週刊読書人2005年1月
小川一水復活の地 (1)(2)(3)(ハヤカワ文庫JA)
上田早夕里ゼウスの檻(角川春樹事務所)
有村とおる暗黒の城(ダーク・キャッスル)(角川春樹事務所)

復活の地 1復活の地 2復活の地〈3〉 台風に水害、震災と、非常に災害が多かったこの一年。特に新潟県中越地震の衝撃は記憶に新しいところだろう。時期が重なったのはもちろん偶然ではあるのだけれど、異星文明を舞台に、震災復興を正面から描いた小川一水の復活の地 (1)(2)(3)(全三巻)が完結した。災害からの復興という、現実的ではあるけれど、複雑すぎてなかなか小説にはしにくいテーマを、SFの手法を使って見事に描ききった作品である。
 王紀四四〇年、強引に惑星統一を果たしたばかりのレンカ帝国の帝都トレンカを大震災が襲う。震災は一瞬にして国家中枢機能を破壊、市民数十万の生命を奪う。皇族で唯一生き延びた内親王スミル姫と、有能だが強引さも目につく若き官僚セイオは、時に協力し、時に対立しながらも共に国家復興のために奔走する。彼らの前に立ちはだかる難局は、既存の政府組織との衝突、陸軍との軋轢、星外列強の干渉、植民地の反乱、復興後をにらんだ諸勢力の駆け引き、強引な復興策に対する市民の不満などなど。
 舞台こそ架空の異星文明ではあるが、阪神大震災の教訓や、関東大震災の時に帝国復興院総裁だった後藤新平の事跡なども参照して、復興のシナリオを精緻にシミュレートしてみせている。非常時における組織のあり方を真摯に問いかけると同時に、軽快なエンタテインメント性も忘れてはいない。現時点での小川一水の最高傑作といっていい力作である。

ゼウスの檻 続いて、ゼウスの檻は、昨年、第四回小松左京賞を受賞した上田早夕里の受賞後第一作。人類が太陽系に進出した未来を舞台に人間の多様性を描いた物語である。生殖医療に関する先進的な実験が行われている木星の宇宙ステーション上の〈特区〉には、男女両性の生殖機能を備えた新人類「ラウンド」が居住している。しかし、人体改造に反対する保守的組織〈生命の器〉は、ステーションにテロリストを送り込む。そんな中、交代要員としてステーションに乗り込んだ警備担当者たちは、従来の人類とは異なる価値観を持つラウンドたちに戸惑いながらも少しずつ交流を深めていく。変化に馴染めないながらも受け入れようとする者と、変化を力ずくで阻止しようとする者。そして争いに困惑する変化した者たち。作者は、異質な文化を持つ人間同士の相互理解と不理解という普遍的なテーマを重厚な筆致で描いている。

暗黒の城(ダーク・キャッスル) そして第五回小松左京賞を受賞したのが、有村とおる暗黒の城(ダーク・キャッスル)。こちらは近未来のゲーム業界を舞台にした、ホラーサスペンスタッチの作品。作者が五九歳と、新人SF作家としては高齢であることが話題になったが、ヴァーチャル・リアリティやカルト宗教など現代的なテーマをうまく取り入れていて、年齢を感じさせない作風である。
 ヴァーチャル・ホラーRPGを制作していたゲーム会社のスタッフが相次いで変死。しかも一人は時速二七〇キロで車を走らせて激突死、もう一人はロシアンルーレットで、とあたかも死を望んでいるかのような死に方だった。事件の真相を追う主人公は、死の恐怖を消す脳外科手術と、十年前に集団自殺事件を起こして消滅したはずのカルト宗教団体の存在を知る……。とにかく面白さは抜群で、物語運びは新人とは思えないほど巧み。それでいてSFならではの哲学的思索も盛り込まれていて、非常に完成度の高いデビュー作である。SFファンだけでなく、より広い読者に読んでほしい作品だ。


[書評目次に戻る][トップに戻る]