対決する人間の戦い方など、SF的にも充分楽しめる。「コンソーシアム」のメンバーの名前や、最後まで明かされない謎の少女ミカの正体など(ミカとルーシー、そしてJというネーミングがヒントか)、いろいろと隠し要素も多く、一読よりむしろ再読した方が楽しめる作品だ。
山本弘
『審判の日』(一六〇〇円/角川書店)は、書き下ろし短篇四篇に、SFマガジンに掲載された一篇を加えた短篇集。もともとホラー文庫で出る予定があったそうで、「時分割の地獄」以外はホラー色の強い、それも古典的なSFホラーの香りのする作品が収められている。「時分割の地獄」は、己の存在を認めない司会者に対して殺意を抱いているヴァーチャル・アイドルを主人公に、AIにとっての「心」の問題を丹念に考察した仮想現実SFの秀作。表題作「審判の日」は、ほとんどの人間が消失してしまった世界に残された女子高生と少年が、ほんの少し精神的に成長する物語。「屋上にいるもの」では、雨の夜に屋上から聞こえる奇妙な音に疑問を抱いたマンション住人が真相を探るうちに恐怖に遭遇する。どの作品も、テーマ自体は古くからあるものながら一ひねりが加えられており、ヴィンテージSFへのオマージュとして、充分読むに値する短篇集である。ただし、この短篇集をホラーとして読んだ場合には、あまりよい評価はできない。作者は登場人物の内面に深入りすることなく、徹底して突き放した描き方をする。そこが現代ホラーとしては物足りないのである。
荻原浩
『僕たちの戦争』(一九〇〇円/双葉社)は、二〇〇一年のフリーターと、一九四四年の予科練飛行練習生が入れ替わってしまうタイムスリップ小説。だいたい設定から想像がつくとおりの物語ではあるのだけれども、ありがちな社会批判や政治性はほとんどなく、どちらの側に対してもニュートラルな視線が貫かれているのが今風である。また、この手の小説ではだいたい終わり方も予想がついてしまうものだが、そこを逆手にとった結末には「なるほどそう来たか」と感心。
(C)風野春樹