ループ 鈴木光司 角川書店 98/1/31発行 1600円

 ホラーで始まり、SF風味のホラ話へと続いたシリーズは、バカSFで完結した(笑)。
 いや、まさかこう来るとは誰も予想しなかっただろうなあ。
 といっても、別に斬新なアイディアがあるというわけではなく、古すぎて(特にカオスやフラクタルがポピュラーになった今となっては)SF作家は誰も使わなくなったネタのほこりを払って再利用しているのですね。そこが逆に斬新に感じられたりするのだけれど。今後はこういう小説が増えるのだろうな。
 人工生命のあたりで、瀬名秀明の『BRAIN VALLEY』と響き合う部分があるのだけれど、扱い方は瀬名作品とはまったく対照的。科学的整合性に異様なほどこだわる(結末以外は(笑))『BRAIN VALLEY』と比べると、『ループ』はというと八方破れに近い。それをなんとか説得力のある物語として成立させているのは、ひとえに筆力の勝利なんでしょうね。
 『リング』の続編なんだからホラーだろうとか、SFとしてどうかとか、ジャンルについての変な予断を抱かずに読めば吉。
 私自身の個人的感想としては、『リング』の出来事をことごとく(疑似)科学的に読み替えていった『らせん』がもっとも興味深く、『リング』は、ただのチェーンレターの話としか思えなくて、全然怖くは感じられなかった。『ループ』はその中間くらいかな。

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ブギーポップは笑わない 上遠野浩平 電撃文庫 98/2/25発行 550円

 第4回電撃ゲーム小説大賞受賞作。
 平和だった学園に突如現れた人を喰う魔物。その魔物を倒し、世界の危機を救う。簡単にいってしまえば、これはそんな物語だ。とても陳腐な筋立て。しかし、作者はこの小説を、あらすじを聞いて普通想像するような物語とは全然違うストーリーに仕立てあげている。
 時系列をわざとずらした構成、ひとつの事件をさまざまな人物の視点から語る描き方など、タランティーノの映画を思わせるクールさ。スピーディでサスペンスフル、一見殺伐とした物語展開でありながら、結末は、切なくてしかも希望を感じさせる。このあたりのバランスは見事。
 これは、あるとてつもない事件に巻き込まれた少年と少女たちの物語だ。物語が終わっても、(読者も含め)事件のすべてを見通している人物は誰もいない。それぞれに、不意に自分を襲った事件に対し自分なりの結論をつけるしかないのだ。そして彼らのひとりひとりが、少しずつではあるが成長していく。そんな物語だ。
 多彩な人物を書き分ける手腕といい、玄人好みの凝った構成といい、なかなかのもの。次の作品が待ち遠しい作家がまたひとり誕生した。

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ライズ民間警察機構 フィリップ・K・ディック 森下弓子訳 創元SF文庫 98/1/30発行 720円

 完成原稿でないという点は割り引いて考えても、前半と後半が全然かみ合っていないとか、意識下情報コンピュータはどうなったんだとか、フレイアとラクマエルはいつ愛し合うようになったんだとか、難点はいくらでもある小説である。
 そういう不満を感じる人は決して少なくないと思うのだが、解説で牧眞司氏が「見当違い」として前もって封じてしまっているので、なんだかそういうところをあげつらうのは、ディックの読者にあるまじきことのような気になってしまう。
 私には、不満を感じる方が読者として普通の反応だと思うのだけどなあ。
 どんなジャンルにもカルト的な人気を得ている作家がいて(ラヴクラフトとかディクスン・カーとか)、その作家の書いたものなら何でもありがたがるという人たちがいるけど、私にはとてもその気にはなれない。ディックにしたって、『ユービック』や『火星のタイムスリップ』は文句なしの傑作だと思うけど、駄作はあくまで駄作でしょ。まあ、ただの駄作を逸脱した部分があることは確かなんだけど……。

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