11月20日(月) 欠席 木村(淑)、村田
今日、隣のB組との間に戦争が勃発した。原因は、うちのクラスの藤田くんがB組の小原くんを殴ったことだ。藤田くん本人はふざけてしたことだと言っているが、小原くんはそうは思わなかったらしい。そのことでは確かに藤田くんに非がある。でも、三時間目と四時間目の間の休み時間に、B組はいきなり攻撃を仕掛けてきた。これはきたないと思う。結局、B組のクラス委員の高桑くんが宣戦を布告したのはようやく昼休みが始まったころだった。すぐにぼくたちは臨時ホームルームを召集して、対策を練ることにした。
戦争については、賛成二十三人、反対十二人、棄権六人だったので、多数決により、受けて立つことに決めた。萩本さんの意見により、内政委員、外務委員の二つの委員を選出することにした。自薦により、内政委員は藤井くん、外務委員は推薦で萩本さんに決まった。
早速、放課後に萩本さんがB組に折返し宣戦を布告した。
もちろん、戦争のことは先生には内緒だ。
11月21日(火) 欠席 村田
朝、授業が始まる前に、B組の奇襲があった。幸い死傷者はなかったものの、黒板消し一個と、チョーク数本が損傷した。お返しに津田くんを工作員としてB組に送り込んだ。津田くんは破壊活動を立派に成功させて無傷で戻って来た。昼休みの臨時ホームルームで、ぼくは津田くんに勲章を与える議題を提出した。議題は三十対十一で可決され、津田くんには花十字勲章が贈られた。
そのあとで、来週の球技大会の各競技の選手を決めた。競技ごとに参加希望者をつのったが、なかなか決まらず大変だった。
11月22日(水) 欠席 柏木、福島、村田
ホームルームの最中に敵の攻撃があった。でも、攻撃の予定はすでにわかっていたので、待ち伏せ部隊がすぐに撃退した。
スパイの役目を果たした油上さんにはうさぎ十字勲章が贈られた。油上さんは、B組の都丸くんと仲がいいので、B組の情報をいちはやく手にすることができるのだ。
放課後には、先生に言われたので、萩本さんと一緒に村田くんの家に行った。何度か呼びかけたのだが、村田くんは結局一度も部屋から出てこようとはしなかった。部屋の中から、「帰れよ。みんな死んじまえばいいんだ」などと叫ぶ声が聞こえてきた。村田くんのお母さんはぼくたちに向かって何度も「ごめんなさいね」と謝っていた。たしかに以前みんなでちょっとからかったことはあるが、村田くんがこんなに気にしていたとは知らなかった。反省している。
11月24日(金) 欠席 松島、村田
外務委員の萩本さんがA組に向かった。A組と軍事同盟を結んで、B組への挟撃体勢を取るためだ。でも、A組は同盟には難色を示し、結局同盟締結はならなかった。萩本さんは責任を感じたらしく、辞任したいと発言した。でも、ホームルームでの投票では三十二人もの人が留任を希望していることがわかり、萩本さんも自信を取り戻したようだ。よかった。
11月25日(土) 欠席 村田
三時間目の国語の授業が始まる直前に、驚くべきニュースが飛び込んで来た。B組とA組が不可侵条約を結んだそうだ。きっと昨日のうちからB組は根回しをしておいたのだろう。だからうちのクラスの同盟の申し込みは断られたのだ。
急いで萩本さんをD組に派遣したが、どうもD組は永世中立を守りたい意向のようで、同盟は難しそうとの感触だという。どうしたらいいのだろう。
11月27日(月) 欠席 柏木、村田
B組から特使が派遣されてきた。球技大会のある今週の金曜一日だけは休戦にしよう、との高桑くんからの提案だった。萩本さんと協議して、提案を受諾することに決めた。これで心おきなく練習に打ち込める。
11月28日(火) 欠席 柏木、萩本、村田
萩本さんは風邪をひいて休みだ。急遽ぼくがクラス委員兼外務委員代理として、各クラスを回ることになった。二年の中での条約締結は難しそうなので、一年と三年を当たることにした。
結果は、すべてだめだった。一年B組のクラス委員は、二年B組のクラス委員高桑くんの弟なので、初めからあきらめていたが、C組、D組くらいは同盟に参加すると思っていたのに、意外だった。三年のクラスも回ったが、相手にもされなかった。やはり、受験で忙しいからだろう。
クラスに戻ると、B組が一年B組と同盟を結んだとの報せを聞いた。
11月29日(水) 欠席 村田
萩本さんは、今日は出席している。病み上がりだというのに、外務委員として精力的に動き回ってくれた。
昼休みに、萩本さんはぼくが果たせなかった条約を締結するために、一年の教室に向かった。休みの終わりごろ戻ってきた萩本さんは、驚いたことに三枚の書類を手にしていた。A組、C組、D組がうちのクラスとの不可侵条約に調印したのである。目を丸くするぼくに、萩本さんは笑って、バレー部には一年生の後輩が多いから、と言った。ぼくは恥ずかしくなった。
萩本さんには、全クラス一致で、パンダ十字勲章が贈られた。
そのあと、飼育係の木村さんから、ウサギの赤ちゃんが五匹生まれたとの報告があった。みんなで飼育小屋へ見に行ったが、すごくかわいい。名前はまだ決まっていない。
11月30日(木) 欠席 萩本、林、村田
萩本さんは休みだ。やはりきのう無理をしたのがいけなかったのだろうか。早く元気になって欲しい。
物理部の阿蘇くんは、授業中に教科書の陰で新兵器、教室間弾道弾を製作している。もう八割がた出来上がっているという。完成が楽しみだ。生物部の徳永くんも、生物兵器の交配実験を行っている。まさにいまや、挙組一致、三十八人(欠席三)火の玉の心構えで、戦時体制が敷かれている。でも、鈍感な担任の山本先生は、まだ少しも気づいてはいない。B組の担任も、「何か雰囲気が変だぞ」くらいしか言わなかったそうだから、似たようなものだ。
いよいよ明日は球技大会。楽しみだ。
12月1日(金) 欠席 村田
今日は球技大会だ。以前からの約束通り、今日一日だけは休戦が守られている。大会の結果は、C組が優勝、B組は三位だった。戦争もこの結果の通りになればいいのだが。
明日からはまた戦争だ。がんばらなければ。
12月2日(土) 欠席 風野、村田
残念なニュースを記さなければならない。今日、敵のスパイが見つかったのだ。スパイは、驚いたことに、いままで情報源として働いてくれていた油上さんだ。油上さんがB組の都丸くんに情報をリークしているところを藤井くんが発見し、萩本さんに密告したのだ。油上さんは二重スパイだったのだ。一週間前に与えられたうさぎ十字勲章は剥奪し、一週間の参戦停止処分を言い渡した。少しかわいそうな気もするが仕方がない。
余談だが、藤井くんは油上さんのことが好きだったらしい。
でも、悪い報せばかりではない。今日、ようやく阿蘇くんの教室間弾道弾轟天号が完成したのだ。でも、まだ弾頭に何を搭載するかは未定だ。
12月4日(月) 欠席 風野、林、村田、油上
徳永くんの生物兵器も完成した。徳永くんはこの兵器を、「靖子ちゃんバージョン2」と名づけた。命名の由来は定かではないが、いかにも威力がありそうだ。阿蘇くんと徳永くんには、ネコ十字勲章が贈られた。
その後ホームルームでは、轟天号にどんな弾頭を載せるかを議題にして議論が行われ、多数決により「靖子ちゃんバージョン2」を搭載することに決定した。
轟天号の発射は明日の午前九時と決まった。
12月5日(火) 欠席 岡田、水谷、村田、油上
午前十時、轟天号は発射された。一時間遅れたのは、エンジン部にトラブルがあったためだ。一時間目の授業の間に、阿蘇くんが教科書の陰で必死で修理して、やっと十時に発射することができた。轟天号は轟音とともに地上を離れ、空の彼方へと飛び去って行った。数時間後にはB組で爆発し、「靖子ちゃんバージョン2」の効果は、明日にも表われることだろう。
残念なニュースもある。ウサギの赤ちゃんが二匹、死んでしまったのだ。飼育係の木村さんは泣いていた。花壇の隅にお墓を作った。
12月6日(水) 欠席 稲邑、風野、水谷、村田、安永、油上
B組の今日の欠席者は十三人だった。学級閉鎖だ。「靖子ちゃんバージョン2」の見事な効果だ。そして、ぼくたちは勝ったのだ。クラス中で、万歳を三唱した。ちょうどその時教室に入って来た数学の岡野先生が「ん? 何を喜んでいるんだ」と、怪訝な顔をした。授業中も、笑いを抑えるのに苦労した。我々は勝ったのだ。勝利を祝い、放課後、誰もいないB組の教室で乾杯した。
12月7日(木) 欠席 稲邑、岡田、風野、木村(恵)、島津、長野、野崎、原田、浜、水谷、村田、油上
不覚だった。B組も生物兵器を完成させていたとは知らなかった。やはりスパイの油上さんを失った痛手は大きかったということだろう。先生が学級閉鎖を告げた途端、隣の教室から歓声が聞こえた。悔しかった。そしてきのうあんなに浮かれた自分が馬鹿らしくなった。(クラス委員代理 萩本筆)
12月8日(金) 欠席 岡田、木村(恵)、野崎、村田、油上
なるべく早いうちにB組と雌雄を決しなくてはならない。わたしは非常事態を宣言し、クラスの統轄権はクラス委員が保有するものとする議題を提出し、可決させた。そしてすぐさま物理部員の阿蘇くんを兵器開発委員長に任命し、核兵器の研究を命じた。同時に生物部の徳永くんには、さらに強力な生物兵器の開発を命じた。
いまや、このクラスの命運はわたし一人が握っている。(クラス委員代理 萩本筆)
12月9日(土) 欠席 岡田、村田
野崎くんは病院に寄ったそうで、遅刻して来た。わたしは野崎くんが学校に現れる前にクラス委員代理からクラス委員に昇格した。
野崎くんは無能だった。これといった政策はひとつも示さず、ただ漫然とクラスを運営していくだけだった。野崎くんがことあるごとに多数決で物事を決めようとするのは、わたしには責任逃れの方便にしか思えなかった。戦時中には民主主義の原則は不用だ。ただ強力な指導者が必要なだけだ。野崎くんはそこをわかろうとはしなかった。だから、二日前のようなことが起きたのだ。わたしがクラス委員になったからには、もう二度とあんな事態は引き起こさない。
12月11日(月) 欠席 村田
久しぶりに、欠席者は一人だけだ。登校拒否の村田くんを除けばゼロだ。まさに本当の挙組一致体制が敷かれたと言えるだろう。
阿蘇くんが中学生に核兵器をつくるなんて不可能だと泣きついて来たので、粛清した。後任の兵器開発委員長には、同じ物理部員の中間くんを任命した。中間くんには、阿蘇くんの後を次いで、明後日までに核兵器を完成させるように命じた。
粛清はやや強硬な手段だったかもしれないが、これによって今まで戦争には無関心だった人たちも、クラスに協力してくれるようになった。長期的にはよいことだったと思う。
12月12日(火) 欠席 阿蘇、村田
B組にいるスパイ河原さんからの情報によると、B組でも核兵器の完成は間近だという。中間くんを急がせる。こちらが先手を取れればいいが。
野崎くんは、再びクラス委員に返り咲こうとしているらしく、不穏な動きが見られるので林さんを監視につけた。野崎くんもまさか幼なじみの林さんがわたしのスパイとは思うまい。
12月13日(水) 欠席 阿蘇、村田
ついに核爆弾ゐ一号が完成した。河原さんは、B組ではまだ核兵器は完成していないと言っているが、信用できるかどうかは疑わしい。河原さんが嘘をついているかもしれないし、そうでなくてもB組側が河原さんをスパイと知って偽の情報を流している可能性もある。敵が核を持っていないという確証がない以上、核を使うわけにはいかない。
野崎くんは、B組の村上くんと内通しているところを林さんに見つかり、即刻逮捕された。かつてのクラス委員がB組のスパイとは、呆れたものだ。野崎くんは処分した。
12月14日(木) 欠席 阿蘇、野崎、村田
きのうと同じく、にらみあいの状態が続いている。自分でも焦っているのがわかる。たぶん、B組のクラス委員高桑くんも焦っているのだろう。
12月15日(金) 欠席 阿蘇、野崎、村田
男子の間で、阿蘇くん、野崎くんの処分について不満の声が上がっているという。ああ見えても野崎くんは男子の間では人気があったらしい。
馬鹿な話だ。男子はみんな無能だ。そんな瑣末なことより、B組との戦争の方が大事だと、どうしてわからないのだろう。
12月16日(土) 欠席 阿蘇、野崎、村田
新たに核ミサイルゑ二号、を三号が完成し、配備された。今や、確実に敵も核を保有しているはずだ。
また、徳永くんの生物兵器「美穂ちゃんA」も完成し、教室間弾道弾に搭載された。製作者の徳永くんによると、このウィルスは、一瞬にして敵を全滅させられるほど強力だと言う。それにしても、相変わらず徳永くんの兵器の命名法はよくわからない。
だんだんと緊張が高まって来ている。この緊張が張り詰めたときに訪れるのは、どちらの勝利であろうか。
12月18日(月) 欠席 阿蘇、野崎、村田
敵の動きはない。平穏。
体育の着替えのときに男子全員を処分した。
徳永くんの新しい生物兵器の効果はすばらしい。
後始末は女子全員で行った。泣きじゃくる子もいたが、そういう人はクラスのために何かしよう、という気持ちがまるでないのだ。まったく、あきれてしまう。
これでもう、反対派はいない。
12月19日(火) 欠席22名
敵の動きはない。
きのうの処分はあまりにも強行だとして、林さんたちが抗議をしてきた。ほかの女子たちも口々に不満を訴えている。
本当にうるさくていらいらする。女子ならばわかってくれるものかと思っていたが、失望した。
12月20日(水) 欠席43名
今日は終業式だ。
敵の攻撃はない。本当にいらいらする。
頭が痛い。なぜB組は攻撃を仕掛けてこないのだろう。こちらをいらだたせる作戦だろうか。発射ボタンに手をかけたまま、ずっと待っているというのに。
教室の外がざわざわとうるさい。何があったというのだろう。
頭が痛い。頭の中に砂が入っているような音がする。それとも誰かのささやき声だろうか。
そういえば、朝からずっとけたたましいサイレンが響いている。校庭には何台かパトカーが止まっている。たくさんの人が集まって、みんなこちらを見ている。大きなカメラを持っている人たちもいる。その後ろにいるのは、パパとママ。なぜ両親が学校に来ているのだろう。
本当に、どうしたのだろう。終業式だからだろうか。
「武器を持った少女が教室にたてこもり……」
マイクを持った女性がカメラに向かって話しているのが聞こえる。私のことだろうか。おかしくて思わず笑ってしまう。まったく、今は戦争中だというのに、どうして誰も気づかないのだろう。
あまりうるさくて気になるのでカーテンをしめ、さらにロッカーを動かして窓をふさいだ。それでもどこからか聞こえてくるざわめきがきりきりと頭に響く。
それにしても、ほかの人たちはどうしたのだろう。いくら今日は授業がないからといって、誰も来ないというのはおかしい。私を馬鹿にしているとしか思えない。
同じクラスの人たちも、教室の外の人たちも、B組の人たちも、みんな私を馬鹿にしている。(五文字不明)。腹が立つ。私は馬鹿にされたまま引っ込んでいるような人間ではない。それを知らせてやらなければわからせてやらなければ私がクラス委員になったからには野崎くんは無能だわからせてやらなければ頭が痛い誰がクラスを動かしているのかみんな私を私を兵器は使うため先生に気に入られているからといって女子も男子も(二文字不明)も勉強ができるからといって私を罵る声が私きりきりと頭の中誰もわかってはいないのだ無能無能無能無能わからせてやるわからせてやる私(四文字不明)
無能
(以下判読不能)