SFマガジン2002年11月号
藤崎慎吾ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年(八四八円/光文社カッパノベルス)
佐藤大輔黙示の島(一六〇〇円/角川書店)
山崎貴リターナー(一二〇〇円/角川書店)
石黒耀死都日本(二三〇〇円/講談社)
山田正紀渋谷一夜物語(シブヤンナイト)(一八〇〇円/集英社)

ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年 今月はまず、藤崎慎吾ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年(八四八円/光文社カッパノベルス)から。温暖化により亜熱帯と化した近未来の日本、コンビニでの遺伝子改良や整形手術が日常化し、さらには警察業務の一部まで肩代わりしている。コンビニに雇われた警備員兼警官、通称〈コンビニCOP〉の滝田治は、コンビニ強盗を企てたストリートチルドレンの一人から奇妙な話を聞く。少年がコンビニ整形で顔を変えて家に帰ってみると、家には元の自分の顔をした偽者がいて、母親も自分のことがわからず、家から追い出されてしまったというのだ。事件を追う滝田は、次第に巨大な陰謀に巻き込まれていく。
 藤崎慎吾といえば、なんといっても目の眩むようなアイディアが詰め込まれた『クリスタルサイレンス(上)(下)』の印象が強いが、この作品はデビュー作だけにストーリー運びという点では荒削りなところも見受けられた。第二長編『蛍女』では、リーダビリティは格段に上がったものの、いささか手垢のつきすぎた題材に不満が残った。しかし、弟三長篇の本作では、前二作の欠点は見事に解消され、コアなSFとしての魅力とエンタテインメント性をバランスよく両立させることに成功している。次回作が楽しみなシリーズの開幕である。

黙示の島 続いて、佐藤大輔黙示の島(一六〇〇円/角川書店)もまた、閉塞した現代日本の状況を反映した物語。太平洋に浮かぶ離島、鼎島。平和だったこの島で、ある日突然人々が本能のままに交わり、殺し合いを始める。最後に明かされる真相にはやや首を傾げざるをえないし、SFファンとしてはむしろこの結末のあとを描いてほしいところなのだけれど、ロメロの映画ばりのアクション・エンタテインメントとして楽しめる作品である。

リターナー 山崎貴リターナー(一二〇〇円/角川書店)は、同名映画の監督自身によるノヴェライズ。西暦二〇八四年、地球はダグラと呼ばれる異星人に占領され、人類はチベット、アルプスなどの高山でかろうじて生き延びていた。滅亡に瀕した人類の最後の希望、それは極秘裏に建造された戦略時間兵器を使って兵士を過去へ送り込み、二〇〇二年に地球に出現したダグラの最初の一匹を倒すこと。物語は、ダグラを倒すために未来から来た少女ミリと、裏社会の住人であるミヤモトの交流を軸に進んでいく。
 タイム・パラドックスの取り扱いには疑問が残るし、単体の小説として評価するのはいささかつらいものがあるのだけれど、映画では描かれなかったバックグラウンドが書かれているので、映画を観た人ならば楽しめるだろう。

死都日本 石黒耀死都日本(二三〇〇円/講談社)は、第二六回メフィスト賞受賞作。霧島火山の数万年ぶりの破局的噴火により、九州南部は瞬く間に壊滅、火山灰は近畿や関東にも降り注ぎ、日本は有史以来の危機に見舞われる……という『日本沈没 (上) (下)』並みにスケールの大きいクライシス・ノベルである。
 この手のパニックものだと、まずじっくりと破滅の予兆と登場人物の群像を描き、読者がじれてきたところで満を持して巨大災害を起こす、というのが常套なのだけれど、この作品は一味違う。まず退屈な前半部は一切なし。人物描写も、さらにはストーリーすらも最小限に抑え、人類がいまだ経験したことのない凄まじい噴火の様子が、過剰なまでにひたすら描かれる。この小説の主人公は人間ではなく、あくまで火山なのだ。
 歪んだ、といえばこれほど歪んだ小説はないのだけれど、まるで火山に取り憑かれたかのような、一種異様な迫力を持った作品である。

渋谷一夜物語(シブヤンナイト) 最後に、山田正紀渋谷一夜物語(シブヤンナイト)(一八〇〇円/集英社)は、SFに限らずホラー、ミステリなどさまざまなジャンルにまたがる著者の作品が楽しめる短篇集。自選作品集だけあって、どれをとってもレベルの高い作品ばかり。作者の初期の短篇は才気走ったプロットの妙で読ませる作品が多かったが、本書に収められた作品では、むしろ何気ない描写の中にこそ凄みが感じられる。円熟した作家の技が存分に堪能できる一冊である。


[書評目次に戻る][トップに戻る]