週刊読書人2005年5月
●エドモンド・ハミルトン
『反対進化』(創元SF文庫)
●ウィル・マッカーシイ
『アグレッサー・シックス』(ハヤカワ文庫SF)
●片理誠
『終末の海 Mysterious Ark』(徳間書店)
エドモンド・ハミルトンといえば、〈キャプテン・フューチャー〉シリーズなどで有名なスペース・オペラ作家だが、実は短篇も、というか短篇の方がむしろ面白い。もちろん一九三〇〜四〇年代に活躍した作家だけに古さは否めないのだけれども、その古さが今では逆に味になっているし、読みやすさとストーリーテリングは一流。さらにスペースオペラ全盛の当時に書かれたとは思えないほどの内省的な視点がきらりと光るのである。
『反対進化』(創元SF文庫)は、そんなハミルトンの傑作短篇を集めた日本版オリジナルの短篇集。宇宙膨張の驚くべき理由が明かされる「呪われた銀河」、奇怪なゼリー状の生物との遭遇を描く表題作「反対進化」など、全編に通じるのは「人間は世界の中心などではない」というペシミスティックなまなざしである。そのまなざしは晩年にはSFそのものにまで及び、老SF作家の内面を細やかな筆致で描いた傑作「プロ」に至る。
緻密でもなければ洗練されてもいないけれど、常識的な物の見方を少しずらすことで、まったく違う世界が見えてくる、というSF的発想の原点がここにある。昨年出た『
フェッセンデンの宇宙』(河出書房新社)、さらに夏以降に出る予定の怪奇編『生命の湖』とあわせて読めば、短編作家ハミルトンの全貌が見えてくるだろう。
続いて、ウィル・マッカーシイ
『アグレッサー・シックス』(ハヤカワ文庫SF)は、一見単純明快なミリタリーSFに見えて、実は一筋縄ではいかないオフビートな怪作。
ときは西暦三三六六年、突如として強大な異星人が襲いかかってきて、次々と人類の植民惑星を殲滅していく。死者は数十億人に達し、もはや人類は風前の灯火。人類の絶望的な抵抗の一つが「敵情調査班」。後頭部に敵の〈言語中枢網〉を移植して「敵のように考え敵になりきる」六人(人間五人+知性化された犬)一組の特殊部隊である。しかし、敵のように思考し、敵の用いるフウヘ語をしゃべっているあいだに、だんだんと人間離れしていき、全裸で逆立ちして「ええええはえええ#!」とか叫んでみたり、敵軍を「われわれ」と呼んでみたり。そうこうしているうちに、敵は地球に猛攻撃を仕掛けてきてさあ大変。軍事色はあまり強くはなく、むしろ世界と認識の変容を描いたディック的なSFに近い。お世辞にも完成度が高いとはいえないのだけれど、とびきりヘンな話が読みたい、という向きにお薦め。
最後に日本SFを一冊。片理誠
『終末の海 Mysterious Ark』(徳間書店)は、第五回日本SF新人賞佳作入選作。全面核戦争後に漁船で日本を脱出した人々の船が嵐で座礁。彼らの前に巨大な豪華客船が現れる。しかし、客船の調査に向かった大人たちは誰一人として帰ってこない。意を決して客船に乗り込んだ子供たちだったが、船が完全に無人で、航行コンピュータやエンジンも動いていないが、なぜかあるデッキに限っては灯りが点され給湯設備などは動いている。大人たちはいったいどこへいったのか。そしてこの船はいったい何なのか。やがて、子供たちもまた、ひとり、またひとりと姿を消していく。
今どき珍しいほどにストレートな物語にはいささかのこそばゆさと物足りなさも感じるけれど、逆にいえばそこがこの作品の魅力ともいえる。少年の冒険と喪失、そして成長を描いた、昔懐かしいジュヴナイルSFの読み心地が楽しめる作品だ。
(C)風野春樹