SFマガジン2004年7月号
神林長平膚(はだえ)の下(二八〇〇円/早川書房)
森奈津子からくりアンモラル(一六〇〇円/早川書房)
小路幸也高く遠く空へ歌ううた(一七〇〇円/講談社)

膚(はだえ)の下 本年度の話題作のひとつである神林長平の大作膚(はだえ)の下(二八〇〇円/早川書房)がついに刊行。デビュー長篇『あなたの魂に安らぎあれ』が刊行されたのが一九八三年、第二部の『帝王の殻』が一九九〇年だから、なんと二二年ぶりの三部作完結である。
 荒廃した地球で、国連は、すべての人間を地球から離脱させ、二五〇年の間火星で凍眠させる計画を進めていた。人類に代わり地球を復興するのは機械人で、そしてその機械人を監視するために造られたのがアートルーパーと呼ばれるアンドロイドだった。国連アドバンスガードに所属するアートルーパーの慧慈軍曹は、訓練中に地球離脱を拒む一派と遭遇し、所属部隊は慧慈を残して全滅、慧慈も重傷を負う。人間によってその似姿として造られ、機械人ほどの特異性を持たないアートルーパーという存在に疑問を感じるようになった慧慈は、機械人アミシャダイ、さまざまな人間、そして同じアートルーパーの仲間たちなど、他者との出会いによって魂の成長を重ね、やがて独自の地球再生計画を完成させる……。
 『戦闘妖精・雪風(改)』をはじめ多くの作品で人間と機械の関係(それは人間と言語、作者と作品、自己と他者の関係ともパラレルである)を思索しつづけてきた神林文学のひとつの到達点となる大作。また、互いに理解し合えない異質な存在同士の対話の可能性という、きわめて現代的なテーマを扱った物語ともいえる。アミシャダイ、エンズビル、梶野少佐など、前二作を読んだ読者には懐かしい固有名詞も登場、『あなたの魂に安らぎあれ』の忘れがたいラストシーンに直接つながる結末は感動的。まさに三部作の掉尾を飾るにふさわしい傑作である。「ひとはなぜ人形を作るのか」というテーマが、押井守監督の『イノセンス』と通じ合いながらも、その扱い方が大きく異なっているところも興味深いところ(そういえば、犬もまた両作品で重要な役割を果たしている)。

からくりアンモラル 〈Jコレクション〉の新刊は、森奈津子からくりアンモラル(一六〇〇円/早川書房)。森奈津子といえば、『西城秀樹のおかげです』や『SFバカ本』の収録作など、SFジャンルでは、エロ&お笑いのイメージが強かったが、この短篇集にはわりとシリアスな作品ばかりが収録されている(エロは相変わらず全開ですが)。早熟な少女とロボットのセクシャルな関係を描いた「からくりアンモラル」と、究極の自己愛を描いたタイムトラベル小説「あたしを愛したあたしたち」など、既成の道徳観念を軽々と飛び越えてみせる作品には、インモラル(不道徳)ではなく、アンモラル(超道徳)という言葉こそがふさわしい。現実の制度や倫理の枠組みを問い直してみせる森奈津子の作品は、まぎれもなく正統的な本格SFだということが確認できる短篇集である。しかし、SF専門誌に掲載された作品より、中間小説誌に載った作品の方が、SF度もアンモラル度も過激なのがおもしろい。

高く遠く空へ歌ううた 小路幸也高く遠く空へ歌ううた(一七〇〇円/講談社)は、第二九回メフィスト賞を受賞した『空を見上げる古い歌を口ずさむ』の続編だが、独立した作品としても充分読める作品。広くて高い空に囲まれた丘の上にある町。その町で暮らす少年ギーガンは、幼い頃からなぜか死体ばかり見つけてしまう。池で十人目の死体を発見したことをきっかけに、ギーガンとその仲間たちは、不思議な事件に巻き込まれていく。
 ふんわりと包み込むような温かみのある町や、住人たちの生き生きとした描写がうまい。前作では語りの形式が今ひとつ物語と合っていなかったが、今作では少年の一人称という形式が物語とぴったりマッチしている。物語の構造としては前作と同じで、ノスタルジーあふれる少年の物語が、最後になって伝奇ホラーめいた結末に至るのだけれど、この結末はやはり前作同様、いささかミスマッチで唐突に感じられてしまう。できれば、途中までの雰囲気のまま終わってほしかった。おそらく、「解す者」「違い者」といった伝奇風の設定は作者にとってこだわりのある部分なのだろうけれど、今のところまだ掘り下げが充分でないように思える。


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