SFマガジン2003年8月号
●平谷美樹
『約束の地』(二一〇〇円/角川春樹事務所)
●デュアル文庫編集部編
『手塚治虫COVER エロス篇・タナトス篇』(各七四三円/徳間デュアル文庫)
●牧野修
『呪禁局特別捜査官 ルーキー』(八三八円/祥伝社ノン・ノベル)
●高任和夫
『燃える氷』(一八〇〇円/祥伝社)
平谷美樹の作品を読むと、かつて角川文庫で読んだ七〇年代の日本SFを思い出す。海外SFに比べるとどこか泥臭いのだけれど、大きな物語を真っ向から描くパワーに満ちていた作品群。平谷作品には、日本SFの青春期ともいえる、あの時代の作品が持っていた高揚感があるのだ。
新作長篇
『約束の地』(二一〇〇円/角川春樹事務所)もまた、直球一直線で超能力テーマ(「○○テーマ」というのも懐かしい言葉だ)に挑んだ本格SFである。
かつて「スラン」というハンドルネームで掲示板に書き込んでいた超能力者、新城邦明。彼はライターの高木に、その掲示板に参加していた超能力者たちを探してほしいと依頼する。新城が探し求めるのは、超能力者が通常の人間に迫害されることなく安住できる「約束の地」。一方、超能力者の捕獲・兵器化を画策する陸上自衛隊の櫻木もまた、執拗に彼らを追っていた……。
迫害を受ける超能力者、というテーマはあまりにも古典的だけれど、マンガやアニメなどで超能力がありふれたガジェットのひとつになっている昨今だからこそ、この作品での超能力の扱いの重さはかえって新鮮である。
ド派手な超能力バトル場面の大迫力には圧倒されるし、作者にしては珍しく残酷な場面がこれでもかというほど描かれているのも見所(かえってちょっと力が入りすぎているような気もするが)。まさに七〇年代日本SFの再来を思わせる力作である。
デュアル文庫編集部編
『手塚治虫COVER エロス篇・タナトス篇』(各七四三円/徳間デュアル文庫)は、十三人の作家(+マンガ家)が有名な手塚治虫作品にオマージュを捧げたアンソロジー。手塚治虫の幻の作品「火の鳥COM版望郷編」も併録。二〇〇一年十二月に刊行された「SF Japan Vol.03手塚治虫スペシャル」の文庫化である。
いずれも手塚作品に真っ向から挑んだ力作揃いだが、作家によって各様の、オリジナルからの距離の取り方がおもしろい。
梶尾真治「鉄腕アトム」のように、まさに手塚治虫ワールドをそのまま再現した作品もあれば、森奈津子「リボンの騎士」のように、手塚治虫が決して描かなかった世界を描くことで手塚作品を逆照射してみせる作品もある。さらには、牧野修「ビッグX」のようにオリジナルを完全に自分の世界に引きつけて描いている作品もある。
単なるオマージュではない、手塚治虫作品と現代の作家の生きた対話がここにある。
牧野修
『呪禁局特別捜査官 ルーキー』(八三八円/祥伝社ノン・ノベル)は、爽やかオカルト青春ホラー『
呪禁官』の続編。
科学とオカルトの立場が逆転して、科学がカルト宗教と化しているという世界設定はあいかわらず魅力的だし、戦隊もののパロディや、語尾に「にゃ」とか「にょ」をつけてしゃべるキャラ(このキャラの扱い方に、作者の底意地の悪さが透けて見えます)が出てきたりと、実にサービス精神旺盛。そのあたりのマニア受けする要素はしっかり抑えつつも、エンタテインメントとしてもしっかりした面白さなのはさすが。
でも、主人公の正体にまつわる前作の伏線はいったいどうなったんでしょうか……。
最後に、高任和夫
『燃える氷』(一八〇〇円/祥伝社)は、最近話題の、海底に眠る新エネルギー源メタンハイドレート(小川一水『
群青神殿』も同じ題材を扱ってました)を大きく取り扱ったディザスターノベル。『
日本沈没 (上)・
(下)』に挑んだ作品だそうだ。
確かにメタンハイドレートに関する知識はぎっしりつまっているのだけれど、残念ながら小説としては今ひとつ。舞台は二〇一〇年だというのにインターネットがほとんど出てこない、男女関係の描写になるといきなりオヤジくさくなる、災厄が起きるまでがあまりにも長い(石黒耀『
死都日本』と足して二で割ればちょうどいい感じ)、そして何よりも、訪れる災厄はメタンハイドレートと全然関係がない、といったあたりが欠点か。
しかし、『死都日本』にしても本書にしても、災厄が起きてもきわめて粛々と避難が行われるのは、作者の願望が混じっているからなんでしょうか。
(C)風野春樹