週刊読書人2004年8月
瀬名秀明編著ロボット・オペラ(光文社)
八杉将司夢見る猫は、宇宙に眠る(徳間書店)
山本弘トンデモ本?違う、SFだ!(洋泉社)

ロボット・オペラ 今月最大の話題作は、なんといっても瀬名秀明編著によるロボットSFアンソロジーロボット・オペラ(光文社)だろう。瀬名秀明は、すでにロボット研究の現在を取材したノンフィクション『ロボット21世紀』、ロボットSF短篇集『あしたのロボット』と、さまざまな視点からロボットと人間の関係性を考察しているが、本書のテーマはロボットの歴史。古今東西のロボットSFからロボットマンガ、現実のロボット研究までを横断し、ロボットをめぐる人間の想像力の歴史を俯瞰してみせた巨大アンソロジーである。収録作品は、星新一「ボッコちゃん」のような基本的な作品から新鋭作家の最新作、現在では入手困難な作品や、未訳長篇の抜粋まで、ツボを押さえたセレクション。瀬名秀明の書いたロボット通史の部分だけでも一冊の本にできるほどの分量がある上、ロボット研究者や作家らによる解説文まで収められているという念の入れようである。編著者が強調するのは、そもそもロボットという言葉がチャペックの戯曲に由来するように、ロボットをめぐる物語と現実のロボット研究が、互いに刺激を与え合いながら発展してきたということ。そして、物語と科学の関係性といえば、瀬名秀明がデビュー作『パラサイト・イヴ』以来、繰り返し追求してきたテーマでもある。およそロボットに関心のある人ならばすべからく必読の巨大アンソロジーである。

夢見る猫は、宇宙に眠る 八杉将司夢見る猫は、宇宙に眠る(徳間書店)は第五回日本SF新人賞受賞作。医療機器メーカーに勤務するキョウイチは、仕事で立ち寄ったカウンセリングルームでユンという不思議な女性に出会う。キョウイチはユンに惹かれるが、ユンにはすでに婚約者マークがおり、キョウイチは思いを伝えることができない。やがてユンはマークと結婚、開拓途上の火星へと向かうが、その半年後、火星は突如として緑の星へと変貌、地球との交戦が始まる。火星の人々は、ナノマシンを体内に取り込むことにより、思い描いたものを物質化する能力を手にしており、どうやらこの現象にはユンが大きく関わっているらしい……。とにかく、ユンという女性の天真爛漫なキャラクターが魅力的な作品。ナノテクが魔法同然の扱いなのはちょっと納得がいかないし、ストーリー展開にはまだまだ生硬なところも見られるが、ほのかな片想いの物語が一気に全宇宙規模へと広がっていく感覚は圧倒的。次作にも期待したい作家である。

トンデモ本?違う、SFだ! 山本弘トンデモ本?違う、SFだ!(洋泉社)は、と学会会長にして筋金入りのSFマニアでもある著者によるSF紹介本。とはいっても、並大抵の紹介本とは訳が違う。アシモフ、クラークみたいな大家の作品は一編も紹介されていないし、レムやバラード、ディレイニーなど文学的評価の高い作家も一切無視。紹介されているのは、「自転車は生物だった」とか「プロペラ機で火星へ行く」とか、唖然とするようなバカなアイディアに満ちた作品ばっかりなのだ。だいたい、マレイ・ラインスター(SF草創期に活躍したB級の職人作家である)に一章を割いてしまうようなSF紹介本が今まであったろうか? むちゃくちゃ偏ったセレクションなのだけれど、これは明らかに確信犯。ここには、総花的な紹介本や投票によるベストSF本にはない愛と熱気がある。本書は、こんなにおもしろいんだからSFを読め! というアジテーションの書なのである。


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