SFマガジン2002年2月号
●町井登志夫
『今池電波聖ゴミマリア』(一九〇〇円/角川春樹事務所)
●宮部みゆき
『ドリームバスター』(一六〇〇円/徳間書店)
●岬兄悟・大原まり子編
『SFバカ本―天然パラダイス篇』(一二〇〇円/メディアファクトリー)
●瀬名秀明
『虹の天象儀』(三八一円/祥伝社文庫)
●菅浩江
『アイ・アム I am.』(三八一円/祥伝社文庫)
●山田正紀
『日曜日には鼠(ラット)を殺せ』(三八一円/祥伝社文庫)
●田中啓文
『星の国のアリス』(三八一円/祥伝社文庫)
●久美沙織
『いつか海に行ったね』(三八一円/祥伝社文庫)
●鯨統一郎
『CANDY』(三八一円/祥伝社文庫)
まずは第二回小松左京賞受賞作品、町井登志夫
『今池電波聖ゴミマリア』(一九〇〇円/角川春樹事務所)。著者はこれがデビュー作ではなく、一九九七年に『
電脳のイヴ』(講談社X文庫ホワイトハート)で、第三回ホワイトハート大賞優秀賞を受賞している。
ふくれあがった借金により国家財政が破綻した近未来の日本。極端な少子高齢化により年金制度は崩壊、老人はホームレスとなって街にあふれている。少子化を食い止めるために制定された「中絶禁止法」の施行により、ヤミで殺された胎児は悪徳医師に売られ、望まれずに産まれてきた子供たちは虐待されて死んでいく。未来などとうてい信じられない若者たちは金と暴力だけを信じて互いに殺しあう。
ゴミ。老人。犯罪。借金。子供たちのモラルの崩壊。ひどい政治に失業問題。不景気。性的退廃。児童虐待に子殺し。結末近くで登場人物が数え上げるこの世界の問題点は、まさに現代日本が抱えている問題そのものだ。この作品で描かれているのは、日本の現実の延長上にあるきわめてリアルなディストピアなのである。
ちょっと偶然にたよりすぎた展開が気になるし、結末で示される世界像が台詞による暗示だけで終わっているのが少し物足りないけれど、リアルで問題意識に満ちた未来像は衝撃的。ただし、タイトルはさすがに奇をてらいすぎだと思いますが。
宮部みゆき
『ドリームバスター』(一六〇〇円/徳間書店)は、夢の世界を舞台に十六歳のシェンと師匠のマエストロが活躍するアクション・ファンタジーのシリーズ第一作。
意識を肉体から分離して不死を実現する機械の暴走により、被験者の囚人たちが脱走。彼らは意識体となって次元を超え、私たちの世界、しかも夢の中に逃げ込んだ。悪夢の中に巣食い、意識を乗っ取ろうとする彼ら凶悪犯を捕獲するため、夢の中にジャック・インするのが、賞金稼ぎ〈ドリームバスター〉なのだった。
いかにもジャンル・ファンタジー的な設定を使いながらも、こまやかな人物描写で市井の人々のささやかな喜びや哀しみが描かれているのがこの作者らしいところ。ただ、この巻ではまだ設定や登場人物がひととおり紹介されたばかり。次の巻以降の展開に期待したい。
これでもう十一冊目になる岬兄悟・大原まり子編
『SFバカ本―天然パラダイス篇』(一二〇〇円/メディアファクトリー)は、田中啓文、牧野修、小林泰三と、「マンガカルテット」の異名を取る関西在住SF作家のうち三人の作品を収録、いずれ劣らぬ芸達者ぶりが楽しい。そのほか、岬兄悟、島村洋子、松本侑子、森岡浩之の作品を収録。このシリーズを読むたびに思うのだけれど、男性作家と女性作家の「バカ」の解釈の違いが興味深い。ふっきれたバカとどろどろしたバカというか。
最後に、祥伝社の四〇〇円文庫のSF作品をまとめて(以下すべて三八一円/祥伝社文庫)。瀬名秀明
『虹の天象儀』はプラネタリウムをテーマにした、『八月の博物館』に連なる系列の作品。私たちが子供の頃に感じていた、科学や「知ること」に対する素朴な感動を思い出させてくれる小品である。菅浩江
『アイ・アム I am.』は、自意識を持つ介護ロボットの物語。病者へのケアとは何か。人間とロボットの境界はいったいどこにあるのか。そして人間とは何か。やわらかな筆致の中に重い問題を提起した秀作。山田正紀
『日曜日には鼠(ラット)を殺せ』は、恐怖政治の未来世界を舞台に命を賭けた狂騒的なゲームを描いた作品。背景説明をぎりぎりまで削ぎ落とし、ゲームのみに徹した描写が効果を上げている。田中啓文
『星の国のアリス』はリリカルなタイトルに反して田中節全開のグログロなSFホラー。久美沙織
『いつか海に行ったね』は、ホラーと銘打たれているものの、人類が海と昼の光を失うまでを描いたバイオパニックSF。ただし、さすがにこの枚数でパニックものはきつかったのか、特に後半が駆け足すぎて物足りなさが残る。鯨統一郎
『CANDY』はとにかくギャグと駄洒落のみで進行する異色作。読者を選ぶ怪作だけど、個人的には好きです。
(C)風野春樹