おお21世紀
西村京太郎 春陽堂サン・ポケット・ブックス(1969年11月25日発行)
「実力をもつ大型新人として大いに注目されている」(カバー裏より)西村京太郎の近未来SF。タイトルどおり、2001年の日本人の生活を描いた小説である。
この本を古本屋で発見したときには、「おお、西村京太郎がSFを書いていたとは」と驚いたのだが、あとで調べてみると本書は『21世紀のブルース』と改題されて角川文庫に収められており、今でも簡単に入手可能。少しがっかり。
1969年に書かれた32年後の未来予測ということで、どんなに珍妙なことが書いてあるのか、と意地の悪い期待をしながら読み始めたのだが、意外や意外、テーマになっているのは地球規模の環境問題と、放送の自由化という、現在にも十分通用する問題。見なおしたぞ、西村京太郎。
主人公になるのは、テレビ局に勤める田島と、その婚約者で海洋学を専攻する大学生朋子の二人。
田島の勤めるテレビ局は、アメリカの3大ネットワークの日本進出を前にして、生き残りを賭けてタレントの囲い込みに走っている。田島は、局が力を入れて売り出そうとしている新人アイドル原田ロミのマネージメントを任されることになる。原田ロミのスリーサイズは93 58 90。巨乳である。実は、21世紀には立体テレビの普及により胸のないタレントは見向きもされず、未曾有の巨乳アイドル時代となっていたのである(笑)。
一方、朋子の方は平凡な日常、平凡な結婚に疑問を抱き、心躍らせるような冒険に憧れている。朋子は若き海洋学のホープ沢田教授の助手となり、北海道に発生した大旱魃の対策に乗り出す。実はこの気象異変、ロシアの行ったある実験による人災なのだった。この実験というのが、ベーリング海峡をせき止めてシベリアを温暖化するという豪快なもの。1969年当時、こういうアイディアが実際にあったんだろうか。
二人とも徐々に仕事上のパートナーに惹かれていくことになるのだが、二人の結婚はいったいどうなるのか……と気を持たせるあたりは大衆小説の常套手段だが、なかなか手馴れた書きっぷり。
中盤のクライマックスは、マグニチュード7.9の東海大地震が首都圏を襲う(静岡あたりに遷都されているらしい)場面。地震の時間や規模を分単位で予測できるようになっているので誰も驚かない、という予測は残念ながら外れてしまったが、地震のスペシャル番組を見ながら田島がもらす感想は、今読んでも、というより今だからこそなかなか鋭いところをついている。
「現実に地震は起きているのに、ほとんどの人が、地震を感じることのない場所で、しかも、地震を見ているんだ。この傾向は、もっと激しくなるよ。そのずれがどんどん大きくなると、いったいどうなるんだろう?」
小説の終わりで、田島はこう語る。
「21世紀のわれわれは、すべてを、災害すらも、ショーにしてしまう能力を身につけた。だが、これは果たして幸福なことだろうか」
もちろん、お正月に月から生中継とか、ヒット曲の詞と曲がコンピュータで作られているとか、はずれた予測も多いのだが、これだけ書けていれば未来予測小説としては及第点なのではないだろうか。
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